第7話 自己紹介

「皆、自己紹介をしよう」


 勇者が俺達に向かって提案した。食事が終わったようだ。

 他の場所の人達はすぐに自己紹介を始めたようで、会話が活発になり始めた。


「まずは僕から!」


 しっかりと開いた目から自信と活力を感じさせる。声からは覇気が伝わる。

 身長は俺よりも高く、戦闘をした事なさそうなのに俺より筋肉質だ。


「名前は田中実、こっち風だとミノル・タナカかな? 趣味はバスケ。ここでは勇者って言われてるけど、気軽にミノルって呼んでくれ。次はガブリエラ」


 指名制なのか勇者の隣にいた副隊長が反応した。

 そう言えば騎士達は鎧を着てない。

 副隊長は貴族階級なのだろう、質の良い布の服に金の刺繡がしてあった。


「私の名前はガブリエラ・オハラ。趣味は訓練とお茶。職業は近衛隊副隊長だ。よろしく頼む」

「セルマ・リリーホワイト。公爵家の長女です。特に趣味はないけど魔法が得意です。よろしくお願いします」


 勇者の後に二人続く感じのようだ。

 リリーホワイト公爵家は暗部の最大支援者。

 金銭もそうだが、人を紹介している。

 暗部は仕事上、新人が高確率で死ぬ。嫌なものだが、育て上げた直後に運悪く死ぬことがある。

 公爵家はその時に素早く新人を紹介してくれる。

 どんな手品か分からないが公爵家からの紹介で来る者はやる気に満ち溢れている。

 年齢、性別を問わない暗部としては早いだけでありがたいことだ。


「次、俺な」


 そう言った転移者の男は威圧的な顔で勇者よりも体つきが良かった。冒険者になりたいのなら有望でギルドから優遇されること間違いなしだ。


「俺は、高橋仁進。趣味はない。特技はケンカ。よろしくな!」


 イメージ通りの粗暴さを持った男みたいだ。


「僕は、マルコム・レヴィンズ。生きがいは女性との時間。王都警備隊西方面隊に所属している。女性の皆さん、どうぞ困ったときは何でもお声がけを」


 見た目の良さもあって様になっている男だ。金色の髪はお金を掛けているのかサラサラで、服も見たところ金が掛かっている。

 金と努力を惜しまないんだろう、女性との時間の為に。


「私はメラニー・ジンデルです。趣味はありません。職業はメイドです。皆様、お困りごとがあれま何でもお申しつけ下さい。相応の金額で承ります」


 珍しく眼鏡を掛けているメイドだ。

 眼鏡自体も珍しいがメイドがそれを掛けているのも珍しい。

 俺も最近、部長に触発されてサングラスを買いに行ったのだが、高すぎて買わなかった。

 見た所、銀色のフレームがとても細い。通常は太くて重いのだが、いい値段しただろう。

 腕のいいメイドらしい。報酬はそれだけ高そうだが。


「え、えっと。僕は、佐藤清正。趣味は読書、特技は弓、よろしく」


 髪の長い転移者が自己紹介をした。

 男にしては長い黒髪が肩にかかっている。眠たげな眼が俺と似ているが、女が好きそうな顔は致命的に似ていない。


「私はハワード・カッター。趣味は訓練。職業は近衛隊員だ。よろしく頼む」

「わたしは、ドリス・エナハートです。趣味は、お菓子を作ることで、メイドです」


 白騎士のカッターは副隊長と茶番をしていた奴だと思う。

 短足発声できないと怒ってきそうな男だ。茶色い短髪をしていて、勇者と同じくらい身長が大きそうだ。

 そんなカッターの自己紹介から間髪入れず、話始めたのはおっとりとした雰囲気を周囲に醸し出すドリス・エナハート。優し気な顔ですべての失敗を受け入れてくれそうな人だ。


 キンブルよりもドリスが良かった。


「次は私ね」


 そう言って立ち上がったのはイトウの対面にいた女の転移者。

 少し茶色の髪が肩よりも長く伸びていて、気の強さを感じさせる目が俺達を見ている。


「私は鈴木乙葵。趣味も特技もない。この世界で、それが見つかればいいと思ってる。よろしくね」


 身長は低いが腕組が似合う女だった。気の強さがそんな印象を与えたのかもしれない。


「ヴィクター・ラナマン。趣味は訓練。職業は特務隊員。以上」


 無口な男だと誰が見ても分かるラナマン。しかし、よく見ると目がキョロキョロと動き回っている。気になる事でもあるのだろうか。


「私はキンバリー・レイです! しゅ、趣味は、露店巡りです。メイドです。お願いします!」


 見た所、平民だ。現状までの自己紹介で最も平民みたいだ。

 露店巡りなんて、休日の平民と冒険者しかしない。

 メイド服の質もそこまでよくはなさそうだ。俺の服よりはマシだろうが。


「私は渡辺雫月。趣味は読書です。よろしくお願いします」


 勇者パーティーの中で最も背が低い転移者だ。

 髪がここにいる女性の中で最も短い。動くことが得意そうに見えないから短髪にする理由でもあるのだろう。


「ニーナ・サージェント。趣味は訓練。職業は特務隊隊長。以上だ」


 ボサボサの赤茶けた髪をそのままに食事に来た女は特務隊のトップ。

 暗部は特務隊と仕事をすることがある。警備隊や近衛隊はしたことがない。

 ある仕事では黒騎士が陽動をしている間に目標を殺せというものだった。


 しかし、この隊長は俺が目標を殺そうとした時に邪魔する奴らを切り捨てて、目標の下まで現れた。そして殺すのなら私がお前を殺すと言ってきた。この隊長が強すぎて、そもそも俺はいらなかった。俺が目標の時間を稼ぐだけの作戦だったのかと、言いたかった。

 出来るなら会いたくない女だ。


「私はギルベルタ・ウルフ。趣味はたくさんの人から話を聞くことです。職業はメイドをしています。よろしくお願いします」


 褐色の肌、少し茶色が混ざった黒髪、男が好きそうな体つき、メイドには見えない。

 まあ、こいつはメイドではない。


 ギルベルタは情報部隊から俺とペアで動くようにと命令を受けて派遣されている。

 情報収集が上手いから今回の任務では適任だ。だが、メイドらしさがないのは問題だろう。


 ギルベルタを見ると向こうもこちらを見ていたようで、目が合った。

 知らぬ人という現状の関係の為、軽く会釈をしておく。


「私は伊藤杏夏。趣味は特にないです。これからよろしくお願いします」


 とうとう俺の番が回ってきた。


「俺は、ベンノ・シュタインドルフ。趣味は……食べる事? 職業は冒険者だ。よろしく」


 俺の自己紹介を受けた人達を見ていると、転移者とメイドは普通だったが、騎士が睨むようにこちらを見ていた。値踏みの視線だと思う。

 殺意が籠ってるわけじゃないから問題ない。


 冒険者なりたての頃なんて毎日、俺よりもガタイのいいおっさんに絡まれてたからな。


「私はマリオン・キンブルと申します。趣味は仕事、職業はメイドです。よろしくお願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る