星約の姫君

白亜

色を呑み込む沈黙

第1話運の悪い少女のお話



──────物心つく頃から、私は運が悪かった



「──────ちょっと聞いてんの宮代ミヤシロ!?成瀬ナルセ君達に近づくなって言ってんのよ!!」



例えば、ほら、今だって。私が昼休みにいつも一緒にお昼を食べている友達3人が席を外した途端、これだ。原因と言うなら友達3人の顔が女子ウケが良いというのが理由なのだろうが。



でも、やはり私は何も悪いことなどしていないのだ。と、私は目の前でぎゃあぎゃあとお門違かどちがいもいいところな不満を喚き散らすクラスメイトを見つめて思った。



私は面倒事が嫌いだ。だから、早くこの茶番が終わることを願っていた。しかし女は私の反応を面白くないと感じたのか、私の胸倉ムナグラを力任せに掴んだ。



途端に息苦しくなる。込められる力は段々と強まり、少しずつ自分の足が浮いていくのを感じた。馬鹿力め・・・と目の前の女を睨む。しかし私は長い前髪で目が隠れているため、女は私が睨んでいることに気付いていないらしい。



ならば、と私は分かりやすくため息をついてみた。すると女・・・クラスメイトである国立朱里クニタチアカリは、分かりやすくカッとなり、途端に叫び出した。



「っ、馬鹿にしてんの!?いっつも成瀬君達にび売りやがってっ!!」



うわぁ、女としてどうなのその顔。嫉妬に狂った女って怖いわぁ。というかうるさいし唾飛んでんだけど。はぁ、最悪。



それに他のクラスメイト達も、人間としてどうなの、その態度。ヘラヘラ笑って見てたり、コソコソ陰口叩いてたり、我関せずという態度で傍観ボウカンしていたり。



いじめって、こういうのを言うんだろうな。しかしこれがいじめでも、私は国立やクラスメイトのことを悪くは言えない。私だって逆の立場ならいじめを見て見ぬふりするだろうから。



何故なら、私の一番はいつだって私だから。助けたところで、メリットなんかないし。何より面倒事は避けたいのだ。



こんな最低ドクズの私・・・宮代灯ミヤシロトモリだが、私にだって友達は3人ほどいる。



その3人は、私のことを大切に思ってくれているのだろう。いじめられていると、何度だって助けてくれるから。



・・・あぁ、そろそろかな。この女も、ほんと馬鹿だよね。



『・・・・・・そろそろやめた方がいいんじゃないか?』



「はぁ?助けて欲しいなら土下座しろよブス!!」



いや、ブスはお前の顔だよ国立。私はブスじゃないし。すこーし前髪が長くて顔が隠れてるだけで?どちらかと言うと絶世の美女なのだが、まぁ自画自賛ジガジサンはよしておこう。



それはさておき、国立は本当に馬鹿なのか?私は助けを乞うたわけではなく、警告してあげただけだと言うのに。まさかそれに気づかないとは。呆れるほどの阿呆アホウじゃないか。



「おい、なんか言えよ宮代ッ!!」



その叫び声とともに、国立は私を力任せに壁に押し付けた。まぁ、壁というか窓?しかも窓開いてるし。うわぁ、落ちたら死ぬよこれ。



『・・・ご愁傷さま?』



「はぁ?何言って、「──────何やってんだよ!!!」っ、大政オオマサ君!?」



馬鹿にするようにご愁傷さま、と口にした直後。戸惑う国立に終了のお知らせが届いた。私の友達の一人、大政千隼オオマサチハヤが教室に帰ってきたのだ。彼は怒りの表情で拳を握り締め、教室の扉付近に立っていた。大政は綺麗なストレートの黒髪に茶色の瞳をしており、身長は180cm後半と身長はかなり高い。顔はめちゃくちゃのイケメンで、ワイルドな感じの顔立ち。



その傍には残りの友達2人、塚井柚ツカイユズ成瀬秀弥ナルセシュウヤもいた。塚井は癖毛で長めの茶髪に桃色の瞳をしており、身長は180cm前後と高め。甘いマスクに女ウケの良さそうな綺麗なイケメンである。成瀬は金髪に赤い瞳と、この中では1番目立つ色をしていて、身長は塚井と同じくらい。顔は物凄く綺麗で人形のようだ。



因みに、私の髪は日本人離れした桜色だ。正真正銘地毛である。目の色は金色で、顔は言わずもがな美形。しかし前髪が長すぎるため顔はホトンど隠れている。それには理由があるのだが、まぁこれは後々話すとして。



あーあ、可哀想に。想い人が3人のうち誰か知らないけど、好きな人にこんなミニクい姿を見られるというのはどれだけ恥ずかしいのだろう。私には分からないが、ひとつ言えるとしたら・・・彼女の顔はひたすらに真っ青だ、ということだけ。まぁでもさ─────私に害をなそうとするから悪いんだよ?



