第46話 元商会の護衛達②
○
「私達はどこへ向かっているのでしょうか?」
「お前達が住む部屋だ」
官帽を被った見た目幼女が青いローブを着た女に答える。
暗い通路、壁に等間隔で埋め込まれている石が淡く発光していて不気味な通路だ。
青いローブの女が話しかけて以降、誰も話をせず、少しの息遣いと靴の音、フルプレートアーマーの立てるガチャガチャとした音が響く。
何分か彼らは歩き続けていると光が漏れている扉に着いた。
官帽の幼女は扉を開く。
「ここが?」
「ここは訓練中に寝泊まりする場所の一つだ」
扉の先には談話室のような場所がある。
正方形の低い机を囲む長いソファ。ソファの向かいには大きな鏡があり、部屋全体を映していた。
「早く入れ」
彼らは促され、部屋に入る。
入ってようやく、彼らは部屋の端に五つの扉があることに気が付く。
「一人一部屋で食事は持って行かせる。明日から訓練だ、しっかり休んでおけ」
官帽の幼女はそう言うと、彼らから離れて魔法を使った。空間魔法だ。
来た時同様に赤黒い魔法陣が上下にあらわれ、回転しながら官帽の幼女を挟み込み、テレポートした。
「明日から訓練って言ってたけど、何するんだろう?」
「何でもいい。とりあえず俺達は、訓練が終わるまでここから出られないんだろう?」
彼が言うように、五つの扉と通路の扉しか他へつながる場所がない。
「私達、とんでもない組織に助けられたのでしょうね」
「そうですね。それよりも今は、ブライズを寝かさないと」
揃いの服を着た女二人は、抱えている同じ服の女をソファに寝かせた。オレンジ色の髪がソファに広がり、少し身じろぎをした。
そんなオレンジ髪の女を見て、安心したような微笑みを浮かべる四人。
「無事でよかったな」
「そうですね」
フルプレートアーマーの男と青ローブの言葉を聞いて、揃いの服を着ている二人は顔を見合わせる。
「え? スタラーさんは私達を巻き込んで、攻撃を仕掛けようとしていませんでしたか?」
意識してなのか丁寧な口調で話しかける女。
それに対して気まずそうに笑いかける青ローブ。
「えっと、あの、うーん?」
青ローブはしばらく悩み続けて、フルプレートアーマーの男が答えた。
「ヤルミラは早い内からシュタインなんたらに希望を見出していたんだよ。でも俺よりも契約が厳しくてな、禁止事項が多かったようだ」
「すみませんでした。縛られた状態とはいえ、するべきではありませんでした」
「いや、あ。えと、仕方ないんじゃない。ね、アドレア」
「そ、そうですね。セレスの言う通りだと思います」
彼女達の返答に、申し訳なさよりもうれしさが勝った青ローブは柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。二人とも」
その言葉に二人も似たような笑みを浮かべる。優しさが場を満たしたが、こういう場を乱すのは間の悪い男だ、大抵は。
「俺達、監禁されたんだよな」
不安が場を支配した。
三人が浮かべていた笑みは固まり、目尻の先にあった皺が段々と戻っていく。
「マヌエル、確かにこれからの事は重要でしたが、このタイミングでする話ではありませんよ」
青ローブはフルプレートアーマーの男を冷たい笑みで叱責する。
「す、すまん!」
冷たい笑みに気圧されたのか、すぐに頭を下げて謝るフルプレートアーマーの男。
「間の悪さは前からでしたから、気にはしていません。ですが、確かにこれからどうしましょう?」
「訓練って言ってたよな。シュタなんとかは屋敷を調べるとか言ってたし、説明でも潜入がどうとか?」
大きな溜息を吐く青ローブ。
それを見て、疲れたように笑う二人。
「な、なんだよ?」
「はぁ、これからの私達がどこの、どういう組織に入るかという重要な説明だったんですよ。呆れもします」
