第45話 元商会の護衛達①

 ○


「隊長、アイツら全く話しませんよ」

「え、話してないの?」


 屋敷を捜索し倉庫に帰ってきて、最初に言われるのが情報をまだ手に入れてない。

 仕事が増えた。

 倉庫の二階、作戦会議を行った場所に部下五人、連れて帰った五人、俺がいる。


「それよりカイゼルはどうした?」

「部長の所へ行っているようでした」

「そうか。それで女の怪我の具合は?」


 安直に考えさせてもらえれば良かったんだが、お漏らしさんはカイゼルだってな。

 それよりも地図を広げていた場所で横になる女の状態が気になる。ソファに座っている四人は心配そうに女を見ていた。

 いや、フルプレートアーマーの男だけ、俺の刀を触っている。


「傷は治しました。問題ないと思われます」


 後から来た回復魔法を使える実行部隊員が答えてくれた。

 彼の答えで、四人は安心してソファへ体を預けた。


「それで、情報は?」


 座面と脚だけの簡易な椅子に座り、四人を見る。

 四人は互いに見合って、誰から話をするか目で相談しているようだ。


「そもそも。お前は、どういう情報が欲しいんだ?」


 フルプレートアーマーの男が、俺の刀を顔に突きつけて聞いてくる。


「お前たちが不当な契約を交わした背景、ザカリー商会の黒い噂とか、そういうのだ」

「そういうのは私が詳しいんです」

「じゃ、頼む」


 青ローブが話してくれた内容は推測していたのと似た内容だった。


 婆さんから脅され契約。契約は妹を守るために行われたようだが、妹はもう王都では姿を見せなくなったようだ。森に帰ったと考えているらしい。

 最初に青ローブが、次に青ローブを脅しの材料にフルプレートアーマーの男が、最後に女三人が契約したとの事だ。商会長の依頼だったようだ。


 黒い噂の方は、商会の馬車で違法奴隷が王都に運ばれているとの事だった。ただ、多くて三人ずつらしい。

 バウマンを連れて来た馬車とは違う。それに噂ではなく今している仕事のようだ。


「あれだけ大きな商会が違法奴隷を運んでいるのだから、昔から狙っていたか、屈する材料があったかでしょう」

「商機を見出したんだろ。手に入らない物がそこじゃあ手に入るんだ、売れそうだろ?」


 それに、運んだという情報があるだけで販売していると言ってない。知らないだけかもしれないが、王都へ運んでいるのなら売る為に送る必要がある。それは別の奴が管轄しているのかもしれない。