精々3人に幻滅されてしまえ。そしてその恋心ごと砕け散ればいいのさ。



あはははは!と心の中で大笑いして悪役のようなことを考えていたのだが。



────────突如として現れた見慣れぬ床の模様に、私の思考はフリーズした。



『ぇ、』



「なにこれ!?」



「っ、んだよこれ!?」



クラスメイト達の慌てたような、パニックにオチイったような声が聞こえてくる。所々から悲鳴のようなものも聞こえるが、気にしている余裕が無いくらいには私も混乱していた。



な、にこれ?この模様・・・ってまさか・・・ゲームとかでよくある、魔法陣ってやつ?



その考えに至り、早々に自分だけでも助かろうと動き出した私だが、体を国立に固定されているため抜け出せない。逃げ出そうと藻掻モガくが、やはりダメだ。



「っ、灯ちゃん!こっちに!!」



「あ、あぁ、おい宮代!こっち来いッ!!」



「宮代さん!!」



3人が私に手を伸ばす。あぁ、1人で逃げようとした私とは大違いだな。本当に、どうしようもなくお人好しなんだから。



ふと、魔法陣が光り始めた。嫌な予感が頭を過り、思わず3人の方に手を伸ばした。



どこまでいっても自己中心的な思考回路に笑いしか零れない。しかし、これが私だ。私は他人のためには動けない。そんな優しさなど、とうの昔に捨てたのだ。



私は国立の手から抜け出し3人の元に走り出す・・・はずだった。



『・・・・・・──────────え?』



──────突如感じる浮遊感と、視界いっぱいに写った青空、そして視線の下にいる、国立の嘲笑アザワラうような顔。



あぁ、やられた。やはりどこまでも、私は運が悪いらしい。



痛みを覚悟し目をツムる。───────その時私の脳裏には、泣きそうな顔をした3人がぎった。



──────────────────



『いっ、たぁ!!?』



ドサッ、と容赦なくくる痛みに思わず声を上げる。いや、しかし3階にあった教室から落ちたにしてはそれほど痛くはな・・・い?



『・・・・・・・・・マジか。』



目を開けるとそこは森でした。いや、意味わからん。どこだ、ここ。



・・・少し、状況を整理しよう。私の目の前には森が広がっている。そう、森だ。それも何の音も鳴き声もしない、静かすぎる不気味な森。あと空の色が変だ。



さて、お次は数秒前を思い出してみよう。目を瞑る前、私は確かに学校にいた。いた、筈なのだ。・・・にわかには信じ難いが、これはつまり・・・あれか?



『・・・異世界転生・・・いや召喚か?』



でもまだそうだと決め付けるには早い。例えばそう、ステータスとか見れたりしたら流石に信じざるを得ないけど。・・・いやいや、まさかね。まさか・・・あはは。



『・・・・・・・・・ステータス。』



ないとは思いつつも、好奇心には抗えない。私は周りに誰もいないことを確認してから、ステータスと呟いてみた。すると、なんということだろう。



『・・・・・・うそでしょ。』



ステータス、がでてきた。それはもう、ここが異世界であることを信じざるを得ないというわけで。



軽く目眩のする状況だが、何とか正気を保ってステータスを見てみた。



『えっと?名前はトモリ ミヤシロ・・・名前はそのままなんだな。で、歳は17歳、職業学生、種族人、称号・・・異世界からの召喚者?あぁ、やっぱ召喚なんだ?』



というか、種族という項目があるということは、獣人とか魔族とか居るってことでいいのかな。あぁ、いいな獣人。いや待って、もふもふふわふわした魔物とかいないかな?いたら仲間にしよ。それはさておき、続きを見てみよう。



『所持金は0・・・0?え、待って。ねぇ待って!?私の通帳にいくらあったと思ってんの!?一生遊んで暮らしてもまだ余るくらいには稼いでたのに!!なんならその余ったお金で高級車何十台も買えるよ!?ふっざけんなよクソ!!』



はぁ、はぁ・・・つい荒ぶってしまった。でもほんとにお金大事。お金があれば人だって買えるんだよ?・・・おっとつい黒い部分が。今のは忘れて欲しい。でもこの世界にも人身売買とか奴隷売買とかあるよ?絶対。



ゴホン・・・話は逸れたが続きを見ようか。えぇっと・・・?



『状態異常・・・絶運ゼツウンの呪い?・・・はあ?』



つまりなに?私の運の悪さって呪いだったの?・・・うん?なんか説明文が・・・ええっと、運が物凄く悪くなる呪い?いや絶運っていう字面で分かるからね?説明いる?



はぁ・・・既に見るのが憂鬱なんだけど。まぁ、いいか。とにかく全部見てしまおう。



『体力1000、魔力2000、攻撃1200、防御900、回避800、運-3000・・・えっ、マイナス?・・・・・・これには触れないでおこう。最後が・・・魅力?5000?・・・一応見てみたけども、これ基準が分からないから高いのか低いのか分からないな。』



・・・あれ、そういえば私以外のクラスメイトは?



