第38話 チーム紹介

 市長の話が終わり、ついによさこいソーラン祭りの前日祭りステージが始まった。

トップバッターは近隣の大学生達で結成されたダンスサークルの演舞だった。

会場には地域の住民たちが観客となって押しかけている。

大学生達の若さ溢れるステージに、反応は上々だ。


僕達の出番は5番目。

もうすぐステージにあがることになる。

僕は高ぶる鼓動を少しでも抑えようと何度も深呼吸していた。

大学生達の演舞に続き、次から次へと出場チームがステージにあがっていく。


ついに四番目のチームが係員に呼び出され、ステージに向かっていった。

あとに控えるチーム鳴神はフォメーションを組んでステージの裏側にスタンバイする。

緊張しているのか、全員が先ほどから無口だ。


中でも最悪なのは間違いなく僕だ。

おそらくダンスのスキルはチーム最下層。

それなのにナルカミロケットの発射台やチーム紹介まで任されている。

心臓が口から飛び出しそうだ。

今すぐここから逃げ出したい気持ちを鉛のような唾にして飲み込み、なんとかおさえつけた。

言いようのない不安。

これが恐怖か、と一人小さく震えた。


その時、僕の右手が暖かい感触に包まれた。

慌てて確認すると、温もりの正体は隣にいるサーヤの左手だった。

僕より少しだけ低い位置にある彼女の瞳が優しく笑いかけた。


「大丈夫。私がついてる」

僕の体に少しずつ力強さが宿りはじめた。

僕とマーヤはそれ以上なにも言わず、手を繋いだまま前を見つめていた。


「次はチーム鳴神さんの登場です。それでは皆さんよろしくお願いします」

司会のお姉さんの声がマイク越しに響き、僕達は誘導通りにステージに歩みを進めた。


ステージに出ると太陽の眩しさと観客の多さに驚いた。

観客達は拍手で僕達を迎えてくれた。

思ったより人数が多い。

僕達が位置についたこたを確認すると、係員がマイクを手渡してきた。

電源の入っていないマイクを握りしめる。

前方にはたくさんの観客達とメンバー達の後ろ姿が見えた。

サーヤが小さく咳払いをする。

僕はマイクの電源を入れた。


「はじめまして。チーム鳴神です」

水を打ったように会場が静まり返った。

彼らに伝えたい。僕達の事を。

チーム鳴神の存在を知ってほしい。

そう思った瞬間、僕は無我夢中で話し始めた。


「チーム鳴神は市内にあるナルカミスポーツジムの会員とスタッフで構成されています。年齢も性別も、仕事だってバラバラです。国籍まで違うメンバーもいます」


メンバー達の背中が途端に大きく見えた。

皆に支えられているような安心感を感じる。

「そんな僕達にも一つだけ共通点があります。それは僕達はナルカミスポーツジムが大好きだということです」


前方に見えるセンターのリエさんが震えている。

そして何度も頷いていた。

「ナルカミスポーツジムは僕達の居場所です。今日は大切な仲間たちと精一杯踊りたいと思います」

少しだけ、言葉が詰まった。

サーヤが小さく「頑張れ」と呟いた。


「生きている。その素晴らしさを、喜びを、楽しさを。少しでもお届けできるように頑張ります。大人だって熱くなれる。誰だってなりたい自分にいつからだってなれる」

ついにリエさんがこちらを振り返った。

その瞳は遠目でもわかるくらいはっきりと濡れている。


「それでは、よろしくお願いします」

マイクの電源を切り、先ほどの係員に返した。

リエさんが大きく息を吸い、右手を掲げた。

これまで何百回と聞いた、僕達の曲が鳴りはじめた。

チーム鳴神は一つの生き物のように一斉に踊りはじめた。



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