第21話唯一の妥協点
「きゃああああ・・・っ!!!誰かあぁぁああ!!!」
「うあああっ、魔物だ、魔物が来たぞおおぉぉおおっ!!」
「い、いや・・・来ないでええぇぇえええ!!」
魔物が門を潜り抜けて雄叫びを上げた次の瞬間から、街の人間達はパニックに陥った。
逃げ惑い、人を押しのけて我先にと少し遠い王宮へと向かっている。
こういう緊急事態だと、人の本質がよく分かる。醜いとは思うものの、悪いとは思わない。私だって同じことをするだろうし。
『・・・さて。』
人間観察はこれくらいにして。そろそろ黒い軍服達を追いかけますか。
私は気配を消したまま、屋根の上へと昇り黒い軍服達を追い掛けた。
・・・それにしても、軍服達はどうやって空を飛んでるんだ?魔法か?
・・・・・・いや、よく見たら背中になんか付けてるな?魔道具ってとこか?
『(ならあれ壊せば落とせるんじゃ?)』
そんな下衆なことを考えついた私は、誰も見てないことをいいことにニヤリと悪役顔負けの笑みを浮かべ、魔法袋から私特製の銃を取り出した。主体は黒だが、金色の線も入っていてオシャレだ。我ながらいい仕事してる。
・・・さて。大丈夫、体ごと撃ち抜いたりしないから。なんたってこの銃に込めるのは弾ではなく魔力。魔力を調整すれば、どんな威力だって撃つことが可能だ。
私は銃に魔力を込め、スッと標準を合わせた。
『(・・・にしても、こいつら何処に向かってるんだ?)』
ま、いっか。後で聞こうと軽く考え、私は魔力弾を放った。
バンバンバン、と3連発で発射し、動きを止める。弾は見事に背中の魔道具のみを撃ち抜き、そして消えた。
そうすると軍服達は下に落下する訳で、うわあああ!!という悲鳴を上げながら落ちていった。それを屋根の上から見下ろしつつ、死んではないよな?なんて考えていると、落ちた軍服達が起き上がってくるのが見えて慌てて下に飛び降りた。
地面に着地すると、コツン、という音が鳴り、流石の軍服達も気が付いたようだ。私の方に顔を向け、貴様は!!と叫んで驚いたように目を見開いた。
・・・・・・知り合いだっけ?いいや知らんな。私の知り合い・・・というか天敵はあのオネェのみだ。
「アーテル様の仇・・・っ!!」
『え、誰???』
心の中で呟いたつもりだったのだが、どうやら声に出ていたらしい。軍服3人が怒り狂ったように叫び出した。うるさいな・・・。
「アーテル様は、”メメントモリ”テネブラエ隊の隊長であらせられる御方だぞ!!」
「俺達にこんなことをして、アーテル様が黙っていないからな!!」
「おい、それよりも早く任務を続行するぞ!!」
・・・アーテルって誰さ。いや、何となくわかる。わかるよ?メメントモリとかテネブラエってのが何かは知らないけど、この黒い軍服達の隊長ってことでいいんだよな?だったらあのオネェしかいないだろ。
しかし・・・敵にこんなこと言うのもなんだけど、こいつら危機感無さすぎないか?普通こんな簡単に身元明かす?
まぁ、いいや。さっさと任務とやらについて吐いてもらって、それを阻止させてもらおう。
『《害毒針(ポイズンポインター)》』
「ぐっ、ぐあああああ!!!」
「な、なにを・・・っ、」
「体が・・・動かない、だと!?」
毒針を打ち込んだんだから動けるわけが無い。少なくともあと数時間はこのままだろうよ。
『さて──────楽しい楽しいお話の時間だよ。』
ニコリ、笑みを浮かべた。3人の悲鳴が重なった瞬間であった。
そして数分後、3人は任務について全てを話した。簡単な事だ。
──────何しろ拷問と尋問は、私の得意分野だからな。
──────────────────
『これでよし、と。』
絶望したような顔で気絶している軍服3人組をロープできつく縛り、路地裏に投げ捨てた。時が来たら捕まえてやる。
お次は・・・真白への連絡だな。真白ならもう分かってる情報だとは思うけど、一応報告しておこう。
『”真白、今大丈夫か?”』
「”いいよ〜。戦いながらでも話せるから。”」
流石。真白の方も一人で大丈夫そうだな。
『”さっき捕らえた軍服達から情報を引き出したから、一応報告。─────狙いは魔力を持たない人間らしい。何に使うかは教えられてないみたいだ。そしてもう1つ、赤い軍服の別働隊が、私達が探してる恩人によって捕らえられた仲間を解放しようとしているらしい。魔物はそれら2つを実行するための陽動ってところか?”』
「”・・・・・・・・・”」
『”?真白、どうかしたのか?”』
「”あぁ、うん。なんでもないよ。ただちょっとねぇ〜・・・厄介なことになったなぁ、と。”」
・・・今の言葉を聞く限り、真白でも読み切れていなかったことがあったのか?どれだ?赤い軍服達のことか?
