第41話 商会の護衛達①
周囲の人は思った以上に少なく、誰もが商会近くにいなかった。
「ん?」
悲鳴が上がり、何が起こるか見守っていると、屋敷から赤いローブの護衛らしき者が屋根上に一人出てきた。
岩で半壊した商会からは三人の女性が悲鳴も上げずに道を走っている。
確かに、誰もが悲鳴を上げるとは限らない。だが真顔で走り続ける三人は少し恐ろしい。
屋根上の赤ローブは岩が当たった場所を見て、四人がいる方向に走って行く。
それを確認して俺も屋敷に近づこうとすると、真顔で走っていた三人が止まった。
気になって目を向けると、こちらをじっと見つめている。
気にせず走り出すと、違和感を覚えて『軽業』を意識的に使った。
『身体強化術』
更にスキルを使って跳んだ。
跳んだ直後、三つの岩の球が俺の予想移動箇所に放たれた。足元を通り過ぎる球が屋根に埋まる。
どうにか着地をして後ろを向いた。
いつの間にか屋根上に移動していた三人は、真顔で顔に変化がない。手に持つのは恐らく一種類しか放てない魔銃。
こちらに魔銃を向けて動きを待っている。
腰を落とし、短剣に手を掛けると、違和感がした。
視界の端に俺以外の影が動いている。
『柔軟』
『聴覚把握』
前進しながらスキルを使い、後方の相手を聴覚で把握する。
両手剣を持つ男が飛びかかって切りつけてきているようだ。だから足音も無かったのか。
『加速』
短剣技スキルを三つ使用して、後方からの攻撃を前進して避ける。
魔銃を持つ三人に向かって、避けた勢いのまま一気に近づく。
三人は連射してくるが構わず走り、引き金を引くのを確認して距離の近い一人の所へ滑り込む。
間合いへ捉えられる距離になった。
滑っている姿勢から足を立て、勢いのまま起き上がって前傾に体勢を移行していると、聴覚が後方からの攻撃を感じ取った。
炎の塊が俺の方向に飛んできている。
前の三人と後ろから攻撃している人は仲間じゃないのか?
炎の塊だとすると火魔法だと思うが、物に当たると火が飛散する魔法だったはずだ。
俺へ当たっても、三人にも当たることになる。
速度はそこまででもないようだが、このままなら俺と三人に攻撃が加わるだろう。
間合いに捉えた最も近い一人へ攻撃を仕掛ける。
分かりやすく短剣の切っ先を向け、注意を短剣に向けさせる。近距離になった為、残りの二人は魔銃を使う事を諦めて、俺に近づこうとしている。
二人が来るよりも魔法が飛んでくるよりも早く、制圧する必要がある。
魔銃で右手の短剣を弾こうと攻撃してくる。短剣を逆手に持ち替えて魔銃を受け止め、左手で魔銃を奪う。
腕を拘束され抵抗する女の後ろに回り、飛んでくる火魔法に向けて魔銃を向ける。
どんな魔術が込められているか分からないが、大量に魔力を流し込み引き金を引いた。
聴覚で把握していた視覚外の世界が一瞬消え去り、現れた時には全員が動きを止めていた。
キンキンする耳を触りたい衝動を抑えて、魔法の飛んできた方に目を向ける。
魔法に向けていた魔銃を視界で捉えた相手へ向けた。
両手剣の男と長杖の女。
騎士には劣るが質の良いフルプレートアーマーの男に鮮やかな青色のローブの女。
「おい、お前ら三人。あれは知り合いか?」
「はい」
そんな俺との会話を耳にしたのか、フルプレートアーマーの男はこちらに向けていた両手剣を屋根に突き刺し、大きな身振りで会話に入り込んでくる。
「おいおい、言っちゃダメだろう。一応、仕事仲間なんだからよぉ?」
「キツく言うものではありません。相手に捕まっている状態なのですから、致し方ないでしょう? ただ、それ自体が問題なのですが……」
仕事仲間との関係性が最悪で、見下されている真顔の女三人衆。
そして、情報が漏れていたと思われる、俺。
「お前ら、一体何なんだ?」
大抵の人はこう言っておけば、スラスラ話してくれる。
人数有利で戦力的に上回っているとなれば、時間を浪費しても問題ないと考える。
「そこの三人含めて俺達は、商会長夫妻の護衛だ」
「護衛なら近くにいるべきじゃないのか?」
「商会長を殺しに来るってタレコミがあったんだよ。黒いフード被った集団が来るってよぉ」
素行の悪い冒険者がこういう間延びした話し方をしてるんだよな。
