第42話 伝説のステージ
十字に並んだ僕達は、お互いを確認し合うように真ん中で手を繋いだ。
マーヤと目があった。
何かを呟きながら彼女が僕達の掌の上に乗った。
サムエル、木澤さん、佐伯さん、そして僕。
全員が素早く息を吸い込んで力を溜めた。
「せーの!」
僕達は一切迷うことなく、サーヤの体を投げあげた。
観客達の驚嘆の声が大きく響く。
マーヤの体はまるで重力を持たないかのように、青い空に舞い上がった。
その姿を見た時に僕の世界から音が消えた。
高く飛び上がったマーヤが最高到達点で足を開く。
今まで見た中で一番キレイなトータッチだ。
空中での役目を終えた彼女は重力を取り戻し、ゆっくりと落下し始めた。
次第に大きくなる彼女の背中はなぜかスローモーションに見えた。
たった今、マーヤがとてつもない大技を決めた。
僕達四人はチーム鳴神の魔法使いを全身を使って受け止めた。
耳をつんざくような歓声が会場に轟いた。
受け止めたマーヤと目があった。
興奮しているのか、その顔は真っ赤に染まっていた。
彼女を受け止めた僕達を覆い隠すように、他のメンバー達がラインダンスを再開する。
「マーヤ」
僕が声をかけると彼女はにっこりと笑った。
「さぁ、ラスト。ポーズ決めよう」
その言葉を合図に僕達はそれぞれの所定の位置に戻った。
音楽が最終盤に差し掛かる。
一際大きな太鼓の音が鳴り響き、チーム鳴神は最後のポーズを決めた。
会場中から割れんばかりな拍手と、歓声があがった。
まるで暴動でも起こったみたいだ。
僕達のステージを観たすべての人間が僕達を讃えている。
中には涙を流している者もいる。
彼らの賞賛に応えるように、僕達は深く一礼した。
「チーム鳴神の皆さん。ありがとうございました」
会場スタッフのアナウンスと共に、僕達はステージから降りていった。
たった数分のステージだったはずなのに、もう自分が行ったチーム紹介のスピーチが思い出せない。
高熱でもでているのだろうか。
意識が朦朧として、足取りがおぼつかない。
僕がステージを降りきると、急にリエさんに抱きしめられた。
温かい感触に驚いて、僕は意識を取り戻した。
「ありがとう」
それだけ言うとリエさんは僕から離れていった。
バックヤードでは出番を終えたチーム鳴神の面々が興奮冷めやらぬ様子でお互いを讃えあっている。
急に背中を叩かれた。
驚いて後ろを振り返ると貴島さんが笑顔で僕を見つめていた。
「タロさん。やりましたね」
「貴島さんもお疲れさま」
後で話がある、と言っていたがなんの話だろうか。
「タロさんのスピーチ。痺れました」
彼女の言葉で先程自分が行ったスピーチを急に思い出して気恥ずかしくなった。
「ちょっとワケわかんなかったかな?」
「そんなことないです。やっぱりかっこよかったです」
それだけ言うと彼女はそっと僕の胸に右手を添えた。
「タロさん」
俯いた貴島さんの顔が紅潮していることに気づいた。
一瞬で覚悟を決めた。
「私ね」
貴島さんの言葉を聞き取れたのはそこまでだった。
彼女の言葉はどこかから響くサムエルの叫び声にかき消された。
「マーヤ!」
声のする方向に目線を向ける。
左足を抑えながらうずくまるマーヤの姿が見えた。
僕はそれ以降、なにも考えることができなくなった。
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