「”あのさ、吸魔の魔法を掛けた方法について、何か言ってなかった〜?”」
『”あぁ。”メメントモリ”テネブラエ隊の隊長が、早朝四時頃に発動した魔法らしい。確か名前は・・・、”』
「”──────アーテル、でしょ?”」
・・・どうして知っていたんだ?・・・・・・あぁ、もしかして・・・、
『”そうだ。・・・そのアーテルっていうやつは、指名手配犯だったりするのか?”』
「”ピンポーン♪正解だよトモリちゃん。賞金は中金貨だったかなぁ〜。”」
中金貨・・・日本円で言うと1000万円・・・いや高いな?そんなに凶悪な犯罪者なのか?それともこの世界じゃこれが普通なのか?基準が分からないから理解に苦しむな・・・。
「”でも、そっか。これではっきりしたよ。恐らくそのアーテルってやつ、トモリちゃんのことを探して、”」
頭の中で真白の声を聞いていたのだが、近付いてくる嫌な気配に思わず振り返った。
そこにはこの前トラウマを作ってくれやがったあのオネェ、アーテルがいた。
黒い軍服を纏い、ニコニコと機嫌が良さそうに笑っている。
「──────うふふ、見つけたわよォ♪」
『・・・ッ、!!!』
相変わらずの嫌なオーラに冷や汗が零れる。少しLvが上がった今でも、まだこのオネェには到底勝てる気がしなかった。
が、しかし。逃げるくらいは出来るだろうと、オネェに背を向けて走り出した。
「んふふ・・・逃がすと思っているの?」
『!!!』
はっや、いつの間に目の前に・・・やばい、やばいぞこれは。落ち着け、考えろ、なんとかこの場を切り抜けて、
真白の伝心さえ聞こえないくらいにパニックになっていた。嫌な汗が頬を伝い、やがて地面に吸い寄せられるようにして零れ落ちた。
「うふふ・・・・・・安心なさい、あたしはアナタを殺す気は無いの。だって、殺してしまえばあたしに掛けられた呪いは一生解けないもの。」
呪い・・・?もしかして、色欲の・・・。確か色欲の呪いは一度掛かると二度と解除出来ない。例え術者を殺したとしても、呪いは消えない。寧ろ解除する方法がゼロになるという意味で、殺せばおしまいだ。唯一解除できる方法があるとすれば、私を好きになることだけ。
とんだクソ能力だけど、今回だけは助かった。これのお陰でオネェは私を殺せない。
「でも、このまま呪いに掛かったままだといくらあたしでも死んでしまうでしょう?だから───────アナタを攫ってしまおうと思うのよ♪」
『───────────・・・・・・は?』
「あたしはアナタのこと好きじゃないけれど、ずっと傍に置いていればいつかは好きになるかもしれないでしょう?」
こいつは・・・何を言い出すのかと思えば、頭がおかしいのか?敵を、それも呪いを掛けた張本人を好きになるかもしれない?ありえない、ありえないだろう。
『・・・行かないって言ったら?』
「そうねぇ・・・予定を変更して、この国を滅ぼそうかしら♪」
『んなっ、』
そんな簡単に・・・いや、こいつならそれも可能だろうな。それにしても、まさか脅してまで私を連れ帰ろうとするとは。
さてはこいつ、人を好きになったことないな?まぁ、私もないんだけど。
『・・・絶ッ対に行かないからな。恋愛初心者向けの教科書でも読んで勉強してから出直して来い。』
「・・・それで困るのはアナタよ?」
『いいや、私は別に国がいくつ滅ぼうと知ったこっちゃない。明らかに私を害するような奴のところに行くくらいなら、例え国が滅んだとしても逃げ出した方がマシだ。』
自分勝手?自分至上主義なだけだ。悪いか。
というか、思わず本心をぶつけてしまったが・・・と、反応のないオネェを見遣る。
オネェはポカン、として固まっていた。かと思えば、次の瞬間には思いっきり笑い出した。
「あははははははっ!!アナタ我儘すぎるわよ!国が滅ぶって言うのに、ほんと変な子ねェ。」
・・・今なら逃げれるんじゃ?よし逃げよう。そう決意して走り出そうとしたが、またもや阻まれた。
今度はしっかりと両手首を捕まれ、動けなくなった。
助けてくれ真白・・・と内心叫ぶが、伝わるはずもなく。どうにかして逃げようと思案していた所で、何かが変だということに気付いた。
そう、何故かいつもよりも視界がクリアで・・・オネェの顔もよく見えて・・・・・・あれ?
