第29話 冒険者ギルドで登録

「皆様、ポーション製造工場の見学は終了です。今から冒険者ギルドに向かいます」


 そう言って歩き出すメイド。

 俺の前にいる全員が一度、団子屋を見て、トボトボと付いていく。

 露店を回る前にここへ来ることになりそうだ。

 通りを進み、冒険者ギルドの近くに行くと乗ってきていた馬車があった。


「ここから先は冒険者ギルドですので、人数を減らして向かいます。転移者の皆様とオハラ様、ラナマン様、シュタインドルフ様、ギルドへの案内をお願いします」


 そう言ってメイドは馬車の中へ一足先に入った。


「他の皆様はこちらで待機をお願いします」


 そう言って幌を上げるのは、馬車で待機していたメイド。

 全員が入って行くのを見送り、いつ進むのだろうと前を見ると、全員がこちらを見ていた。


「オハラさん、行かないのか?」

「冒険者であるシュタインドルフが先に行けばいい」


 まあ、確かにローブで顔と体を隠した人が、最初に入ってくるのは警戒されるか。そう思い俺はフードを上げて顔を出した。


「分かった」


 先頭に出て、冒険者ギルドの両開きの扉を勢いよく押し開ける。

 扉の先に受付が五つあり、受付嬢が仕事をしているのが見えた。受付の両隣は階段があって二階へ続いている。入って左には食事する場所、右には扉が大量に並んでおり、パーティー毎で使える部屋になっている。


 そして俺の近くに冒険者がいて、扉に顔をぶつけていた。

 俺よりも低い身長に片手剣を背負い、白いコートの上から黒い革の胸当てを付けている。

 茶色い髪は適当に切ったのか、長さが揃っておらずボサボサだ。手で覆った顔には勇者達以上の若さが見える。


「おい、てめぇ。何しやがんだぁ!」


 怒ってきた声もまだ若く、本当に成人しているのか不思議になってくる。


「お前、まだ剣使ってんのか。魔法と魔術使ってパーティー入れって言ったろ」

「なッ! シュタインドルフ。お前また、依頼荒らしに来たのか⁉」

「荒らした事なんて一度もない。仕事で来たんだ。さあ、登録、登録」


 空いている窓口に向かっていると絡んでくる。


「おい、仕事ってなんだよ。万年冒険者のお前が仕事ってなんだよ?」

「万年E級なんだから依頼受けて、俺達から離れろ」


 俺がそう揶揄したのはE級冒険者のナイジェル・ドラン。ギルドへ来る度に突っかかってくる子供だ。


「万年E級って俺を馬鹿にしやがって!」

「最初馬鹿にしてきたのお前だろ。はい、誰から登録?」

「私からね」


 口喧嘩に物怖じせず、返事したのはスズキだった。

 窓口近くにいたスズキはすぐに受付嬢に冒険者登録です、と話しかけていた。勇者世界にも似たような登録があったのだろう。


「シュタインドルフ、その刀はなんだ? その服はなんだ?」

「別に何でもいいだろ。あ、カリスタ、ローブの奴ら以外登録だから」

「聞いてるよ」

「ちょっとベンノ。この子、可哀そうじゃない」


 出来るだけ相手にしないようにと俺は注意していたのに、イトウが出てきてアイツ側に付くとは。


「シュタインドルフ。相手は子供なんだ、しっかり対応しろ」

「そう思う」


 イトウに続いて、副隊長とヴィクターが口を挟むとは思いもしなかった。

 三人の援護があったからナイジェルは楽し気に口を歪ませている。


「シュタインドルフ、仕事ってなんだよ?」

「おい、言っていいのか?」

「いや、ダメだ」

「言えないらしいぞ」


 しっかり対応しろと言ったその人が対応できないと言ってきた。


「おい、何でダメなんだよ」

「そりゃ、重要な仕事だからだよ」


 俺がそう口にすると、何を言ってるのか理解していない様子でこちらを見ていた。


「じゃあ、その服と刀は何だよ?」

「服は貰った。刀は買った」

「お前、そんな金あんのかよ。仕事したら何か月も来ないクセに」

「危険な仕事受けてるからな、たくさんお金があったんだよ。それで、一体なんだ会話したいのか、俺は仕事中だぞ、離れろ」


 俺がそう言うと、会話しているとき以上に怒ったような顔をして睨みつけてくる。

 一体、お前は何がしたいんだ。


「うるせぇ! 言われなくても消えるさ!」


 肩を怒らせるってのはああいうのだろう。

 大股でギルドを出て行ったナイジェルは会話をしたかっただけなのか?

 

「すまん、カリスタ。ナイジェルは、何かあったのか?」


 スズキの登録はいつの間にか終わっていたようで、サトウが受付にいた。

 カリスタはこちらに気付き、言うか悩んでいるようだったが、答えてくれる。


「たしか、二か月くらい前に近くの村が中級魔物に襲われたみたいで、それの依頼があったのよ。それであの子、アンタを探してたんだよ。アンタなら怪我もせずに倒してくれるからって」

「C級くらい、いただろ?」

「その村よりも遠い所に依頼で。だから中級を楽に倒せるのはアンタか騎士くらいだったのよ」


 そうらしい。

 その時、俺は暗部の仕事中だったはずだ。


「どうなったんだ、結局」

「遠い所に依頼で行っていたC級冒険者が帰ってくる時に倒してくれたよ。村に大きな被害も無かった」

「なら、何で怒ってたんだ?」


 上手く解決してよかったじゃないか。誰も死なず、村自体の大きな被害も無い。

 中級魔物が襲ったにしては随分いい。


「あの子は、アンタの事を思って怒ってたんだよ」


 首を傾げてカリスタを見ても、本気で言っているようで顔は真剣だった。


「はぁ。アンタね、他の冒険者からA級の実力ないって言われてるのよ」

「いやいや、それおかしいだろ。A級の依頼受けてるんだぞ」

「アンタが戦闘してるところ、ナイジェル以外は見たことないのよ」

「だからって疑うか? ギルドの基準を超えているからA級なんだぞ」


 まさか、冒険者の間で腕が疑われているとは思っていなかった。

 ナイジェルしか戦闘するところを見たことないって、それは知らん。


「偶にしか依頼受けに来ないし、来てもこれ見よがしなボロボロの服装だし、使えるのか分からない刀提げてるし、非力って二つ名だし——」

「カリスタ、それお前の愚痴だろう?」

「大体皆そうなの。はい、次の人ー」


 俺と話しながらでもしっかりと仕事をしていたようだ。

 ナイジェルがどういう考えで怒っていたのか、分かった。

 でも、年下に心配されるほどでもないだろう。いつか評価をひっくり返せばいいだけだ。


 受付にイトウが向かい、登録待ちは勇者、ワタナベ、タカハシだ。登録を済ませた二人は受付横に並んでおり、手のひらサイズの板を持っている。

 冒険者証だ。


 冒険者証は身分の保証と現在の等級を示すカードで、上半分には名前と性別、冒険者としての等級が刻まれている。魔力を流すと簡易鑑定の魔術が発動し、下半分に名前と性別が表示され、本人確認を行う。

 依頼を受けたり、素材を換金するとき、必要になる。

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