第52話 本踊り①

僕は全員に今日のスケジュールを説明した。


午前中は昨日の午後と同じく町中を練り歩きながらパフォーマンスを行う練り踊り。

昼休憩を挟んで14時からいよいよメインステージでの本踊りが予定されている。

この本踊りには明確に優劣がつけられ、今年の優勝チームがここで決定される。

僕たちの出番順は最後から3番目と運営本部から通達されていた。


昨日の前踊りのパフォーマンスがSNSを中心に話題になっていることは、チーム全員が知っていた。

チーム鳴神は去年の優勝チーム「風龍」の演舞よりもその期待値は高くなっているらしく、今年の優勝候補筆頭にまであげられていた。


アクシデントにより主力のマーヤを怪我で欠くが、彼女の代わりを貴島さんが務める。

昨日の猛練習の成果か、彼女の表情には自信が漲っていた。


一つ懸念材料があるとすれば、天気だ。

予報では午前中は快晴となっているが、午後は曇り予報。

もしかすると雨も降ってくるかも知れない。

メインステージは野外ステージ。

雨を防ぐ屋根はない。

そして、僕たちの武器であるナルカミロケットは足場の影響をモロに受ける。

ただでさえ急造のナルカミロケット。

ベストコンディションで挑めないかも知れないという事実はあまりにも大きな不安要素だった。


そんな中でもチームに動揺は一切ない。

どこよりも練習してきた。

その時間と事実が僕たちに揺るぎない自信をもたらしていた。


チーム鳴神は全員揃って本拠地であるナルカミスポーツジムを出発した。

会場に向けて歩き始めた僕たちに大勢のジム関係者が拍手を送ってくれた。


いよいよチーム鳴神の勝負の1日が始まる。

僕はこのチームのキャプテンだ。


チームメンバーと雑談をしながら会場への道を歩く。

皆、この日にかける感情はそれぞれだった。

このメンバーで大舞台に挑めるのがなにより誇らしかった。

ぼんやりと会場が見えてきた。

近づくにつれて鼓動が高くなるのを感じる。

僕たちはもう数時間もしたらあの舞台でいつもの演舞を踊る。

そして順位をつけられる。

ここまでの日々は全て今日という日のためにむけられてきたのだ。


「タロさん、顔めっちゃ怖いですよ」

いつの間に隣を歩いていた貴島さんが苦笑した。

「もっと笑ってないと。楽しみましょうよ」

そっと彼女の手が僕の肩に乗せられた。

不意に僕たちの距離は縮まった。


間近で見る彼女の顔はとても美しい。

昨日とまるで変わらない貴島さん。

なのに、なぜか僕の中での彼女への気持ちはこれまでと同じではなかった。

ふわっと彼女の髪の匂いが香る。

貴島さんは一瞬だけ真顔になって後ろを振り返った。


そこには青木さんに車椅子を押されて前進するマーヤの姿があった。


彼女は黙ったまま、またすぐに笑顔を作った。

「今日は大切な話がありますからね」


それだけ言うと貴島さんは歩く速度をあげ、前方のメンバーたちに話かけにいった。


会場が近づいてくる。

僕は心の中で見えないスイッチを押した。





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