『っ、!!!?!!?』
ふ、ふ、フードがない!脱がされてる!?いつの間に!!
「!!アナタ、すっごく綺麗な顔してるのねェ。これなら好きになれるかも♪」
『ちょ、ま、え?』
目が合ってるんですけど!?あ、こいつには意味無いのか?呪い上乗せされたりしないよね?
『・・・一つ、言いたいことがあるんだけど。』
「何かしら、かわい子ちゃん♪」
『トモリだ。・・・・・・あのさ、お前が死のうとどうなろうと心底どうでもいいんだけどさ、私の呪いで死ぬのだけはやめて欲しいんだよね。だからさっさと私の事好きになって呪い解いて、さっさとどこかで野垂れ死んでくれないか?』
「・・・っ!!・・・・・・それ、呪い解く意味無いわよね?」
『うるさいな、というか腕離せ痛いんだよ。』
「アナタ、わたしが殺さないとわかった途端態度変わってないかしら?現金な子ねェ。」
人間なんてそんなものだよ。もちろん私もな。さて、そろそろ次の場所に行かないと。
『・・・トモリ ミヤシロ、18歳。』
「へっ、ちょっと・・・?」
『魔法属性は酸と毒。見ての通り誰もが見とれる美少女だ。』
「アナタいい性格してるわね?まぁわたしが見てきた中でも1番綺麗だとは思うけどね。ところでどうしていきなりそんなことを?」
どうしてって、そんなの決まってるだろ。
『ふっ、知らないのか?相手を惚れさせるためにはまず自分のことを知ってもらう必要があるんだよ。だから話した。』
「アナタ、ほんっとうに面白いわね?」
『そうだとも、で?どうだ?』
「別に好きにはならないわね。」
けっ、この私の魅力が目に入らないのか?まぁ、そんなものがあるとは思ってないが。
・・・はぁ。・・・・・・父さんの一件以来、呪いのせいで人が死ぬのが怖かった。だからこうして協力までしている。それくらい、私にとっては耐え難いものなのだ。
『・・・よし、契約しないか?』
「何をよ?」
『これからは週一で会おう。そしてその時私はお前を惚れさせられるように頑張るから、お前も頑張って私に惚れてくれ。』
「ちょっと何を言ってるのか分からないわ?というか、それってアナタにメリットあるの?」
『ある。なかったらしない。約束だ、オネェ・・・じゃなくて、アーテル。』
「今の減点ポイントよ?」
チッ、面倒臭いなこのオネェ・・・まぁいいや。その内慣れるだろ。
「はぁ・・・いいわ。週一ね?場所はこちらで指定するわ。連絡も、使い魔を送るようにする。そして、デート中はわたしもアナタに何かをしないと誓うわ。」
『なら交渉成立・・・・・・うん?デート?』
「・・・あら?デートのお約束じゃないのかしら?」
『なっ、え、で、デート・・・なの、か?////』
いやそうなのか?デート・・・デートか・・・初デートがこんなやつだなんて地獄か?
そういえば塚井と出掛けたことがあるが、あれはデートに含まれるのか?頼むから含まれて欲しい。こいつが初デートとか死んでもやだ。
と、そんなことを考えていたのだが、オネェ・・・じゃなくてアーテルの反応がないことを怪訝に思いアーテルの方を向いた。
「・・・・・・・・・っと、?へ?/////////」
『・・・・・・・・・???』
アーテルは何故か顔を真っ赤にしていた。アーテル自身も今気づいたようで、慌てたように顔を隠した。
これは・・・逃げるチャンスか?今なら逃げれるぞ?