それにしても、この男が話している間に捕まっていない二人は何かをしてくると思ったのだが、全く動かない。
「おい、女。お前、どっちの味方する?」
捕まえているオレンジ髪の女に魔銃を突きつけ、選択を迫る。
「おい、おい! 脅して従わせるなんてよぉ、男の風上にも置けねぇなぁ!」
「金持ちの下でしか、相手に物言えない奴が何を言ってるんだろうなぁ?」
まあ、言い返した所で何が変わるわけでもない。
それに三人含めて相手したところで結果は特に変わらない。魔力の消費量が多くなるくらいだ。
ただ、捨て駒なら俺が有効に使い、暗部の人員不足解消に役立てたいだけだ。それに外部の人間だったなら信頼できるだろう。
「お前ら三人なら、どっちを相手にできる?」
「おうおう! 国を最も潤している商会に楯突くつもりかぁ?」
「おいおい! お前には聞いてないんだよ。両手剣使ってる奴って出しゃばりが多いよなぁ?」
適当に相手を煽りながら、三人に目を向けるが挙動不審で、困惑顔だ。
あの真顔は何だったのか聞きたい。
「三人でも倒せません」
「そ。こっちの味方になる気はあるってことでいいか?」
「い、いえ……」
「おいおい、本当に? あいつらに殺されそうだったじゃん? それでもあっち?」
暗部の人員不足解消の為に力を貸してくれよ。
仕事に次ぐ仕事、そう俺がならない為にこっちへ。
「もういいでしょうか? 仮面を着けている男に誰も助けなど求めませんよ。まとめて焼き払ってしまいましょう」
思わず手を顔にやった。
硬い感触がして、マスクしていたことを思い出す。
「私達は言わば奴隷なんです。契約術によって縛られて、あなたの味方になるなど不可能なんです」
「うわ。男の風上にもってやつだな」
「チッ。俺じゃねぇよ! あのババアが脅して従わせたんだよぉ!」
あれ?
なんかコイツ良い奴じゃないか?
男らしくありたい。そんな心意気を感じるぞ。
「お前もそのババアに従っているのか?」
「チッ、うるせぇ!」
図星だったようだ。
渋面をしている男はこちらを睨みつけてきた。
三人と男を見て、青ローブの女を見る。
俺が青ローブを見ると、男は一瞬だけ寂しげな眼をして青ローブを見て、より強く睨みつけてきた。
「その女も契約術で縛られてるのか?」
「お前には関係ねぇだろぉ!」
「おい、お前ら。どうなんだ?」
男に話をしても仕方ない為、近くの三人に問うとゆっくりと頷いた。
俺が捕らえているオレンジ髪の女が勝手に話を始める。
「そうです。商会長の護衛は実際一人だけで、魔法や魔術に長けたババアなんです。私達三人とあの方達は、都合の良い駒として選ばれた。それだけなんです」
「話す内容に縛りはないんだな?」
「命令は殺す事。殺す相手に何を話しても問題はありません」
その言葉に口元が大きく歪むのを自覚した。
うれしさか、楽しさか。それとも、侮られたことによる怒りか。はっきりしているのは俺自身強制されるのが嫌いだということ。
残念な事は、ここに勇者やその仲間達、世話係達もいない所為でどうにかするのは俺だという事。
「おい、赤いローブがそのババアか?」
「はい。常人では手も足も出ないほどの魔法や魔術の腕があります」
「契約術って、術者殺せば問題ないんだよな?」
「私達に追われながら、出来るとでも?」
正気を疑う青ローブ。その顔を初めて見た。
異常に白い肌、長い耳、隣の男にも劣らぬ身長。光り輝く金髪、耳長族だ。
「縛るものがなけりゃ、俺の味方して情報話してくれるか?」
捕まえているオレンジ髪に問いかける。
「はい」
「おい、耳貸すんじゃねぇ!」
どうして攻撃してこないのか。
耳を貸させたくないのなら、攻撃をして俺を黙らせればいいのに。
「オレンジ髪。鍛冶屋から質の良さそうな刀取ってこい」
拘束していたオレンジ髪の女を開放しながら、両手を広げて長さを示す。
「俺を殺すには、これくらいのが必要だ」
「殺すのに必要とあらば」
そう言って女は王都西側に走って行った。
女を解放したタイミングでこちらに魔銃を構える女二人、攻撃態勢に移行する男と青ローブ。
「よし、お前ら。攻撃はゆっくりだ、東側に向かうぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます