第44話ウソツキな狼少年


「トモリちゃ〜ん!ねぇねぇこれ!これ買ってぇ!!」



街に散策に来て数十分。落ち着きのない真白と、エストレアと手を繋いでキョロキョロと辺りを見回す狼少年を連れている私は、既に疲れ果てていた。



唯一手が掛からないのはエストレアだが、エストレアはエストレアで見たいものがあったら自由に見に行くので真白のお守りは期待できない。何よりもエストレアには狼少年を任せてあるのでこれ以上負担を掛けたくない。



せめて真白がもう少し大人しくしてくれれば・・・と真白を見遣る。真白は少し遠くでぶんぶんと手を振り、私が来るのを待っていた。・・・・・・はぁぁぁ。仕方ないな。



つくづく真白に甘いなぁと自覚しつつも、やはりこういう私も嫌いじゃない。他の人に甘々な私は想像できないししたくもないが・・・真白になら、いいと思ってしまうのだから重症だな。



『どれだ?』



真白のいる場所に近付き、どれが欲しいのだと問い掛ける。真白はこれ〜!と元気よく品を指さした。



・・・・・・・・・なんだこれ?ワイングラス??



「これねぇ、ルイン鉱石を加工して出来た希少なワイングラスなんだよ。」



『ルイン鉱石・・・。』



確か少し前、真白と共に洞窟に忍び込んだ時に手に入れた鉱石の名前だな。それにしても・・・このワイングラスは、凄いな。



私でもここまで繊細な加工は不可能だ。一体どうやってここまで細かい加工をしたんだろうか。魔法でも使ったのか?



『・・・・・・・・・・・・、』



加工方法も知りたいが、それよりも。・・・このワイングラスで真白とお酒・・・は無理でもジュースとか飲みながら語り合ったりして・・・うん、アリだな。そうと決まればワイングラスとは別に美味しい葡萄ジュースでも買いに行くか。



そうだ。折角だし、エストレアと狼少年の分のワイングラスもどこかで買おうか。この店にはもうこのワイングラス以外良い感じのものはないし、別の店で買おう。



『すみません、このワイングラスが欲しいんですけど。』



「はい。こちらは2つセットで中銀貨5枚になりますが、いかがでしょうか。」



『はい、購入します。』



私は魔法袋から中銀貨を5枚取り出し、店員に手渡した。店員はお金を受け取ると、ワイングラスを丁寧に包み、綺麗な袋に入れて渡してくれた。



「お待たせいたしました。ご購入ありがとうございます。」



店員から袋を受け取る。すると、横で見ていた真白がその袋を私から取り上げた。



「ボクが持つよ。ふふ、これでジュースを飲み交わすのが楽しみだねぇ。」



『・・・・・・、そうだな。』



真白も同じ気持ちだったのだと知って、思わず頬が緩む。素直に嬉しい・・・けど、なんだか恥ずかしいからこの顔はあまり見られたくないな。



「・・・・・・なに2人でイチャついてるのさ。俺も混ぜてよトモリ。」



「・・・お、おれ・・・も、」



エストレアに狼少年まで。いつの間に後ろに?・・・いや、それよりも。2人もワイングラスが欲しいのだと知れて安心した。これで全員分買える。



『ならば早速買いに行こう。どんな物がいい?』



「・・・・・・そういう意味じゃないんだけど。まぁいいや。」



じゃあどういう意味なんだ、と思ったが、それよりも早く二人の分のワイングラスも買いたかったので、先を急ぐことにした。



適当にふらふらと歩く中で、色々なものを食べ歩いた。パンだったりお肉だったりスイーツだったりと、私の胃が限界を迎えるまで食べまくった。食べすぎで気持ち悪いが、真白を筆頭にみんな嬉しそうだしいいいかと思った。



そして美味しそうな葡萄ジュースも購入し、最後はエストレアと狼少年のワイングラスを買うだけとなった。



「ねぇ、アレなんてど〜う?」



「うーん・・・なんかイマイチ。ちょっとシンプルすぎるかな。」



「じゃああれは〜?」



「あれもちょっと・・・。今度は派手すぎる。」



「ぶぅ〜、エストレアってば我儘だなぁ!」



「我儘じゃないから。譲れないこだわりだし。」



「こだわりが強いって言ってんの〜!」



・・・また喧嘩し始めたな。もう面倒になってきた。



はぁ、とため息をつき、とりあえず狼少年の意見を聞いてみようと狼少年の方を見るが、そこには誰もいない。



あれ?と辺りを見回すと、狼少年は少し寂れたお店の前にいた。



そしてショーウィンドウを覗き込み、キラキラとした目で何かを見つめている。



『何か欲しいものでもあったのか?』



そう言って声を掛けると、狼少年ははっとしたようにこちらを向いた。



「ぇ、えっと・・・あの、」



言いづらそうな狼少年。一体何が欲しかったんだろう、と私もショーウィンドウを覗き込んでみる。



どうやらそこはガラス細工の店らしい。キラキラと輝く水色と黄緑色のワイングラスがあった。



『綺麗なワイングラスだな。これが欲しいのか?』



「ぁ、その、ぇと・・・、」



狼少年は躊躇っていたが、やがて押し負けたのかこくこくと静かに頷いた。



「これ、このいろ・・・あの、おれと・・・えすとれあさんの、めのいろににてる・・・から、」



言われてみれば、ともう一度ワイングラスを見遣る。確かに、似てるな。・・・うん、もうこのワイングラスしかないんじゃないだろうか。



『エストレア、ちょっと来てくれ。』



「!わかった。」



エストレアは私の声に反応し、店の前まで来てくれた。そして、



「わ、綺麗なワイングラス・・・!いいねこれ。しかも、俺と狼少年の目の色と同じだ。」



「へぇ〜。ようやくエストレアが満足するような品が見つかったみたいだね。お手柄だぞ〜狼くん。」



「わ、わ、!」



真白が狼少年の頭を撫でる。狼少年はそれを、嬉しそうに受け入れていた。・・・うん、よかった。だいぶ馴染んだみたいだな。



『・・・じゃ、買ってくるからちょっと待っててくれ。』



「はぁ〜い。」



こうして2人の分のワイングラスもゲットした。そして、もう夕暮れ時だということでそろそろ宿に帰ることにした。



『どうだ、狼少年。楽しかったか?』



「!ぅ、うん・・・たのしかった、ぇと、あの・・・あり、がとう!」



『あぁ。』



狼少年は私が笑顔で頷くと、ぎゅっと握り締めていた手を解き、少し躊躇いながらもそっと手を伸ばした。



その手は私の人差し指を控えめに掴み、やがてキュッと力強く握り締めた。



『・・・、狼少年?』



「あ、ぁの・・・、」



いきなりどうしたんだろう、と思いつつも、狼少年が何かを言おうとしてることが分かったので、じっと話すのを待った。



狼少年は長い沈黙の後、覚悟を決めたのか静かな声で言った。



「・・・て、つないでて・・・ぃい、です、か・・・?」



『・・・!!』



手・・・。別にいいが、何故急に?疑問に思い真白とエストレアの顔を見ると、真白は拗ねたように頬を膨らませており、エストレアはどこか期待するように私を見ていた。



意味がわからなかったのでもう一度狼少年を見ると、狼少年は目をうるうるとさせて上目遣いで私を見ていた。



「だめ・・・ですか?」



『っ!だめじゃない。寧ろ大歓迎だ。』



そう言って狼少年の手を今度は私から握ってやると、狼少年は嬉しそうに顔を緩ませた。



「へへへ・・・ふたりがおれのおやみたい。」



2人・・・そういえばエストレアとも手を繋いでたな?



「それなら俺とトモリは夫婦だね。ね、トモリ?」



『え、あ、うん?』



「ちょっとちょっと!なんでエストレアなの!?ボクでもよくない!?」



「真白は顔立ちに反して言動が子供っぽいから駄目でしょ。」



「子供っぽくないもん!!というか、そう言うエストレアだって下心丸出しじゃん!へっ!精々気分だけでもトモリちゃんの旦那さんを味わっておくことだね!」



「下心丸出しで何が悪いの?それに俺は将来的にトモリの旦那様になるんだよ?気分、じゃなくて未来のための予行練習だから。」



バチバチとヒバナが散る。毎度の事ながらこの2人よく飽きずに喧嘩できるよな。本当は仲がいいのでは?



『・・・こんなとこで喧嘩するな。そろそろ行くぞ。』



私が声を掛けると、2人は渋々歩き始める。全く・・・と呆れていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。



それが狼少年の笑い声だと分かって、バッと狼少年の方を見た。



「ふふ・・・面白いね、2人とも。」



『わ、』



笑った。初めて笑ったんじゃないか?・・・・・・はは、そうか。そっかそっか。・・・こんな風に笑うんだな。



『・・・はは、だろ?2人は面白いんだ。それに・・・とても優しいんだよ。』



「・・・うん。・・・俺、出会えたのがみんなで、よかった。」



『?私も、狼少年に出会えて良かったよ。』



「ありがとう。──────トモリ。」



名前・・・というか、あれ?なんか、喋り方に違和感が・・・、



「───────────ごめんね。」



『は、』



チクリ。何かが掌に、突き刺さった。何が、なんて。知りたくもない。知りたくないけど、どうしたって解ってしまう。



『・・・、おおかみ、しょうね、ん・・・?』



「─────────さようなら。」



目の前に迫る刃のその先に、ドス黒い目をした狼少年が見えた。



そうか。そうだったのか。そもそも前提から、違ってたんだ。



───────────狼少年は・・・ウソツキだ



トモリsideEND



客観side



蹲り、掌を押さえ始めたトモリにすぐ様気付いたのは、当然の如く真白とエストレアであった。



しかしエストレアは動こうとした時点でガクりと崩れ落ちた。トモリと同じように、掌には針が突き刺さっていた。



「ぐっ、どうして・・・ッ、」



「トモリちゃん・・・っ!!」



あと動けるのは真白ただ一人であったが、突如として後ろから頭を殴られたことでバタリと地面に伏した。辛うじて意識はあるが、更に後ろから抑え込まれ、身動きが取れないようだった。



「っ、離せ!トモリちゃん・・・っ!!!」



「静かにしろっ!!」



「ぐぅ・・・っ!」



トモリ達はいつの間にか大勢の兵士に囲まれていた。最初から仕組まれていた。それを悟った真白は、とんでもない勘違いをしていたことに気が付いた。



「ま、さか・・・っ、!!」



真実に気が付いた真白だったが、時既に遅し。トモリ達を囲む兵士達の中心には、狼少年と蹲るトモリがいた。狼少年はどこからか短剣を取り出すと、その切っ先をトモリに向けた。



「トモリ・・・っ!!」



「トモリちゃんッ!!!」



「・・・・・・さようなら。」



狼少年が剣を突き刺そうとした・・・その瞬間。



『──────なるほどな。』



短剣の刃が、真っ二つになった。困惑する周囲と、狼少年。戸惑いながらも、狼少年は尚もトモリを殺そうと短くなった剣を振りかざす。



が、今度はその剣もボロボロと朽ち果てた。狼少年は誰の仕業か悟り、足元で蹲っているトモリを見た。



トモリは笑っていた。ニッコリと、怖いくらいに綺麗に。唇をミカヅキ型にして。



──────────何かを耐えるように



『・・・先に言っておくが、私に毒の類は効かないぞ。』



トモリはそう言うと、粉々に潰された針を地面に投げ捨てた。



そう、トモリに刺さっていた針に塗られていたのは毒。つまり・・・完全な悪意が、その針には込められていた。



「な、んで・・・、」



『なんで?それはこちらのセリフだが・・・その前に。・・・そこのお前。』



トモリはビシッと真白を抑え込んでいる兵士を指さした。



『汚い手で私の真白に触れるな。・・・不愉快だ。』



「こ、この状況で何を!優位に立っているのはこちらだぞ!」



兵士はそう言って反論したが、トモリは一切聞いた様子もなく、聞こえなかったのか?と首を傾げた。



『触れるな、と言ったんだ。──────とっとと離せ、クソ野郎。』



「なっ、・・・ぐわぁぁあああああぁぁあ!!」



「お、おい!大丈夫か!?いきなり攻撃するなんて卑怯だぞ!!」



途端に血塗れになった兵士は叫びながら地面に倒れ込んだ。その兵士に近付き卑怯だとトモリを糾弾した兵士に続き、他の兵士もトモリを非難する。が、トモリは意に介さず魔力で作られた銃を消した。



そしてスタスタと真白の方まで足を進めると、真白を起こしてぎゅうっと抱き締める。



『・・・大丈夫か、真白。』



「トモリ、ちゃ・・・ん、大丈夫、だよ。」



明らかに大丈夫じゃない真白の様子に、トモリの体は血が沸騰したかのように熱くなった。怒りだ。トモリは完全に、キレていた。



『・・・エストレア。』



「!うん、わかった。」



エストレアはトモリの言いたいことを汲み取ったのか、瞬間移動でトモリ達の傍に来ると、再び瞬間移動を使い別の場所に飛んだ。そこはトモリ達が泊まっていた宿だった。



『真白!』



トモリは安全が確保出来ると、魔法袋からポーションを取り出し真白に飲ませた。エストレアはそれを横目で見ながら、素早く宿を出るために荷物を纏める。



「あはは、大丈夫だよ。もぉ、心配性だなぁ。」



『・・・真白。』



「ん。大丈夫だから、ほら、早く逃げよう。この宿は既に特定されてるから、また追っ手が来るよ。」



『・・・あぁ。エストレアも、これを飲んでおけ。』



トモリはそう言うと、ポーションをエストレアに投げ渡した。エストレアも針を刺されていたため、毒の可能性が高いと踏んだのだ。エストレアはお礼を言ってポーションを飲み干した。