「悪かったって。それでどういう訓練するんだよ?」
「暗殺、隠密、基本はこれ二つでしょう。隠密さえできれば情報収集も可能になる為、有用であると証明できるでしょう」
「ほーん。そういうものか」
「とはいえ、シュタイン何某のように直接戦闘もある程度の水準まで鍛えなければならないでしょうね」
「っ‼ え、えっと。あれ、スタラーさん?」
青ローブが訓練の目指すところがどういうところかを三人に話し終わった時、オレンジ髪がソファから話しかけた。
「ブライズ! 体はどう、つらくない?」
「やっと起きた、今度からムチャしちゃダメだよ。ブライズ」
「大丈夫。それよりここは? あのババアは?」
その言葉を待っていたかのように青ローブは微笑み、ゆっくりと答える。
「ババアは死にました。ここはババアを殺した人が所属する組織の部長と呼ばれる人から与えられた部屋です」
「私達、不当な契約から解放されたんですか?」
「そうとも言えますが、新しい組織へ入ることになりました。アボットさんは契約を結んでいませんから、もしかするとここから解放されるかもしれません」
その言葉にオレンジ髪は悲し気な笑みを見せ、ソファに座る。
「みんなが入っているようですし、私も入ります。それに私が助けた人のいる組織なんでしょう? ここから逃げれば助けられたことを後悔しているようなものですから」
「そんなこと思わないよ」
「アドレア、私はそう考えるの、だから気にしないで」
「俺もそういう風に考えちまうから納得してやれ、アドレア」
「アクトンさん、あなたがそう呼ぶことを許していません。アンドレア・ファロン、もしくはファロンと呼んで下さい」
「マヌエル。ともに仕事をしていたとはいえ、そこまで仲を深めていなかったでしょう。性急な男は嫌われますよ」
青ローブがフルプレートアーマーの男にそう言って、冷たい目で見る。
しかし、男の方は気にした様子もなく、誇らしげですらある。
「性急な俺じゃねぇとヤルミラとは結ばれなかったから、いいんだよ」
「「キャーー!」」
「アクトンさん、今、これまでの言動を全て吹き飛ばす男らしさでした」
「へへっ。だろ?」
二人の声援とファロンの評価を受け、少し恥ずかしそうにしている男は、うれしさを隠せず口角が上がりっぱなしだ。
青ローブはフードを被り、手をフルプレートアーマーの男に向けた。
「ん? ヤルミラ?」
「『エアバースト』」
風魔法、エアバースト。
圧縮した空気の球を作り、使用者が指定した方向に解放する魔法。
通常であれば相手を吹き飛ばすほどの威力があるのだが、青ローブは床に転がるくらいの威力しか出さなかった。
「ふー。ヤルミラ、いつもみたいに吹き飛ばされるかと思ったぞ」
「マヌエル。黙ってください」
「えー、いいだろ。どうだ、俺とヤルミラとの出会い聞きたくないか? アボット、ファロン、ギーズ」
その言葉を聞き、三人は勢いよく頷いたが、すぐに青ローブの方へ向いた。
もしかしたら自分達も魔法の標的になるかもしれないと考えたのだろう。
しかし、彼女達が見たのはフードを被り、両手で顔を覆っている青ローブだった。
「そ、そんなこと言わなくても、いいでしょう。マヌエル」
気を取りなおしたのか両手を顔から離して返答する青ローブを見て、彼女達は一斉に声を上げた。
「「「かわいいー!」」」
顔を赤らめ、視線を逸らして、弱々しい反論をする青ローブは男以上に女を惹いた。
彼女達が青ローブの下に集まり、一人となった男はため息を吐き下を見る。
「これからの事、悩んでも仕方ねぇか」
すっきりとした顔で前を向いた男は四人の所に行こうとして、エアバーストで転ばされていた。
結局、その日は青ローブに近づくこと叶わなかった男だった。
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