第8話 裏のある騎士

 キンブルも無難に自己紹介を終え、俺は帰ろうとしたのだが、勇者ミノルが話始めた。


「皆、自己紹介ありがとう。僕達の世界の事で質問とかない?」


 身近なものの差異を挙げて話題を作ろうとしているのかもしれない。


「勇者様、勇者様の世界には魔法とかあるんですか?」


 カッターが勇者ミノルに聞くが、伝説の勇者の伝承を読んでいるなら、知っているはずだ。


「ない。あればよかったんだけど。でも本の中で架空のものとしてあったよ」

「勇者様」


 副隊長がそう言った直後に勇者ミノルが遮った。


「ガブリエラ。勇者様禁止」

「ミノル様。物語の中で魔法が出てくるんですか?」

「そう。想像上の物でね。今みたいに異世界に召喚される話もあったよ」

「騎士に関する話はありましたか?」


 騎士達は身を乗り出し聞いていた。質問した副隊長も興味津々だ。


「あったけど、異世界ものなら冒険者になったりする話があったかな。どうだったキヨマ」


 だれ⁉ キヨマって誰?


「縛られる事が好きじゃない人が冒険者になって旅をする話が多かったかな。だよね、なつきちゃん」


 キヨマサ・サトウでキヨマだったみたい。


「う、うん。冒険者って自由そうなイメージあるから。この世界ではどうなんだろう」


 ナツキ・ワタナベは俺に聞こうとしているのか、イトウを見た。


「ベンノさん。冒険者ってどんな仕事してるの?」


 白騎士と赤騎士は目をクワッと開いて俺が何を言うか気になっている。憧れを持たれでもしたら困るのだろう。


「冒険者ってのは何でも屋だ。自分の出来ることと依頼が合えばそれをする。日銭を稼ぐのが精々だろう」

「でも、A級冒険者って聞いたわよ。日銭じゃないのよね」


 ここに来て俺の邪魔をするイツキ・スズキ。スズキは宰相に呼ばれるのが最後の方だったみたいだ。

 冒険者の物語もランク制度があるのだろう。


「俺も聞いたぞ」


 嘘を問い詰めるような口調でヒトシ・タカハシも言ってきた。邪魔をしたいみたいだ。


「確かに日銭じゃないが、危険度は上がる。命を懸けて依頼を完遂して二か月休む。そう言う仕事だ」

「ベンノさんは依頼で旅したりしないの?」

「王都近辺でもA級の依頼はあるから、しないな」

「どういう人が冒険者になるんだ?」


 タカハシ、いい質問だ。


「多いのは騎士になれなかった奴かなぁ。兵士の募集もしてるけど、花形は騎士だからなぁ」


 騎士達はピクッと反応していた。


「騎士の皆さんのお話、聞きたいんだけど、いいかなぁ?」

「私も聞いてみたい」


 俺の援護をイトウがしてくれた。顔を見たが、意図しての事ではなさそうだ。


「私が白騎士となった話をさせてもらおう」


 副隊長の出世話が始まった。

 他の集団が食事を終えて、食堂から出て行く中、続く出世話。

 短くまとめると、盗人を追いかけていると偶然、王都を根城にしていた盗賊団のアジトが見つかり、盗賊団を全員捕えて大出世という事だ。


 実はこの話、俺にも覚えがある。

 暗部がまだ設立されたばかりの頃、人は少なく資金も乏しい状態だった。

 その時に支援者を得るいい機会があると宰相から依頼があった。


 ある騎士の前で盗みを働き、出来るだけ離れそうな位置関係で目的地までたどり着けというものだった。

 ある騎士というのは赤い鎧を着た女だった。

 顔が見えないだろ、と思っていたが兜からはみ出している金髪が目印との事だった。


 肩付近まで届いている金髪を見て、近くの店から果物を盗んだ。

 俺に気付いた騎士は重い鎧なのにも関わらず動き続け、目的地まで到着した。

 俺は目的地が川近くだった為、川に飛び込み逃げ切った。騎士は鎧を着ていて泳げなかった為、断念したが何故か出世したと聞いた。

 目的地が盗賊団のアジトだったとは。


 ということは、副隊長は相当いいとこのお嬢様なのか。

 設立したばかりだったが、暗部は王直属の組織。王がその任務を承認したという事だ。

 任務を覚えていたことにより、出世の裏話を思い出してしまった。


「皆様、夕食はお済でしょうか?」


 長い出世話を聞き終わるとメイドがやってきた。


「はい」

「それでは———」


 そう言ってメイドが盆を持とうとすると。


「いやいや、僕らで持って行くよ」


 勇者がそう言いだした。


「ミノル様、これがメイド達の仕事です。これによって彼女達はお金を得ています。奪わないでください」


 随分とメイドに理解のある副隊長が勇者ミノルを諫めた。


「それはゴメン。それじゃ、お願いするよ。ごちそうさま」


 勇者ミノルは盆を渡しながら、メイドに近づいてそう言った。無意識なのだろうが、とても近い。

 これは……ギルベルタと話するときのネタになりそうだ。

 その勇者を見ながら、スズキは不機嫌そうに顔を顰めている。


「は、はい。え、えっと、お部屋に戻って待機していてください、お風呂の順番が来ましたら着替えを持ってメイドが向かいます」


 急ぎそう言ってメイドは早足で扉に消えていった。


「それじゃあ、皆さん。今日はお休み」


 勇者ミノルはそう言って食堂を出て行った。


「私達も部屋に戻ろうか」


 勇者ミノルに遅れて、他の転移者と一緒に兵舎へ戻った。

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