「・・・トモリ、真白、すぐ街を出よう。」



『・・・そうだな。頼む、エストレア。』



「うん。」



そして再再度、瞬間移動を発動する。エストレアは森の中なら大丈夫だろうと、ポラーナハトから数十km離れた森の中に飛んだ。



「ここなら、大丈夫だと思う。」



「・・・・・・トモリちゃん、大丈夫?」



『・・・あぁ。大丈夫だ。』



エストレアと真白は、比較的ダメージが少なかった。身体的なダメージではなく、精神的なダメージだ。2人は大なり小なり狼少年を疑っていた。しかしあの時、あの瞬間、油断していたのは事実。2人はかなりの罪悪感を感じ、トモリとは違う意味で落ち込んでいた。



一方トモリはと言うと、エストレアと真白が思っているほど気にしてはいなかった。寧ろ2人と同じように、2人を危険に晒したことを気にしているのだ。



『(・・・バカみたい。)』



油断しただけでは言い訳にならない、とトモリは自分を責めた。最初から狼少年の話を信じなければ、とさえ思うほど。



「・・・もうみんな気付いてると思うけど。一応、答え合わせしない?」



真白はそう言うと、ゆっくりと岩の上に腰を下ろした。



それに倣いエストレアとトモリも腰を下ろす。最初に口を開いたのは、やはりというか真白だった。



「今思えば、狼くんは”何も言ってない”んだよね。つまり、ボクらだけで狼くんの事情を推測して、勝手に間違えただけ。狼くんは初めから、ボクら・・・というか、トモリちゃんを殺すために近付いてきた。」



「・・・それにしては、最初のあの反応。おかしくない?俺、嘘を見破るのは得意だよ。でも、あの時のあの子、嘘なんてついてなかった。」



『確かに、私もそう思う。』



「ボクもだよ。だから多分・・・あの首に付いてた針。あれは多分、病気の抑制の薬じゃなくて・・・記憶を甦らせるものだったんだと思う。」



なるほど、とトモリは納得した。忘却の”抑制”ではなく記憶の”蘇生”。あの状況で針に塗られた薬は抑制の薬だと間違えるのは仕方がないだろうとトモリは思った。



「病気については、恐らく推測通り。いいや・・・もしかしたら”呪い”なのかも。」



「呪い?」



「そ。元々魔法である呪いに対してなら、魔法の干渉もしやすいだろうし。脳に刻まれた魔法の説明も着く。」



『他の奴隷たちが脳に刻んだ魔法・・・については、本当のことなのか?』



「恐らくね。でも脳に刻まれた魔法よりも、蘇った記憶に残った命令を遂行することを選んだ。」



つまりこういうことだよ、と真白は順序よく狼少年について説明した。要約すると、こういうことになる。



狼少年は国王に気に入られ、国王の奴隷となった。国王は狼少年を可愛がった。しかしそれをよく思わなかったのは他の奴隷。奴隷たちは八つ当たりのように狼少年に暴力を振るった。でも狼少年はそのことを忘れてしまい、覚えてない。



そんな日々が続いたある日、国王は狼少年の記憶がないことに気が付いた。国王はそれを知り、思い付いた。狼少年を殺し屋に仕立て上げれば、簡単に人を殺せるのでは、と。



なぜなら狼少年には忘却の呪いが掛かっている。どんなことでも都合よく忘れてしまう。何も知らない無垢な少年をいきなり殺すような奴はいないだろうと、国王は企んだ。



国王は魔法で記憶の蘇生薬を精製させ、それを狼少年の首輪の内側の針に塗った。後は殺したい相手・・・つまりトモリに狼少年を出会わせ、保護するように仕向ける。余っ程の馬鹿でない限り、狼少年がポラーナハトの方角からやってきたことに気が付くだろう。そしたら自然と、狼少年を送り届けるためにも街を目指す。



街に入ると、バレないようにこっそりと兵士たちに後を付けさせる。そして、ついさっき。トモリ達が油断した瞬間、様子を見ていた兵士が遠隔操作のスイッチを押し、狼少年の首輪の内側の針を首に突き刺した。



