ジムにいこう!

ながあき

第0話 これから

 雨上がりの雲間から差し込むんだ夕日がどこか幻想的に僕たちの世界をオレンジ色に染め上げていた。

まるでこれまでの全ての出来事が誰かの描いた脚本であるような、なにか超常的な力が働いているかのような不思議な光景だった。


僕は素直に美しいと思った。

眩しい光の中で、僕は目を凝らしながら周りを見渡してみた。

僕と同じスカイブルーの法被を着たメンバー達が息を潜めながら固まって並んでいる。

その表情は皆それぞれだ。

町田夫妻は二人とも落ち着いている。

木澤さんとリエさんはすごく楽しそうだ。この二人はさすがだ。

サムエルと仁、佐伯さんの顔もよく見える。緊張しているのか少し落ち着きがない。

富山さん達はどんな感じだろうか。僕の位置からは西日でよく見えない。

そして、僕の隣では急な大役を任された貴島さんがまっすぐ前方を見つめている。

彼女はもう覚悟を決めているようだ。

僕はどんな顔をしているのだろう。



終盤に差し掛かった市主催のよさこいソーラン祭り。

ほんの記念参加のつもりだったが、今は参加して本当によかったと思っている。

このチームに加入してから、僕の人生は本当に大きく変わった。

あと数分後に僕達は満員の観客達の前に立つことにる。

今にも駆け出したくなりそうな高揚と緊張を静めようと、僕は何度も深呼吸を繰り返した。

ダメだ。静まらない。


前のチームの演舞が終わったらしい。

僕たちの出番だ。



「次の演舞はナルカミスポーツジムさんです」


スピーカー越しに僕たちのチームが紹介された。

その声を呼び水に、僕達は一斉に走りだした。

ステージに飛び出した瞬間、割れんばかりの大歓声があがる。

野外会場につめかけた多くの人達が僕たちに期待しているんだ。

正確には大技のナルカミロケットに。


観客達の最前列にマーヤの姿を見つけた。

心配そうな、申し訳なさそうな、なんとも形容し難い表情をしている。


そんな顔をしなくても大丈夫。

ナルカミロケットはちゃんと飛ぶよ。


僕たちは練習通りの配置についた。

観客席にいるマーヤも含めて、33人全員がこの会場にちゃんと揃っている。


夕日が眩しい。

でもその眩しさが心地いい。

会場が息を潜めているかのように静まりかえった。

僕達の曲が流れ始め、リエさんがゆっくりと右手を挙げた。

僕も覚悟を決めた。

どういう理由か先ほどよりずいぶん落ち着いている。


老若男女。多種多様なメンバーで編成された僕たちのチームはこのステージの終わりと共に解散だ。

寂しさはあるが、今はこのステージを目いっぱい楽しもう。

もう迷いはない。

仕事のストレスも、煩わしい人間関係も、コントロールできない自分自身も

この時だけはどうだっていい。


生きている。


その素晴らしさを祝福するように僕達は踊り始めた。

ここに至るまでの道程をゆっくりと反芻しながら。

そう、全てはあの夜から始まった。











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