気付くのが遅いって?だってどうでも良くて。普通に忘れてたよ。でも、そうか。私、1人で召喚されたのか。



多分最後に窓の外に突き落とされたのが原因だな。・・・これで死んだら国立のこと呪い殺してやる。・・・はぁ。唯一心配なのは友達3人だが・・・まぁ、上手くやるだろう。今は私の事だけ考えよう。



『・・・?スキル?』



スキルなんてあるんだ。いや、そうか。異世界ってそういう世界だっけ。



『ユニークスキル・・・世界で1人しか持つ者が存在しない・・・なるほど?私のは、《灯を与えし者(ルクス)》と《色欲の瞳(ルクスリア)》?ええと、《灯を与えし者(ルクス)》は・・・何かを願ったり、望んだり、助けを求めたり、苦しんだりしている人を助けると、運が上がり、能力も向上する。また願いの大きさによっては珍しいスキルも獲得できる。《色欲の瞳(ルクスリア)》は・・・目が合った者の運を下げ、最後には死に至らしめる。また、術者を好いている者には効かない・・・。か。』



・・・なんか、《色欲の瞳》(ルクスリア)は思い当たる節があるんだけど。というか前髪が長い理由がこれだし。



そう、このスキルは召喚前の私にも備わっていた能力だと思われる。何故なら、私と目が合った人間は例外なく死んだから。



最初の犠牲者は父親だった。その次は親戚達、他にも友達や先生など、とにかく大勢の人が死んだ。



私は呪われてるのだと思って前髪で隠してたんだけど・・・まさか、スキルだったとは。



しかし、召喚前の私でもスキルって持ってるものなのか?不思議なものだな。



まぁ、今はそのことは置いておいて。他のスキルをどんどん見ていこう。



『エクストラスキル・・・アクティブスキルよりも難易度が高く、覚えられる人がごく少人数な魔法。私が覚えてるのは《鑑定(ステータス)》と《解析(アナリシス)》と《言語理解(ランゲージ)》だけか。瞬間移動・・・とかあったら便利なのにな。』



まぁいいや。今あるやつも便利そうではあるし。



『次がパッシブスキル・・・なるほど、常時発動しているスキルのことね。結構多いな?《短剣術》《刀術》《銃術》《格闘》《護身術》《抜刀》《受け流し》《打撃耐性》《刺突耐性》《物理耐性》《毒耐性》《疲労耐性》《恐慌耐性》《孤独耐性》《痛覚耐性》《殺気感知》《気配察知》《危機察知》《害意察知》《暗記》《料理》《話術》《交渉》《拷問》《尋問》・・・えっと?待って待って、召喚前に獲得してた技術しかなくない?えぇ?そういうあれなの?パッシブスキルって。』



やはりスキルというのはよく分からないな。不思議だ。



『よし、最後がアクティブスキルだな。アクティブスキルは、通常攻撃の魔法のこと。初級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法の4つに分けられる。また、初級や中級魔法は全ての種類を集めると統合される。基本属性として魔力属性があり、これは魔力のある人なら誰でも使うことが出来る。魔法には属性があり、基本的には七属性に分けられる。七属性は火、水、風、土、雷、闇、光で構成されている。この7つの魔法を”七大魔法”と呼んだりもする。他にも属性はあるが、極めて希少。属性は1人につき多くても3つしか持てないとされている。・・・なるほどねぇ。で、私のアクティブスキルが・・・《魔力球(チャームボール)》と《隕石(メテオ)》と《害毒雨ポイズンレイン》と《酸性雨(アシッドレイン)》か。・・・こういう異世界召喚系の話って、すっごいチートになったりするものじゃないの?え?このスキル使える?使えないよね?』



なんというか・・・魔法で無双したい人生でした。・・・まぁ、平穏な生活を送りたいから無理か。



それはいいとして・・・とにかくこの森を抜け出し、一刻も早くこの場所についての情報を集めなければ。



そう判断し、私は立ち上がって歩き始めたのだった。



─────────────────────



おかしい。そう思い始めたのは、歩き始めてから5時間ほど経った頃だった。



いくら歩いても、出口らしい出口が見えてこないのだ。普通、森とはこんなにも続いているものなのだろうか。



息絶え絶えに歩き、そして遂に限界を迎えた。そりゃあそうか。5時間も歩いたんだから。



私は最早立ち上がる気力さえ残っていない体を休めるべく木陰に座り、木の幹に背を預けた。



休憩してる今のうちに、情報を整理しておくか。



まずこの世界について。恐らくあの魔法陣とステータスの称号から考えて、召喚というやつで間違いないのだろう。召喚したかったのは・・・恐らくだが、成瀬だろう。なんせ成瀬を中心にして魔法陣が広がっていたから。



・・・もし成瀬のそばに居たら、恐らく面倒事に巻き込まれてただろうな。って考えたら、少しは国立に感謝してやってもいいかもしれない。これから生きていけるかは別として。



『・・・はぁ。』



それにしても疲れたな。もういっそのこと、ここで静かに朽ち果てるのも悪くないかも・・・。



ネガティブな思考回路に陥っていることは気付いていたが、これを止められる気はしない。



どうしようもない状況の中、私は為す術もなくただただ森の空気に呑まれていくのだった。


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