第44話 任務を受けて任務が終わった
○
「ギルベルタ、上手くいっているか?」
午後の訓練中に暇を貰い、部屋まで戻ってきた。
暗部隊長に呼びだしを受けていたからだ。
しかし、部屋に入ってどこにもいないと思ったら、背後から声を掛けてくるなんて。
「はい。それで、要件とは?」
後ろに振り向き、暗部隊長を見て返事する。
世話係についての用件ではないだろうから、ここに来たのだろう。
「ここ最近、お前を監視していた」
「はい」
「味気の無い反応だな」
暗部隊長は微笑みながら、官帽のつばを右手でつまんでいる。
左手をポケットに入れ、何かを掴んだ手をこちらに出してくる。
「手、出せ」
「はい」
何かを握った左手の親指には黒い指輪。あれは隊長が首から提げていたものだと思う。
出した手の上に小さなくしゃくしゃの紙が置かれた。
くしゃくしゃの紙を広げてみると、暗部で広く使われている暗号だった。
見慣れた暗号は解読するのも容易い。
私は暗号を解読した瞬間、口に入れた。
考えもしなかった内容。
ゆっくりと視線を上げ、暗部隊長を見つめる。
「短く言う。現状問題ないと言い切れるのは私、ギルベルタ、ベンノだけだ。私が信じられないならベンノを信じればいい。どれが白で黒か、判別する為にこれから任務を割り振っていく」
聞いているのだが、はっきりと耳に届いていない気がする。内容は理解しているのだが、頭に入ってこない。
「安心しろ、お前にも重要任務をやる」
不敵な笑みで的外れな事を言う暗部隊長。
苦い笑いが込み上げてくる。
仕事が欲しいわけじゃない。ただ、情報を信じたくないだけ。
「あの、私はどうして問題ないと言い切れるんですか?」
「お前は情報の出し入れは上手いが、死の際でそれが出来るわけじゃない。そういう事が上手いのが動いている。誰に利益を、誰に損を与えたいのか。ギルベルタはそういう事、考えないだろう?」
「はい、確かに」
昔は悩んだことだ。今は適性の違いだと思って出来ることをやっている。
「これが任務だ。頼んだぞ」
そう言って紙を渡し、人目を気にせず、扉から出て行く暗部隊長。
バタンと扉が閉じられたことを確認し、渡された紙を見る。
内容は隊長の指輪を暗部隊長がしている理由を探らせる事とあった。
おそらく情報部隊隊長に、させる事だろう。
調べ始めると隊長の過去が分かっていくんだろう。その中で暗部隊長の過去も知る機会があると思う。
これをさせて暗部内の裏切り者が見つかるのだろうか?
情報部隊隊長が裏切り者?
実行部隊の下っ端?
考えるが、どの人もはっきり言って役不足感が否めない。
暗躍して暗部を騙し続けられる程の大物はいない、そう思ってしまう。
しかし、紙に書かれている内容が真実なら、大物だろう。
外国黒組織の手引き、尋問対象の殺害、貴族家に侵入して暗部の信頼揺るがし、自白調書を改竄、裏切り発覚理由となる、実行部隊の隊員を殺害。
今は殺害された隊員の任務、素性などを調べていて、問題ないと言い切れる隊員を増やして、いずれは最上級鑑定を全員受けさせ、暴くとの事だ。
それをされるのは裏切り者も予想外だろう。一回の鑑定で百万掛かる。それを暗部の全員にさせるわけだから。
人の歩く音がして口に紙を入れた。
足音は二人、余裕を感じさせるゆったりとした足音と歩幅の短い足音。
ノックもせずに扉を開ける。
「ウルフ、総隊長と何を話していた?」
「はなしてた?」
入って来たのは情報部隊で育成中の実行隊員、緑髪と赤髪だ。名前は知らない。
「この任務についてです」
「そう。今日は忠告に来たの」
「きたの」
相変わらず、気に障る赤髪。
赤髪のように人の声真似をして、奇襲する魔物がいたはずだ。
「忠告とは?」
「やる気がないなら他の隊員を行かせる。早く情報を上げろ、と」
「あげろと」
「その。情報についてなのですが、暗部隊長に会って気づいたことがあります」
任務を早々に終わらせることが出来る。いいタイミングで来てくれた。
「言ってみろ」
「いってみろ」
「はい、隊長が首から提げていた指輪を暗部隊長が左手に、はめていました」
「ほう、隊長が喜びそうな情報だな」
「だな」
報告して終わったと思ったのだが、緑髪は顎に手をやり、これ見よがしに悩んで見せている。
赤髪は緑髪を見上げ、動きはない。
「実行部隊の隊長が首から提げている指輪。黒色の指輪だよな」
「だよな」
「はい、任務中は両手の人差し指にしている指輪です」
「うん。いい情報だ、その調子で上げてくれ。行くぞ」
「あげてくれ」
緑髪は赤髪を連れて部屋から出て行った。
二つの黒い指輪。
私も何故しているのか聞いたことはあるが、答えを教えてもらっていない。
テキトーなこと、卑屈な事を言う隊長が口を閉ざしているのだから、心の奥深い部分と関係していると分かる。暴きたいようなそうでないような、感じがした。
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