第43話 仕事は終わってない
赤ローブを脱がし、上から婆さんに被せ、フードの部分を切って、俺の顔を覆うマスクにする。
これで他の奴には顔を見られないだろう。
それにしても婆さんが人から使われる側になるなんて、使う側の人間だったのに。
真っ二つになった短杖をポケットに突っ込み、五人を見る。
従業員のフリをしていた二人はボロボロの一人を心配して、青ローブはボロボロの一人を魔法か魔術で作った木の籠に入れていた。
「そいつ無事か?」
「はい、今は治療中です」
青ローブが返事をしてくる。木の籠で治療できるらしい。
それを見て、俺は両手に魔力を集めて、手を叩いた。
刀の血を拭い、鞘に納めて少しすると四人が戻ってきた。
「その者達は?」
「情報提供者だ。一人怪我してるから回復魔法使える奴を頼む」
「はい」
そう言って一人は去っていく。
三人は指示を待っている。呼びつけたわけだからな。
「けが人を回復させたら、倉庫で情報を聞き出せ。聞けば話してくれるから、拷問なんてするなよ。俺は屋敷調べてくるから」
そう、俺はまだ仕事が終わっていない。
なぜ情報が漏れていたのか。暗部の中にお漏らしさんがいるかもしれないし、宰相の部屋に侵入して任務に関する書類を盗み見たのかもしれない。
宰相に関しては暗部のお漏らしよりも可能性が低い、そういう所の信頼は厚い。
屋敷へ向かっていると、赤騎士が屋敷の方向へ向かっているのが見えた。
煙が上がっている五人の近くにも向かっているだろうから、四人は大忙しだな。
そう、内心笑いながら屋敷の近くまで来たのだが、周囲は赤騎士だらけ。
自分でも分かるほどに顔が引きつっている。
商会の岩で砕けた壁を中から見ている赤騎士。
道で聞き込みを行う赤騎士。
屋根の上に登ってきて、岩が飛んできたと思しき方向を見る赤騎士。
フードを上げ、屋敷の方に続く道を歩く。
反対側、商会側の道では赤騎士が聞き込みを行っているが、こっちの道はまばらにしか赤騎士は見かけない。
遮るものの無い屋根上よりも上手くいきそうだ。
近づいて来た屋敷は金属の柵で囲まれており、情報とは違って衛兵もいない。ただ、門は閉ざされており頑丈そうな鍵が外側についている。
屋敷内にはだれもいないのか。
手に持っている刀の柄尻を金属の柵に当てて、音を出す。
金属の高い音が周囲に届いて、聴覚が人の動きを捉える。
俺の後ろに赤騎士が一人、屋敷の中は届いている範囲ではいない。
前方の建物の陰から、こちらを覗いている一人。屋敷の前の建物近くで休憩している男三人。
赤騎士だけ、所属がはっきりしている。
他四人は赤騎士だと良いのだが、そんな雰囲気はない。
大振りのナイフを全員が身に着けており、赤騎士だと考えられない。
俺と赤騎士が三人に背を向けた時、確認して動き出す三人。
上着のポケットに手を入れて、後方を歩く三人。
陰から覗いていた男は、大きく深呼吸しながら壁に背を預けている。
まさしく一世一代の大勝負、みたいな感じだ。
何かが起こるだろう場所、深呼吸する男の角までもうすぐという所で、後ろから雄たけびが聞こえた。
「うおぉっらっああぁ!」
赤騎士に切りかかる一人、他二人もそれに続くようにナイフを取り出して走り出す。
角で待っていた男もナイフを抜き、飛び出してきた。
耳で聞こえた音から把握した状況に、形以外の物は含まれない。魔力で阻害されていれば見えなかったりするが、基本的には形を把握するものだ。それが視覚の代わりになる。
だから、飛び出してきた男があまりにも臭いことを知らなかった。
飛び散る汗、緊張から冷や汗が出たのだろう。
少し前の俺よりも質がいいのに黄ばんだシャツ。くすんだ黒の上着。どれも洗濯していないのか臭い。
逃げるつもりだったのだが、あまりの臭さに思わず足が出た。
「アイツをやれ」
攻撃を避けた赤騎士を無視して俺の方へ向かってくる。
俺は赤騎士の方向へ走り、赤騎士を盾に次の動きを待つ。
「騎士様、助けて!」
「フッ。任せろ」
片手半剣を抜いた赤騎士は、三人に剣を突き付ける。
随分と様になっているから、案外強いのかもしれない。
俺はゆっくり後ろに下がって行き、逃げる隙を伺う。
「チッ、おらあぁ!」
三人は一斉に攻撃を仕掛けた。
それを確認して、角待ち男がいた路地に走っていく。
俺が蹴った角待ち男は今も地面で伸びている。手元には大振りのナイフとポケットから出てきた鞘があった。
「いただき」
路地へ入る時にナイフと鞘を拾い、奥まで走る。
路地の奥は行き止まりだった。フードを下ろし、壁を蹴って屋根まで上がる。
屋根に上がれば急いで、屋敷の敷地に跳びこむ。
東側の商会の屋根には赤騎士が、西側では道で争う赤騎士と三人が見える。誰かに見られる可能性が高い為、急いで敷地に跳びこんだ。
だが、三階の窓の縁で座り、動ける時を待っている。
窓は嵌め殺しで割って入るつもりなのだが、近くから足音がした為、待っている。
足音の主は商会の屋根を歩き、近づいている赤騎士だ。
赤騎士は道で争っている三人を見ているのか、動きがない。
加勢した方がいいんじゃないか?
そう言ってやりたいのだが、動きのない赤騎士。
動き出したのは二十秒後。
「『土弾』」
赤騎士の男がそう言うと、道で争っていた三人の内、二人を魔術が貫いた。
道に倒れる二人、それを見て逃げる一人。
「『サイズ、速度変更、土弾』」
どうやら、この赤騎士、魔術の使い手のようだ。
既存の魔術を自らの思うように変更するのは、難しいと聞いている。
放たれた土弾は逃げている一人に当たり、頭を弾けさせた。頭があった場所にはもう、何もない。
四散した。
「偏差うめぇな。えっ⁉ 経験値少なっ!」
経験値、伝承にあった数値で表される強さの一つの項目だよな。
「ま、いいや。安全に行こうや」
そう言ってこちらから離れていく。
一瞬、頭をよぎったのは殺した方がいいのではないかという事だ。
伝承好きな赤騎士がそう言っているだけなら問題ないのだが、実際に際限なく強くなれるなら、問題だ。
伝承では経験値について、項目の一つとしか語られていない。
ただ、経験を積むと段々上がっていく。そして強くなると書いてある。本当にあるのならば。
先ほどのように平気で人の頭を四散させるような奴なら、これからの安全の為に殺すべきでは。
俺がさっきのように狙われたとして、躱せるか。迎撃できるか。
捉えられるが近くに勇者達がいる事を考えると、難しいかもしれない。
それなら。
窓の縁から立ち上がろうとした時、爆発音が聞こえた。
音は遠く、しかしはっきりと聞こえた。
「あの爆発。へへへっ、まだまだ稼げそうだな!」
赤騎士が屋根から離れた音が聞こえた。他の赤騎士もあわただしく動き始めている。
運悪く変な赤騎士に出会ったが為に、仕事が増えた。
あの赤騎士の素性を調べ、素性調査をしてもらわなければ。
そう考えながら、俺は窓を蹴り割った。
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