すると狼少年は思い出す。自分の使命、自分の役割を。狼少年は暗殺者としてトモリを殺すため、行動した。・・・と、いうことだ。



『・・・でも、そう都合よく記憶が蘇るのか?』



「ピンポイントで一つだけ、は無理だろうけど、ある一定の範囲でなら可能かも。例えば1から5の記憶があるとして。どこにどの記憶があるかなんて分からないでしょ?でも暗殺の命令を思い出させるためには記憶が必要。だったら1から5の全ての記憶を蘇らせればいい。」



『・・・仮にそうだとして、そんな都合のいい薬が本当に存在するとでも?』



「するかもよ?だって──────トモリちゃんは、死んだボクを蘇生したじゃない。」



トモリはその言葉を聞いて、まさか・・・と一つの可能性が頭に浮かんだ。



真白は、トモリが死者を蘇生できたんだから記憶も蘇生できるだろう、ということを言いたいわけじゃなかった。



そしてそれはトモリも分かっていた。唯一首を傾げているのは、トモリが召喚者であることを知らないエストレアだけ。因みにトモリは真白にも話していないのだが、真白は自分で推測していつの間にか答えを導き出していた。



まぁつまるところ、真白はこう言いたいのだ。



──────トモリのように特別特殊な奴らが他にもいるだろう、と。



例えば・・・トモリ以外の召喚者、とか。



「・・・・・・どういう、こと?」



沈黙するトモリに声を掛けたのは、訳が分からないエストレア。エストレアはじっとトモリを見つめていた。



『・・・・・・・・・、』



トモリは話すのを渋っていたが、エストレアの圧に根負けしたのか、ぽつりぽつりと自身のことを話し始めた。



『私は・・・その、所謂召喚者・・・なんだ。つまり・・・勇者たちとは全員、知り合い・・・になる。』



「じゃあ・・・トモリも、勇者なの?」



『いや・・・私は運がいいのか悪いのか、他の奴らとは別の場所に召喚されたんだ。そこが、沈黙の森だ。』



「!!・・・そう、だったんだ。真白はそのことを知ってたんだね。」



「知ってたというか、推測したっていうか〜?だぁってトモリちゃん、この世の人間とは思えない色してるし。多分別の世界の人間だろうなぁとは思ってた。」



「色?」



「ボク、ユニークスキルの影響で全ての生物の色が見えるんだよ。この色はその人の性格とかを表してる。因みにトモリちゃんは黒と綺麗な桃色。エストレアは氷みたいに冷たい水色と、濁った緑色だよ。」



「何その色・・・・・・じゃあ、あの子は?」



あの子。そう言ったエストレアは、少し寂しそうだった。狼少年はかなりエストレアに懐いていたし、寂しさを覚えても仕方がないのかもしれない。



トモリも真白の答えが気になるのか、じっと真白を見ていた。



「──────狼くんにはね・・・色がなかった。」



「ぇ、」



『・・・本当か?』



「うん。・・・最初はね。」



最初は、と言った真白も・・・ほんの少しだが、寂しげな顔をしていた。



「ボクらと過ごすうちに少しずつ、少しずつ、色が生まれ始めたんだよ。エストレアの水色だったり、ボクの白だったり・・・トモリちゃんの、桃色、だったり。」



ボク、それが嬉しくて・・・つい無意識のうちに気を許し始めてた。だから、油断しちゃった。そう言うと、締めくくりに一言ごめん、と零した。



真白が謝る必要なんてない、2人ともそう思っていた。けど、言葉にならない。2人の心の中には、やるせない思いだけがずっと燻っていた。



形は違えど、結局。3人とも狼少年に気を許していたのだ。



『・・・行くぞ。』



「トモリ・・・?」



「一体どこに・・・。」



そんな中、立ち上がり歩き出したのはトモリだった。トモリは困惑する2人を見ると、ふわりと微笑んだ。



『───────────仲間を助けに。』



「・・・ッ!!」



「と、もり・・・、」



堂々と言い放ったトモリの姿は、月に照らされ、美しく輝いていた。



まさしく色欲の女王とでも言うべきその美しさに、2人は息をするのも忘れてただただ魅入っていた。



『殴り込みなら夜の方がいいし、何より早い方がいい。そうだろ?』



「そ、・・・そうだね。」



「・・・うん。」



美しさとは真逆の発言に2人はハッとしたが、そのギャップすらも人を魅了するのだろうか、2人は未だに夢心地であった。



そうして、太陽が沈み夜が訪れた。長い長い奪略戦が、始まったのだった。



客観sideEND

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