第16話 暗部・情報部隊隊員 ギルベルタ・ウルフ


 ○


 ギルベルタ・ウルフ。今は二十八歳で情報部隊に所属している。

 暗部隊長より世話係への推薦があり、私が隊長、ベンノ・シュタインドルフの相棒になった。


 元々、暗部でも私が情報を、隊長が暗殺を実行していた。

 暗部の創設期からいる隊長は暗部隊長と親しく、情報部隊にとっては邪魔な存在になっているらしい。


 情報部隊は安全という訳ではないが、腕が無ければ死ぬようなギリギリを切り抜けているわけでもない。

 そういう危険度の違いから情報部隊は暗部でも下に見られがちだ。


 隊長はそういうことを気にしない人だが、隊長の下に居る人達は情報部隊と実行部隊のどちらが上かと気にしている。

 情報部隊は暗部隊長が集めた者達で結成されている。それだけに実行部隊の隊長と暗部隊長が親しいのは嫌なのだそうだ。


 私自身は気にならないのだが、情報部隊の隊長は大層気にしている。

 だから、私はベンノ・シュタインドルフに関する情報を情報部隊の隊長に渡す事も仕事の一つになっている。


 今まで渡してきた情報と言えば、仕事以外に冒険者として依頼を受けていること、貴族街で下着を買っていること、露店にある空エビの素揚げが好物、冒険者の仕事では刀を使う事だった。


 他は特になかったが、今日情報を得た。

 隊長は仕事を辞めるつもりだったようだ。

 情報部隊隊長はさぞ喜ぶだろうが、話を聞くに暗部隊長はやめさせるつもりがないようだった。


 しかし、困ったことに去り際の一言で私は隊長の中で少し面倒に区分されてしまったようだ。

 最初の方は楽し気に話をしていた。途中で隊長の心の裡が少し見えそうな会話もあったが、最後の最後で情報部隊の誰かが出てきたんだと思う。


 実行部隊よりも隠密が下手なのだろう。気づいた隊長は私にも分かるようにどちらともとれるような言葉を残していった。

 世話係同士の事なのか、それとも暗部のことなのか。

 でも世話係はそもそも、いがみ合うまで互いを知らない。それに隊長の場合はいがみ合うというよりも、嫌われる、が正しい。


 であるならば、暗部の事だと考えられる。

 隊長が食堂から出て行き、配膳を行う扉から情報部隊の隊員が出てきた。

 二人いるようだ。緑色の髪の女と赤い髪の女。


 情報部隊隊長が育成中の二人で、情報部隊が動かせる実行隊員みたいなものだ。

 いずれは実行部隊隊長で試してみるのだろう。恐れ知らずは無知と変わらない。


「ウルフ。あいつは情報を話したか?」


 緑髪の女は面倒臭そうに聞いてくる。この女は嫌がるだろうが、雰囲気が隊長に似ている。


「どうだ?」

「はい。仕事を辞めたがっていたようでしたが、この仕事が入ったためできなかったと」


 緑髪の女はその尖った耳を動かして首を傾げ、赤髪の女は危機察知の為の獣耳を何度か動かしていた。


「そうか、よくやった。それよりお前の魔眼を使って情報を聞かないのか?」

「どうだ?」


 赤髪の決まった言葉に顔をしかめたくなるが、グッと我慢をして答える。


「使ったことはありますが、効きませんでした」

「それは報告しているのか?」

「どうだ?」

「しています。もうよろしいでしょうか?」

「ああ行け」

「いけ」


 私は自分の部屋まで急ぎ戻った。

 あの二人が来ているか分からないが、部屋に入って安心したくなった。殺されそうとかそういうわけではないが、情報部隊でいる限り、誰と誰が繋がっているか分からない。


 大したことのない世間話から、情報が回ることもあるのだ。

 部屋に着き、扉を開けようとした時、扉に人の影が見えた。


 ハッとして後ろを振り向くと、あの二人ではなく、暗部隊長の姿があった。

 顔は相変わらず見えないが、左手の親指には黒い指輪をしていた。初めて見るものだ。


「ギルベルタ、少し話がある。部屋に入って結界を張れ」

「わかりました」


 私、これからどうなるんだろう?

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