第28話 ポーション製造工場見学

 宰相のメイドが先導し、第二区出入口に向かう。

 出入口には大きな二頭引きの馬車があった。

 幌が付いている物で華美には見えない為、人目を引くことはなさそうだ。

 勇者達がまず宰相のメイドの案内で乗り込み、メイド達と副隊長、サージェントが乗り込んだ。そして幌は下ろされる。


「それでは皆様、出発いたします」


 騎士の男達と一緒に俺はゆっくりと進む馬車の後ろを歩くことになった。

 大きいとはいえ中には転移者六人と世話係のメイド六人、騎士二人、御者と案内のメイド二人で三人がいる。全員で十七人だ。

 もしかして、転移者とメイドは絶対乗り込み、騎士は役職が付いていれば乗り込めるのだろうか。


 第三区の二つある出入り口の内、南出入口を出て、貴族街の南口を出る。

 第三区の出入りに身元の確認とか、面倒なものはなかった。

 貴族街の南口を出て真っ直ぐ行くと、冒険者ギルドが見えてくる。

 しかし、まずはギルドの裏にあるポーション製造工場前で馬車が止まった。


「皆様、最初はポーション製造工場です。付いてきてください」


 宰相のメイドがそう言って、一人が幌を上げた。

 馬車組が出てきたのを確認すると、宰相のメイドは馬車に一人、案内に一人と分かれてポーション製造工場に入って行く。

 建物の入り口は普通の扉だったが、入ると屈強な男二人が武器を持って入ってくる者達を警戒していた。


 二人の間にある扉を抜けると、まず大量の薬草が目に入った。天井は高く、大量の薬草がいくつもの机に置かれている。

 青々とした薬草が複数人によってカゴに分けられていく。既定の重量があるのだろう天秤にのせている金属を変えたりしていた。

 見たところ、この工場では錬金術師を雇っているようだ。全員が白い服を着ていて、胸元には錬金術の錬成陣が刺繍してある。手際が悪いところを見ると、見習いなのだろう。


 今の並びはメイドが先頭でその後ろ一列に勇者達、メイド達、騎士達、俺だ。

 メイドが何かを話し始めたが、狭い場所で遠いから聞こえづらい。

 彼らの作業を見ていると、勇者達は次の区画に進み始めていた。


 付いていくと次は、カゴに入った薬草を錬金術で細かく刻んでいるようだった。

 一つのカゴに付き三回スキルを使って刻み、次に薄い布でそれを包んでいる。

 メイドはさっきよりも短く説明をして、次の区画に向かった。


 次の区画は暑かった。

 大量の湯を沸かしている大鍋に布で包んだ薬草を入れて、煮だしている。

 大鍋は三つあり、次の区画に近い鍋が運ばれていった。そして空いた場所に並んでいた鍋を移動する。移動が終わり少しすると、水の入った鍋が次の区画から運ばれて、薬草を包んだ布が入れられる。

 暑くて仕方がない場所で働いている者達は汗だくだ。着ている白い服が汗で濡れている。

 メイドが説明し終わったのか、次の区画に向かう。

 向かっている途中、鍋がよく見えた。どうやら三つの鍋を置いている場所は火加減が違うようだった。


 次の区画は二つに分かれており、大鍋から煮だした液体を別の容器に入れるグループ、薬草が入った布を取り出して小さな容器に絞り、絞りかすを広げて錬金術で乾燥させるグループだ。

 二つの内、大鍋から液体を移す方に移動して、次の区画へ行くと大量の金属容器が分けられていた。

 容器には一から七までの数字とSからCまでの文字が書いてあった。

 この区画は静かなようでメイドの説明する声が聞こえてくる。


「この数字はいつ容器に入れたのか示すもので、数字はどの等級のポーションに使うか示すものです」


 適当に入れてるだけかと思ったけど、等級ごとに使えるものを分けて入れてたのか。


「ここにある液体はどれも同じ品質のものですが、等級毎に生産量が違いますから分かりやすく文字が書かれています」


 この後の処理で等級が変わって来るんだそうだ。

 ポーションは使うこともあるが、基本的に支給されるから作り方を考えたことはなかった。


「すみません、あの薬草はどうなるんですか?」

「はい、あの薬草は王都名物の薬草団子の材料になります」


 何それ、王都名物?

 団子が名物になっていたのか、俺は知らないぞ。


「皆様、こちらへ」


 メイドの案内で液体の置いてある場所から出ると、今まで漂っていなかった香ばしい匂いがした。

 出た場所には入って来た所同様、屈強な男が二人いて睨みをきかせている。


「いい匂い」


 出てすぐの所でワタナベが呟いた。


「先ほどの場所とここは結界術の魔道具で分けられています。音も少なくなっていませんか?」

「確かに」


 入って来た所では特に気付かなかったが、こうも近くで匂いがしていると分かりやすい。

 逸れた話もあったが、メイドに付いて歩いていると香ばしい匂いが強くなってきた。

 そしてまた、屈強な男二人の間を通って扉を抜けると外に出た。

 すると隣の店からいい匂いがしていたことに気が付く。


「この目の前にある、お店が王都名物薬草団子を作っているお店です」


 この匂い、冒険者ギルドに行くとき毎回嗅いでいた匂いだ。

 パン屋だとばかり思っていた。パンは特に買う必要がなかったから無視していたが、名物を作っている店とは。

 香ばしい香りはゴマだろうか。それとも薬草を混ぜるとこの匂いになるのか。


「皆様、ポーション製造工場の見学は終了です。今から冒険者ギルドに向かいます」

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