 調べていけば分かりそうだ。


「それでお前ら、これからどうするつもりだ?」


 ここからがある意味、本題だ。

 人員不足の解消、信頼できる人員の確保に役立ってもらわなければならない。


「? どういうことだ?」

「考えてみろ、護衛の六人の内、一人が死亡、五人が逃亡。どうなる?」

「疑われているのか、俺達、五人が」


 フルプレートアーマーの男はそう言うが違う。


「違うちがう、疑われているんじゃない、確定してるんだ。商会長がお前達を奴隷みたいな状態にするように婆さんに依頼したんだろう?」


 ソファに座る四人は俯き考え込んでいる。誰一人言葉を話さない。


「それなら、契約していた状態を脱したお前達は商会長にとっての厄介者だよな?」

「確かにあくどい方法で契約させられた訳ですから。証拠がない為に私達は抵抗できないでしょう。それで、結局のところ、貴方は私達に何をさせたいのですか?」


 青ローブが眼光鋭く問いただしてくる。

 他の三人もこちらと殺り合う気があるようだ。

 フルプレートアーマーの男は俺の刀を握り、柄に手を掛けている。


「その前に、お前刀返せ!」


 男の手から奪い取り、今持っている刀を男に渡す。


「盗品だから返して来いよ」

「いや、もらっておく」


 お前に刀の適性はないだろうがな。


「えっと、何をさせたいか、だったな。一応言っておくとここから先は二択だ。捕まって死刑執行人に斬られるか。俺達が所属する組織に入って活動するか。どっちがいい?」

「選ばせる気ねぇじゃねぇか」

「今はそういう状況ってことだ。組織に入って活動していくと変わっていくと思うぞ。いつかは、組織内の冒険者として気ままな生活できるようになる」


 恐らく、冒険者になるのは早いだろう。だが、組織から離れるのは難しいぞ。人員は減るだろうからな。


「分かった、選択肢はねぇんだ。俺は入る」

「そう言うなら、私も入りましょう」

「二人はどうする?」

「入ります」

「お願いします」


 仕方ないことを納得しているから、四人共やる気がありそうだ。

 視線を机に向けるが、まだ女に反応はない。

 まあ、アイツも賛成してくれるだろう。仲間が全員入るんだから。


「それで、組織ってのは何してるところなんだ?」

「契約術使えるひとー?」


 俺がそう声を掛けると、女三人のうちの一人が使えるようで手を挙げた。


「私、使えます」

「今からする話を漏らす事を禁止する。契約できるか?」

「殺さねぇのか?」

「誰に漏らしたか言ってもらわないと殺したくても殺せないだろ」

「それもそうだな」


 フルプレートアーマーの男は楽し気に笑った。

 命が掛かっているのに何故笑っているんだろうか。


「それで契約できるか?」

「私はできます。皆さんはどうですか?」


 青ローブが聞くと他の三人は頷いた。

 俺は契約術を使える女に顔を向け、頷く。


「書面がありませんから、契約内容と名前を口頭でお願いします」


 視線を合わせて会釈される。


「組織について、その関係者についての内容を組織以外の者に漏らすことを禁ずる。ベンノ・シュタインドルフ」

「ごめんなさい、シュタインドルフさん。私の魔力量では行動の禁止が出来ません。誘導はできます」

「なら、組織について、その関係者についての内容を組織以外の者に漏らした場合、俺の下に来て誰に漏らしたか話す事。ベンノ・シュタインドルフ」

「契約する者は名前を」

「マヌエル・アクトン」


 フルプレートアーマーの男は両手を握りしめて契約に応じた。

 青ローブがアクトンの握りしめた両手の上に手を置き、笑いかける。


「ヤルミラ・ハルム・スタラー」


 互いに微笑み合う二人を見ると、冒険者ギルド前で出会った二人を思い出す。


「セレスト・ギーズ」

「術者、アンドレア・ファロン」


 契約術を使ったファロンが名前を言うと、俺と四人の胸の中心に鎖があらわれた。

 発光を続ける緑色で構成された鎖はピンと張ると、あらわれた時と同じように消えた。


 契約術は契約内容で鎖の色が変わる。

 緑色、次に赤色、最後は鎖が実体を持ち体中に巻き付く。

 緑色は誘導、赤色は禁止、実体は命の取引といった具合だ。

 契約術において緑色の鎖しか出せない人はあまり役に立たない。暗部にいる者は最低でも赤色は出せる。


 まあ、契約術を使えること自体が優秀だ。俺は使えないわけだし。


「じゃ、説明するぞ」


 それから、国の組織に入る事。組織がしている事、面倒だろうが訓練がある事、これらを伝えた。

 全員が黙って聞いていた。

 多少濁して伝えた部分もあるが、問題はないと思う。


「あの、訓練って何するんですか?」


 ギーズが聞いてくるが、俺が訓練を監督するのか分からない為、何とも言えない。

 一瞬悩んで、テキトーに言おうとしたら、部屋の扉が勢いよく開いた。

 他の奴らが気付かなかったという事は、あの人だ。


「お前達の訓練は私が行う」


 右手で官帽のつばを掴み、斜め右四十五度に体を向けている部長だった。


「部長が監督するんですか?」

「お前は仕事があるだろう。それに、襲われたんだろう?」


 わざわざ、ここに来たのはカイゼルから話を聞いて来たんだろう。

 俺がコイツらを雇おうとしている事が分かっているのは、部長らしい。

 襲われたことを言ってくるのは、お漏らしさんがいると確信しているのだろう。

 とりあえず俺は疑いが掛かっていないようだ。


「はぁ。死なないように訓練してくださいね、貴重な人材ですから」

「分かっている。お前達、机の女を抱えてこい」

「は、はい」


 見た目で戸惑っているんだろう。

 どう考えても子供だ、でも横柄で俺の口調が変わったから上司だと認識したのだろう。


 ギーズとファロンが名前の分からない女を抱えて、扉近くでいる部長に近づく。

 アクトンとスタラーも部長に当たるぐらい近くで、何が始まるのか待っている。


「ベンノ。気を付けろよ」


 思わず首を傾げた時、部長の足元から赤黒い魔法陣が俺の近くまで広がってきた。

 空間魔法だ。

 更に天井にも魔法陣が出てきて、上下の魔法陣が回転を始める。

 上下の魔法陣は展開された時以上に発光し、部長達を挟み込んで一つになり、消えた。

 テレポートの魔法だ。


「一体何に気を付けるのかね」

「隊長、早く着替えてください。撤収しますから」

「わかった」

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