第14話 認められるベンノ
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カッターとの模擬戦を終えた俺は刃こぼれしている刀を見て、次に買う時はセール品以外で買う必要があると思った。まあ、アダマンタイトの次に何を買うかは分からないが。
イトウの所に戻ると得意げな顔でこちらを見てくる。
「どうしたイトウ様? 動けるなら素振りをしろ」
「ベンノさん、案外やるじゃん」
「そうだろ。はい、素振りすぶり」
「これ。一応見といて」
渡されたのは鑑定結果が書かれた紙だった。
イトウが持つスキルは、近接武器術、軽業、体術、魔剣技だった。
スキルには後天的に習得できるものと先天的に覚えているものがある。
近接武器術、軽業、体術は後天的に覚えることが可能なスキルだが、魔剣技は違う。
「イトウ様、魔剣技持ってるじゃないか。SSSランクの冒険者の内二人がそのスキル持ってるんだぞ、すごいスキルだ」
「私もそう思ったけど、それ、使えなかったよ?」
イトウ自身もすごいスキルだと感じたようだ。
「当たり前だ。地力の話しただろう。魔力の扱い方も体の動かし方も足りないんだ。訓練しろ」
「分かった。じゃあ、今から素振りするからカッターさんの剣切った方法教えて!」
随分と向上心と好奇心の強い転移者だ。イトウの言葉を聞いたのか、重い足音も早足で近づいてきている。
「その話、私も聞きたい」
「カッターさん、転移者様のお世話は?」
「安心しろ、問題ない」
だろうな。視界の端にサトウが来ているのを確認した。
「それで、ベンノ・シュタインドルフ。どうやって私の長剣を斬った?」
「刀術だけど」
「それはスキルだろう、ルールに反しているのではないか?」
「それならカッターさんが使ってる王国騎士剣術もだろう?」
刀術や王国騎士剣術は強い一撃を出すスキルではないが、型に沿った動きをすれば何故か刃が通りやすくなったり、ただの攻撃の威力が上がったりする。
「よく騎士剣術だと分かったな」
「長剣持ってる人は大体が騎士剣術だ」
実際、長剣と片手半剣は騎士剣術のスキル持ちが多い。
暗部の片手半剣使いに騎士剣術が生えてきたときは皆で爆笑したものだ。表の身分を得られたなと皆に揶揄され、今では騎士様と呼ばれている。
「だが、納得いかない。どうして斬れた、あの長剣はミスリルだぞ。いや、魔力を流して……強度を上げたか?」
「違うちがう。えーと、最上級の鑑定、受けたことあるか?」
「ああ、近衛隊だからな。それが?」
「俺ももちろんある。最上級の鑑定では名前、職業、年齢、性別、体のあらゆる大きさ、過去から現在までの事が結果として現れる。その職業でどんな武器が使えるかも大体決まる」
「確かに、私は近衛隊騎士だった」
「そうか。騎士には打たれ強さが求められる。近衛となれば倒れたら終わりだろ、他の人よりも倒れない強い固い者が騎士になるんだ。現状、理解してる?」
サトウが長い杖を持ったメイドを連れて、話を聞いている。
後ろを見るとイトウは眉間に皺を寄せ、首を傾げていた。
「理解している、それで?」
「刀を使う奴は他の人よりも強くて固い奴じゃなくて、他の人よりも速くて軽い奴なんだ」
「私は他にも盾や棍棒、メイスを使えるが他には適性がないのかスキルが生えなかった」
「そうだろ。俺は片手半剣を二年使ってたがスキルは生えず、刀は一か月で生えた」
「それが、長剣を斬ったことにどうつながる?」
ちょっと話を変えたら忘れて、鑑定の話に流れてくれると少し期待していた。
「刀は防御をすることに向いていない、切ることに特化している。その持ち味を発揮できる者にスキルが生える。カッターさんの剣筋を見切り、切る場所を決め、それに沿って刀を動かす。それで切ったってわけよ」
カッターとその後ろのサトウは目を見合わせて、こちらを見た。
「それで本当に切れるのか?」
「切れるよ。俺ぐらい練度が高ければな」
実際、魔力や刀技を使えばもっと簡単に切れる。
相手が魔力を使っていれば極端に切れなくなるが、今回のように武器をただ打ち合わせるだけの状態でミスリルや鉄であれば切れる。
というより、カッターは総ミスリルの長剣だったのか?
