第53話 本踊り②

会場につくと既に多くのチームが集合していた。

色とりどりの衣装を身に纏った集団が四方八方に固まっている。

中には交流があるのだろうか、別のチームメンバー同士でなにやら話し込んでいるグループもあった。


昨日も集合した本会場ではあるが、やはり本踊り当日ということもあり昨日よりも深い緊張感が僕の体にまとわりついていた。


このチーム鳴神で活動するのもあと数時間だ。

数時間後、このステージでパフォーマンスを行ったあと、僕たちは解散する。

そしてそれは僕がナルカミスポーツジムから卒業するのと同義だった。


隣で並び立っていたサムエルがポツリと呟く。

「こわいね」

彼の言葉通り、和やかに集合しているように見える各チームも同じように隠しきれない緊張感をにじみ出していた。


「サムエル、僕ね」

僕は昨日のマーヤとの出来事をサムエルに話そうとした。

なぜだか分からないがサムエルにだけは伝えておかなければと思ったのだ。


サムエルは右手で僕の口をふさいで次の言葉を遮った。

「タロと僕はベストフレンド。わかってる」

口を塞がれながら不思議な気持ちになった。

なんでわかってる?

今朝はマーヤと自然に接していたつもりなのに、気がつく場面なんかあったのかな。


「今日の終わりに。ちゃんときくよ」

サムエルはなおも僕の口を塞ぎ続けていた。

僕はだんだん息が苦しくなって、彼の大きな右手を押し戻した。


「マーヤから聞いたの?」

サムエルはきょとんとした顔をして首をかしげた。


「マーヤ?なんのこと?」

なんとなく意志疎通が噛み合っていないような気がしたが、サムエルとのやり取りでかなり冷静さを取り戻した。


改めてチームメンバーを見回してみる。

よく見ると皆僕以上に緊張していた。


これから始まる本番に対しての不安なのか、高揚なのか。

僕は気を取り直して全員に言葉をかけ始めた。


「本踊りの前に練り踊りですよ。楽しみましょう」

僕が声をかけるとメンバー達の顔色に少しずつ赤みが戻った。


富山さん達にも声をかけた。

例の一件以来富山さんたちはまた富山軍団として行動するようになっていた。

ただし、今度はお金が絡まない、本当の仲間として。


「タロ。お前がキャプテンでよかったよ」


富山さんの言葉はこれまで聞いた彼のどの言葉より僕の体に染み渡った。


車椅子に乗って所在なさげに視線を下に向けるマーヤにも声をかけた。

「どうしたの?マーヤ」

マーヤは少しだけ顔を上にあげると小さな声で囁いた。

「あんたの顔見れない」

マーヤの顔が一瞬で真っ赤になった。

意外な言葉だったので、僕もたじろいだ。


「さっきまで平気だったのに、もう無理。絶対皆に気づかれる」

マーヤは紅潮した頬を手のひらで隠した。

「あんたはなんで平気なの?もしかして本当はチャラかったとか?」


僕も小声で答えた。

「俺だって平気じゃないよ」

マーヤが手のひらの上から両目を鋭くした。

「じゃあ、なんで普通なの?」


「別に気づかれたっていいでしょ。俺達、付き合ってるんだから」


マーヤの目が一瞬で倍くらいの大きさになった。


「タロって時々『俺』っていうよね」


「そう?」


「うん。いつもは『僕』なのに」


「あんまり意識したことないかも」


「私以外に『俺』って使うの、一切禁止する」


マーヤは混乱しているのか、何を言ってるのか全然わからない。


「私、タロのこと思ってた以上に好きみたいだ」


それだけ言うとマーヤはあっちにいけ、とばかりに僕に横顔を見せた。

今朝見たばかりの横顔だった。

なぜかその瞬間、僕は彼女のことを今後絶対に離さないようにしようと思った。



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