『・・・じゃあ、連絡が来るのを待ってるからな。』
「あ、う、うん。そうね、ええ。」
様子が変なことに気が付いたが、逃げるチャンスだったので気にせず走り出した。
その後、アーテルがどうしたのかは知らない。
トモリsideEND
アーテルside
───────いつまで経っても、あの子のことが頭から離れなかった
あの日あの子に出会って、呪いを掛けられてから。何をするにもどこに行くにもいつもあの子が頭の中に現れた。
顔を見たわけでも、特に何を言われた訳でもない。それなのにあの子の一挙一動、一言一句全て覚えてる。
何故かなんてこっちが聞きたいくらいに、まるであの子に染められてしまったみたいに、わたしの心があの子を欲しがった。
例えば会議中も、少しぼーっとしただけであの子のことが頭に浮かぶ。会議に参加していた他の幹部たちには、わたしが会議中に上の空になるのが珍しいのかからかわれたし、いいことなんて何も無い。
それをどうにかしたくて色々と考えていた時だった。あの話が舞い込んできたのは。
どうやら新しい赤の隊長が囚われた部下を取り戻そうと画策しているらしい。そしてそれにはわたしの力が必要だと。
赤から直接頼まれただけだから、仕事でも強制任務でもないし、初めは面倒だと思って断ろうとした。
が、しかし。何の勘が働いたのか、赤が作戦を実行する街・・・首都ヴァイスハイトが少し気になった。だから部下に調べさせてみたわけだけど・・・。
”本日のお昼頃、不審な旅人が2名ヴァイス王国へ入国したそうです。なんでも、身分証を無くしたとかで。”
この話に興味を持ったのは完全に偶然だった。わたしは部下にその旅人2人についてもっと詳しく調べるように言った。
新たな情報が入ったのはその日の夕方だった。部下は、その2人の旅人が冒険者組合に入ったと言った。名前はトモリと真白。
隙が無さすぎて苦労したが、なんとか写真も撮ったということだったので、何の気なしに写真を見た。
そして、わたしは固まった。だってそこには、毎日何百回も思い出してしまうあの子がいたのだから。相変わらずフードを被っているが、間違いなくあの子だと確信した。
わたしはその写真を見てから、あることを決意した。毎日仕事に身が入らないくらいあの子のことを思い出してしまうのなら、いっその事あの子を攫って傍に置いてしまえばいい、と。
正直言って、このままでは色欲の呪いで死ぬとかそんなのはどうでもよかった。だって死んだ方がマシだと思えるくらい、あの子のことが頭から離れないんだから。
いっそ、あの子のことを好きになってしまえばいい。そしたら死ぬこともないし、あの子から解放されることもあるかもしれない。
それからのわたしは早かった。仕事に身が入らなかったのが嘘のように頭が働いた。赤に言ってわたしも作戦に組み込んでもらって、そのついでにあの子を探す。
絶対に捕まえると決意した。わたしの方が強いのだから大丈夫だという確信もあった。そう、余裕だと侮っていたのだ。まさか・・・、まさか、
───────デートの約束だけして、そのまま返してしまうなんて・・・
しかも、デートだと言った時のあの反応。あれは心が崩壊するんじゃないかってくらい心臓がバクバクした。
なんなんだ、あの顔は・・・。そんなことを考える度にまた思い出してしまう。
そう、ついさっきのことなのだ。ついさっきの・・・。
”・・・あら?デートのお約束じゃないのかしら?”
”なっ、え、で、デート・・・なの、か?////”
「・・・・・・・・・・・・はああああ。」
なに?なにあの顔?有り得ない、有り得ないんだけど・・・。
「どうして、こんなに胸がドキドキするの・・・?」
・・・知識としては、一応知ってはいる。が、しかし。あたしがそれと同じかと言うと、それは何がなんでも否定したくなる・・・。
「(・・・確かに顔は悪くない・・・寧ろ自分で言うだけあって美少女ではあったけど。それに性格も面白くて、可愛らしくて、今まで出会った中で1番好きなタイプの人間だ。でも・・・、)」
───────認めない。
この感情が”恋情”だなんて、絶対に認めない。だって、認めてしまえば・・・もうきっと、デートはしてくれなくなる。
せめてあたしの気持ちに整理がつくまでは・・・。
・・・はは、なんだ。こんな自分もいたんだ。
残虐で卑劣、そんな犯罪者がわたしだった。それしかなかった。だけど今、あたしの中で生まれたあたしは、そんなものを抜きにしたわたし。
──────トモリという1人の少女に惚れ込んでしまった、ただの男のあたしだ。
アーテルsideEND
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