第43話報告と考察


晩御飯を終えた後、私達4人は同じ部屋で寛いでいた。狼少年も私たちに慣れてリラックスしてくれているのか、うとうととし始めている。



話をするなら今だ、と感じた。すると同じことを思ったのか、真白がテレパシーを使って話し掛けてきた。



「”やっほ、トモリちゃん。エストレアも。今話いーい?”」



『”問題ない。私も話そうと思ってたから。”』



「”この子の話だよね?”」



この子、というのは狼少年だ。狼少年は何故かエストレアに懐いており、今もエストレアの横の椅子に座っている。



なんとも羨ましくてじっと睨むように見つめると、エストレアは困ったように笑った。



「”あはは!嫉妬がバレバレだよトモリちゃ〜ん。というか、トモリちゃんにはボクがいるでしょ?”」



『”・・・もふもふは別物だろ。”』



「”何それ〜。ほんと可愛いものとか好きだよねぇ。”」



「”・・・それで、本題は?”」



「”あぁ、うん。さっき狼くんの体とか色々調べてみたんだけどね。面白いことが判明したよ〜。”」



『”面白いこと?”』



「”そ。狼くんの首輪ね、内側に隠し針が仕込まれてた。”」



隠し針?つまりその針に記憶を消すような薬が塗られてたってことか?



「”色々話す前に前提として、狼くんの記憶は〈消された〉んじゃなくて、〈消えた〉ってことを頭に置いておいて。んで、話すけどね・・・狼くん、薬とか魔法の影響で記憶が消えた訳じゃなくて───────病気、だと思う。”」



『”なっ、・・・!!病気、だと?”』



「”考えなかった訳じゃないけど・・・なんでそう思ったの?”」



「”うん。さっき話した首輪の隠し針なんだけど、あれにはとある作用のある薬が塗られてたんだ。”」



とある作用・・・?記憶が消える薬、じゃないとしたら・・・病気の治療のための薬、か?



「”多分だけど、病気の進行を抑える薬。つまり記憶を長く保持するための薬。そして大量の怪我に関しては、恐らく子供の犯行だと思う。”」



子供・・・ってまさか、同じ奴隷の子供・・・?だとすると、国王に溺愛され可愛がられている狼少年に嫉妬した他の奴隷が、狼少年に暴力を振るった・・・?



でも狼少年はそのことすら忘れてしまう。だから何をされても狼少年が国王に密告することは無い。とすると、狼少年が国王から逃げたのは本人の意思ではなく、完全に他の奴隷たちの意思。



他の奴隷たちに魔法を刻まれ、自分たちを助けるように仕向けた。この仮説が正しいなら・・・果たして、他の奴隷たちを助けることに意味なんてあるのか。



「”もしかしたら、針に薬を塗るよう指示したのは国王かもね。”」



エストレアの言葉に私も同意する。恐らくそうだろうな。それしか考えられない。



「”国王・・・ってことはまさか、狼くんって国王の奴隷だったの?”」



『”多分、な。”』



まだ本当かは分からない。まぁ、仮に違ったとしてもほぼ仮説は変わらないけど。



「”・・・で〜?どうするのトモリちゃん。本当に奴隷を解放するの?”」



・・・そうだな、助けることに意味は無いかもしれない。が、まだそうだと決めつけるには早い。もっと情報を集めてからでも遅くは無いはず。



『”今のところは様子見、だな。情報が集まるまでは、とりあえず街の散策でもしようか。”』



「”さんせ〜い!ボク食べ歩きしたい!”」



「”俺は雑貨屋に行きたいかな。トモリは?”」



『”私は本屋に行く。ってことで明日から暫くは個人行動でいいか?”』



「「”いやいやいや。”」」



何か問題でもあるのか?それぞれ行きたいところがあるなら個人で動いた方が効率的だろうに。



「”そんなだからモテないんだよトモリちゃん!もっとボクを大切にして!!”」



『”はぁ?ってかモテるモテない関係あるか?”』



それにしても色欲の瞳の保持者に向かってモテないなんて、失礼な話だな。



「”トモリ、一緒に街を散策しようよ。まだ時間はあるんだしさ。”」



・・・仕方ないな。じゃあ4人で散策するか。狼少年の服とかも買わなきゃだし。



『”わかった。分かったからそろそろ寝ないか?流石に眠い。”』



ふわぁ、と欠伸を零す。野宿ばっかりじゃ体が休まらないんだよな。私はスクッと立ち上がり、完全に眠っている狼少年を抱き上げた。



相変わらず軽いなぁと感じつつ、ベッドに狼少年を寝かしてついでに私も同じベッドに横になる。



「ちょっ、トモリ・・・!?」



「トモリちゃん!?」



『なんだよ。』



ベッドが2つしかないんだからこうなるだろ。それともそんなにお互いと寝たくないのか?



