第23話 面倒ごとが待っている
○
俺が新しい刀と短剣を持って第二区に帰ったのは、夕食の前だった。
ラッドの鍛冶屋からの帰り、久々に露店を回ってきたのが原因だが、活気を感じた。
堅苦しい騎士やらメイドやらと一緒にいるよりも知らない人で溢れかえり、誰も俺の事を気にしない場所で、散策するのは楽しかった。
露店を散策して冒険者ギルドに行こうかと思っていたのだが、時間が随分と過ぎていたようだったから帰ってきた。
第一と第二の訓練場に転移者達の姿が見えなかった為、イトウの部屋をノックした。
扉の向こうからキンブルの声が聞こえてきた。
『どなたでしょうか?』
「俺だよ」
『すみません。オレダヨさんは存じ上げません。お帰り下さい』
「ベンノ・シュタインドルフ」
目の前の扉が開くのを見て、はあぁ、とこれ見よがしにため息を吐く。
「あ! ベンノ、刀見してよ!」
「いやですー。それより何で床にシーツ敷いて寝てるんだ?」
広い部屋の床にシーツを敷いて、その上にイトウはうつ伏せで寝ていた。
イトウが使っているベッドにシーツはかかっている。誰のシーツだ?
「私がイトウ様のマッサージをしているんです」
「へー」
「訓練の話、聞いてよ、ベンノ。基礎体力を上げる訓練ってさ———」
それから辛かった基礎訓練の話をずーっと聞かされた。
どの訓練がどう辛くて、騎士に何を言われたか、誰が訓練に最も長く耐えたか。
今マッサージを受けているのは訓練が辛く苦しいものだったからだそうだ。
「これから毎日、この訓練なんだろ? やっていけそうか?」
「毎日じゃないよ、週に一回は休みがあるらしいから」
「休みは何するんだ?」
第二区の中しか動けないのに、休みをもらってもする事ないだろう。
俺みたいに一日寝て過ごすなら気にならないだろうが。
「えーと、二週間後の休みは世話係同伴で王都に出られるらしいよ」
「気が早くないか?」
「そうなの、宰相さんはポーション工場の見学をして、その後、自由行動にしてるらしいけど」
休みの日も何で働かねばならんのだ。
暗部を、もっと早くに辞めたいって言えばよかった。
気分を切り替える為に、大きく深呼吸して別の話題を探していると、メイドがやってきて夕食の準備が出来たようだった。
いずれやって来る仕事を思い、ため息を吐きたくなるのを抑えながら、二人の後に付いて食堂に向かった。
二週間後、仕事の所為で、勇者の所為で大きな面倒事が俺を待っていた。
ちなみに、イトウが床に敷いていたシーツは、俺のだったらしい。洗濯場に持っていかれて寝つきが悪かった。
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