第6話 夕食
扉の開く音で起こされた。
キンブルがこちらに近づいて、ベッドからはみ出している足を蹴ってくる。
「冒険者。仕事です」
「蹴るな、優しく肩叩け」
「嫌です。汚らしい服を着ている冒険者を触るなんてできません」
口が悪いメイドだ。
「それで、どういう仕事?」
寝たまま聞いていると扉の先、廊下の小窓から薄暗い空が見えた。思っていたより寝ることができた。
「これから夕食です。案内のメイドが来ていますから、イトウ様を起こします」
「分かった」
俺は起き上がり、イトウを起こすために扉まで行くと、先にキンブルがノックした。
「イトウ様」
俺の仕事ないじゃない。
「なに、マリオンさん?」
「夕食です。案内の者が来ています」
「分かった」
出てきたイトウは特に何も変わっていなかった。
泣いてたりすると思ったのだが強いようだ、伝説の勇者よりも。
案内の後に続いて歩き、兵舎を出る。
兵舎入り口から右に曲がり、隣の建物に入る。
兵舎からそこまでの道は屋根があり、雨の日の配慮もされていた。
建物に入ると正面に大きな扉、人の身の丈を越えていてトロールよりは小さい。
建物はそこまで大きくなく、大きな扉から右へ少し行ったところに扉があり、そこが建物の端だった。
異常に大きな扉を案内のメイドが軽々と開けると、四列の長机が続いていた。
案内のメイドは扉の傍でこちらが動くのを待っていた。
「夕食が配膳されますので、少々お待ちください」
「どこに座りましょうか?」
「出口近くでいいだろ」
「どうしよ?」
俺としては食べて部屋に早く帰りたいのだが、イトウとキンブルは悩んでいる。
「杏夏ちゃん、やっと会えた。一緒にご飯食べよ。いつもの皆もいるよ」
「うん! 世話係の人も一緒?」
嫌なの?
「一緒」
「二人とも行こう」
「はい」
「はい」
イトウ以外の転移者に先導されて、いつものみんな、がいるところにやって来た。
出口から最も遠い長机の端、この部屋の最奥だ。近くには出口ではないのか、向かい合わせになるように扉が二つあった。
長机の端には俺たちを含めて勇者と仲間達で六人、その世話係十二人がいた。
俺に与えられた任務である勇者の監視だが、部屋にいる間は特に問題ないと思っている。訓練や休日、旅の途中で問題が起こると考えている。部屋の中で起これば公爵の娘と副隊長が問題だ。
世話係で転移者を挟むように席に着いている彼らを見習い、同じように席に着く。
するとベルが鳴った。
ベルが鳴ると同時に二つの扉からメイドが料理を持って出てきた。
一人分の夕食をのせたお盆をメイド一人に付き二つ。時々、土鍋を持つメイドが見えたり、料理がのった大皿を持つメイドも見えた。
そして出口近くの人から配膳して、出口に消えていくメイド達。
最後に配膳されたのは真ん中の席の俺だった。
最後の配膳をした者は二つの扉の内一つを閉めて、出口の扉を閉めた。
開いた扉を見ていると配膳していたメイド達とはデザインの違う白いメイド服を着た人が出てきた。
「皆様、はじめまして。料理長のマルティーニ・バスケスと申します。今日から皆様の食事を作ります。よろしくお願いします」
バスケスはそう言ってすぐに帰っていった。
締まらない、そんな状況を感じ取ったのか、勇者が動いた。
「皆、僕達は今日からここで暮らすことになる。不安もあるけど悩む前にまずは食べよう。手を合わせて、いただきます!」
俺も勇者に倣い手を合わせて、いただきますと言った。
伝承にあった食事前の呪文だ。いただきますと言っていたとは。
盆に置かれていた箸を使い、食事をする。
この王国では当たり前の食事を摂っていく。
「皆さんに聞きたいのですが」
勇者はそう言うと、近くの席に座る世話係達を見た。
「どうしてここまで僕達の世界と食事が似ているんですか?」
「勇者様、それは先代の勇者様が来た時に食事で不便をしたからだそうです。お金も勇者様方の世界と同じ円を単位として使います。こちらの都合で召喚しているのですから、同じように出来る所は同じようにと、古くから伝えられているんです」
疑問が解消したのか勇者は近くのメイドにありがとうと伝え、食事を始めた。
食事が始まって数分でイトウに対面の転移者が質問していた。
「杏夏、さっき部屋に行ったのに何で開けてくれなかったの?」
俺が寝ている間に何かあったみたいだ。
「色々あって疲れてたの」
実際、何があったのか分からないが、友人に会えないくらいだったようだ。
まあ、子供の話だろう。
「確かに、昼休み終わってすぐだったもんね」
「そう、次の授業は寝るつもりだったけど、それどころじゃなくなったし」
話は終わり食事が進んでいき、俺は食べ終わった。
見た所、他の人達も食事が終わりかけていた。
皆、何を話せばいいか分からないんだろう。他の場所でも会話は少ない。
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