第35話 王都監視員
足早に貴族街も出た。
北口を出て、右に曲がり回っていない露店を見ていくと、ちょうどいい所に俺の好物を売っている露店を発見した。
「おっちゃん、空エビの素揚げ二つ。取りに来るから置いといて釣りと一緒に」
「分かった。黒髪の兄ちゃんだな」
ポケットから素揚げ二つ分の大体の金を渡して、路地裏に向かった。
人の目が無い事を確認して、スキルを使う。
『軽業』
常時無意識で発動するスキルを意識的に使って、効果を増大させる。
スキルを使い、壁を蹴り屋根まで上がる。
周囲を見渡して、誰もいないことを確認すると、両手に魔力を集めて、勢いよく手を叩き、合図を送る。
それから三十秒後、屋根伝いに走ってくる人が見えた。
黒い胸までのフードケープにシャツ、ズボン、靴すべてが黒色の人物で、王都監視員の一人だ。
「今日は?」
「部長の身長」
毎日変わる合言葉で、仲間か判断する。
「百四十センチ」
そして顔を見せていない監視員が本当の仲間か判断する為に、拳に魔力を集めて軽く腹を殴る。
殴ると監視員の体に施された刺青から魔術が発動し、監視員の名前が明らかになった。
「隊長、どうしました?」
「クリス。恐らく王都に奴隷売買を行う組織がいる。今も逃がした獣人を追って走り回ってるだろうから見つけてくれ」
「奴隷売買⁉ この国じゃ時代遅れの象徴みたいなことしてる奴らがいるんですね」
「そうだな。見つけたらいつも通りに調べて、監視も出来ればつけてくれ」
そう言うが、恐らく監視を付けることはできないだろう。元々の人員不足と別件で動いているからだ。
「監視は無理ですが、合間に調べてみます。情報部隊に監視を頼みますか?」
「俺が言ってもお前が言っても、たぶん無理だ。アイツら任務の時しか情報開示と協力しないからな」
時々、今みたいに町中で呼ぶと、聞くだけ聞いて無理と言って帰っていく。
俺がアイツらの仕事場に向かって、情報を聞くと話してくれる。ただの面倒臭がりだろう。
「分かりました。今日中には調べて情報部隊に回しておきます」
「頼んだ。それと、世話係に魔力を視認できる者がいる、合図を送る時は気にしとけ」
「はい」
クリスは来た時同様に屋根を走り去っていった。
王都監視員。
実行部隊の中でも直接戦闘を苦手な者達が多くいるところだ。
彼らは任務の為、体に簡易鑑定の魔術陣を刺青で施し、目は魔力を可視化する為に手術を行っている。捕らえられた場合に備えて、爆破魔術の魔術陣が刻まれたコインを持っている。
俺も腕が落ちて任務を失敗しだすと監視員の仕事でもさせられるんだろうか。
俺としては刺青をしたくないし、自害コインを持って見回りをしたくはない。そう思っているのだが、王都監視員全員が希望して監視員をしてるんだから驚きだ。
クリスを見送って路地裏に降りる。
路地から出て露店に空エビを受け取りに向かっていると、目的の露店近くに白いフードローブを着た女がいた。
「黒髪の兄ちゃん。迎えが来てるぞ」
店主に言われて、釣りと袋を受け取りながら誰かを確認した。
「帰らなかったのか?」
「皆様が待っていますよぉ、お迎えに来ましたぁ」
フードを軽く上げたのはエナハートだった。
どうしてエナハートなのか、キンブルじゃないか普通は。
「どうしてエナハートさんが?」
「何かを、探す事がぁ、得意だからでしょうかぁ?」
どうして得意なのか、どのように探すのか、疑問は尽きないし、面倒な予感がするが一先ず無視する。
腰のベルトに手をやり、短剣と一緒に留めていた箸を取り出す。
「ん? エナハートさんも食べるか?」
こちらをじっと見ていたエナハート、その食欲を空エビは刺激してしまったのだろう。
粗い紙で出来た袋は分厚く、空エビはまだ温かい。
「いえ、皆様がぁ、待っています。早く向かいましょう」
そう言いながら一歩も進まないエナハートの意思を理解して、俺が先を歩き始める。
馬車に着くまで俺の後ろから動くことはなかった。意図したことでないことを祈る。
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