第48話 お弁当

お互い無言での送迎の最中、彼女がお腹が減ったと言うので僕たちはコンビニに立ち寄った。

ぼんやりと黙り混むマーヤを車に残し、一人でお弁当を探しにいった。

途中の衛星用品コーナーで、小さな白い箱が目に入ったのを僕は必死で脳内否定した。


なにを考えているんだ。


気恥ずかしさを感じながらマーヤのお弁当を買った。

なにが言いかわからないので、とりあえず当たり障りのないから揚げのお弁当を選んだ。

ついでに二人分のお茶も買う。

先ほどから喉が異常に渇く。


お会計を終えて車に戻ると、マーヤがやっぱりぼんやりと待っていた。

「お待たせ」

「ありがとう」

それだけの会話を交わして、僕たちはまた無言で家路を急いだ。


渋滞もなくスムーズに彼女のアパート付近まで到着する。

なんとなく住んでいる場所を聞いたことがあるだけだったので、ここからのナビゲーションをマーヤに頼んだ。


「もう少し真っ直ぐいってから、次の信号を左」

僕は心なしかスピードを緩め、指示通りに車を運転する。


「そこの自販機の横を曲がってすぐのアパート」

言われる通り自販機の横を曲がると、こじんまりとしたアパートが見えた。

まだ真新しい。

うちよりも家賃が高そうだ。


「3番って書いてある駐車場に停めて。うちのだから」

地面に白い文字で3と表記されている駐車スペースに車を近づける。

少しだけ前に車体を出し、ギアをバックに入れた。

後方確認しようと左のミラーを見ると、助手席のマーヤと一瞬だけ目があった。


彼女は凄まじい勢いで顔を前にそらした。

ゆっくりと車を停車させる。

無言のドライブが終わった。


彼女を補助するために助手席のドアに回った。

ドアを開けてマーヤがゆっくりと降りてくる。


やはり降りにくいのか、彼女の細い手が僕の腕に掴まった。

むき出しの腕から感じる彼女の体温は嫌でも僕を意識させた。


全く、何を考えているのだろうか。

怪我をしたマーヤを自宅まで送り届けただけだ。

僕とマーヤはただの友人で、それ以上の関係では決してない。

このまま彼女を部屋まで連れて行って、僕はそのまま我が家へ帰宅する。

これから起こる事はそれだけでしかないはずだ。


松葉杖を器用に操り、彼女は自分の部屋まで歩いていった。

僕は無言でマーヤの後ろについて彼女の小さな背中をそっと支えた。


僕たちはNo.3と書かれた部屋の扉の前にたどり着き、マーヤが無言でその鍵を開けた。

ガチャリという無機質な金属音が、宵闇に鳴り響いた。


マーヤがゆっくりと扉を開ける。


「マーヤ、お弁当」

僕は先ほど購入したコンビニ弁当とお茶の入った袋を彼女に差し出した。

彼女はお弁当の入った袋をじっと見つめたあと、ポツリと呟いた。


「お茶くらい、出すからあがっていって」


一瞬、僕の思考が止まった。

思わず彼女の瞳を凝視してしまう。


マーヤは照れたように顔を背けながら言葉を続けた。


「送ってくれたお礼。まだ時間大丈夫でしょ」


僕はゆっくりと頷くと、辿々しい足取りで彼女の部屋に入っていった。





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