「なんで俺が真白と同じベッドなの?トモリが良かった。1億歩譲ってもその少年がいい。でも真白とトモリが一緒に寝るのは嫌だ。」



『我儘か。結局どうしたいんだ。』



「ボクもトモリちゃんと寝たい!エストレアは図体がデカいから邪魔で安眠できないし。1億歩譲って狼くんがいいな〜。・・・いや、やっぱエストレアとトモリちゃんが一緒に寝るのはやだ!」



『お前もか・・・。』



同じこと言ってることに果たして気付いてるのか。似た者同士でいいんじゃないか?



『文句言うなら地面で寝ろ。それか宙にでも浮きながら寝ることだな。』



「ぶぅ〜。しょうがないなぁ。」



「・・・・・・・・・わかった。」



2人はそう言うと、渋々といった様子でベッドに寝転がった。



これでようやく眠れる、と私は目を瞑り、数秒で眠りについたのだった。



──────────────────



『・・・・・・・・・・・・???』



・・・朝か?いや待て・・・。ここはどこだ?あれ、なんか体が痛い・・・。というか、重い?



顔を動かし横を見てみる。左右両方に人がいた。言うまでもなく真白とエストレアなのだが、問題はそこではなく・・・2人とも私に腕やら足やらを乗っけていて重いってことと・・・何故か地面で寝ているということ。



『・・・おい、こら。』



ぐぐぐ、と体を起こそうとするが重すぎて起き上がれない。魔法でもぶっ放すか・・・?



『・・・狼少年、狼少年はいないのか。』



そうだ、と思い出し狼少年を呼ぶ。するとムクっとベッドから起き上がった狼少年。そして何故かムッとした顔でベッドから降りると、こちらに向かって歩いてきた。



『おはよう、とりあえず2人を引き剥がすのを手伝って・・・・・・って、あの・・・狼少年?』



「・・・・・・・・・。」



狼少年は何も言わず、静かに私の上に寝転がった。・・・・・・いや、なんで???



『・・・・・・拗ねてる?』



「・・・・・・・・・。」



拗ねてるのか。仲間外れにされて寂しかったんだな。可愛いけど重いんだよ。物理的に。



拗ねてる狼少年にどいてって言うのもなんかなぁと悩んでいると、狼少年はいつの間にかすぅすぅと寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていた。



・・・・・・なんて運の悪い。私が一体何をしたって言うんだ。



『・・・・・・はぁ。』



ため息をつきつつ、いっそのこと寝てしまおうと目を閉じた。



その数時間後。更に体が痛くなることなど知りもせずに。



─────────────────────



『・・・・・・・・・チッ。』



「ごめんってトモリちゃ〜ん。悪気は無かったんだよ?」



『だからなんだよこちとら全身筋肉痛みたくなってんだぞ。悪気もクソもあるか。反省しろ馬鹿ども。』



最っ悪だ。体が痛すぎて歩くのも一苦労なんだが。なんで私がこんな目に・・・。



「ごめん、トモリ・・・。」



『反省した風に見えても実際反省なんてしてないの知ってるからな。私との体格差を考えてくれ頼むから。』



エストレアは身長高いんだから・・・と睨みつける。しかしエストレアは何故か機嫌良さそうにニコニコしている。



「・・・ごめん、なさい。」



最後は、と狼少年を見る。・・・うん、分かりやすくしゅんとしてんなぁ。耳が垂れてて・・・耳が、もふもふ・・・、



『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・許す。』



「「はぁ!?!?」」



贔屓だ!とか言われても知らないし。元々悪いのは2人だろうが。



「・・・からだ、いたい?」



『・・・・・・大丈夫だ。もう治った。』



泣きそうな狼少年の顔を見て咄嗟に嘘をつくと、後ろから真白に横腹をツンツンと突かれて地面に崩れ落ちた。



『真白・・・??』



「あはは!重症だねぇ〜。」



なぁにが重症だねぇだよ。誰のせいだと思ってんだ馬鹿野郎。



『・・・はぁ。とにかく早く準備して街の散策に行くぞ。狼少年も、これ羽織っておけ。』



魔法袋から私とお揃いのフード付き外套を取り出し、狼少年に投げ渡す。狼少年はそれをキャッチすると、キラキラとした目でそれを羽織った。喜んでくれたみたいで何よりだ。



・・・さてと。みんな準備出来たみたいだし、そろそろ行くか。



私たちは準備を整え、街の散策へと繰り出したのだった。






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