純度が高いミスリルは金属の中では柔らかい方だ。長剣として使うなら鉄との合金にして使うのだが、俺が切ったというより、切りやすい素材だったのかもしれない。
「カッターさん、それはぁ、本当ですよぉ」
長い杖を持ったサトウの世話係であるエナハートが俺の言葉を肯定した。
「なっ⁉ エナハートがそう言うなら間違いなさそうだ」
俺は思わず首を傾げてカッターを見た。
「ああ、あれだ。魔力を見ることができるスキルだ」
「なるほど」
冷静にそう言ったが、はっきり言ってものすごく面倒が増えた。
王都の監視をしている暗部を呼ぶのに合図があるのだが、魔力を使う為、使いづらくなった。
「冒険者、不潔さ以外は見直しました」
そう言ってキンブルは薄板刀を渡してくる。
「そうだろ、見た目の不潔さがあるだけだから、実際清潔だ」
「イトウ様が素振りをしています。見てあげてください」
「はいほーい」
何故か、イトウの隣でカッターも素振りを始めた。
「ベンノ・シュタインドルフ。私はお前を認める、ミノル様達の世話係にふさわしいと感じた」
「そうかい、カッターさん。どうも」
喜ぶべきことなのか、判断つかない。
「ベンノ・シュタインドルフ。その話し方はどうにかならないのか?」
「ならんよ、カッターさん。そっちの名前呼びもどうかと思うけど?」
素振りに集中しながら話し続けるカッター。
「シュタインドルフ。カッターもしくはハワードでいい」
「じゃ、シュタインドルフは長いからベンノでいい。カッター」
「分かった、ベンノ」
仲が深まったのか、相手を呼ぶ面倒が減ったのか、認められたことだけは分かった。
周囲を見ると、素振りを再開している転移者が多数いた。
イトウとカッターもそれから宰相が終わりを告げるまで素振りを続けた。
「皆様、食事の時間となりました。今持っている武器を世話係に預け、食堂に向かいましょう。本日の訓練はこれで終了ですが、明日からは———」
話が長かったからまとめると、明日からは魔法や魔術スキルを持つ者はそちら訓練する。持たない者は今日のように素振りして慣れる。そして、昼からは基礎体力を上げる走り込みなどを行うという。
「ベンノ、はい、これ。ご飯行くよ」
「イトウ様は許可してないぞ」
薄板刀を受け取り、文句を言う。
「いいでしょ、別に。私も許可するからタメ口でいいよ」
「私は許可しません」
俺の前を歩く二人が好き放題言ってくる。
イトウは自分もいいから、キンブルは乗っかってくるかと思いきや、タメ口はダメだと言う。
「わかった。イトウにキンブルだな」
「私は許可を———」
「はいはい、もういいから」
イトウよりもキンブルの方が面倒臭い。
食堂に向かっているとこちらに来る一団があった。
「杏夏、昼から第二区回らない?」
「ここって何かあるの?」
「さあ、でも建物に入る許可は取ってあるって」
「へー。二人とも一緒に回る?」
勇者一行で第二区を回るそうだ。特に何もないと思うのだが、楽しいのだろうか?
ここはチャンスだと思いギルベルタを見ると、向こうもこちらを見ていた。
眠たそうに二度まばたきして、イトウに返答する。
「俺は休む」
「キンブルさんは?」
「私は同行します」
食堂に着くと朝と同様の席に座り、食事が始まった。
相変わらず世話係の間では話がないと思っていたのだが、イトウがこちらに話を振ってきた。
「ベンノさあ、刀を使えるか疑われてたけど、あれはなんで?」
「ああ、あれは———」
俺が言おうとしたのを遮って公爵令嬢が説明を始めた。
「イトウ様、冒険者の間で一時期、刀を使うことが流行りました。勇者が伝えた武器ということで元々持っている人は多かったのです。しかし、ろくに扱えず死亡する初心者は増え、今では鍛冶師も刀を専門でしている人はいません。その名残でサブの武器として持っている人もいますから、それで疑われたのではないでしょうか?」
「そういうことだ」
会話はそれで終わり食事が再開した、と思ったらカッターが話しかけてきた。
「ベンノ。刀は誰に師事したんだ?」
「偶然出会った旅人だ」
「本当か?」
「ほんとホント」
「私は予備の長剣を持っているが、ベンノは予備の刀を持っているのか?」
「いや、持ってないけど、明日には出来るって聞いてる」
「いつ、頼んだ?」
「昨日」
段々と周囲の視線がこちらに向き始めたのが分かった。
少し遠い副隊長もこちらの話を聞いている。
「昨日頼んで明日できるのか?」
「刀身以外は元々あるのを使うし、刀身も別に鍛える必要ないって言ってたぞ」
「それは刀か?」
「一応、今日鍛えて、明日の朝一で拵えとか付けるって言ってたな」
「それ信用できるのか? 金はどうした?」
「もう全額払ってる」
「大丈夫か? 騙されてないか、いくら払ったんだ?」
「大丈夫だろ。昔からの知り合いだし、腕は確かだぞ」
どうにか話を終わらせたつもりだったのだが。
「私もそれ聞いたよ。アダ……なんとかって金属で作るって」
「あだ? アダマンタイトか!?」
共に食事を摂っている騎士達以外の目線が一気に俺に集中したのは、イトウの所為だ。
思わず怒気を込めてイトウを睨んでしまった。
一瞬体をビクッとさせて苦笑いしながら、勇者達の会話に戻っていった。
後で絶対文句言う。
「ベンノ。おま、お前冒険者だろ。どうしてアダマンタイトなんて手に入るんだ?」
「冒険者だからだよ」
カッターの質問に適当に返事をしておく。
冒険者はアダマンタイトなぞ、ほぼ手に入れられない。後、旅人から刀を習ったわけでもない。
「短剣でも二千万からなのに、刀っていくらだ?」
「刀身の長さ見て考えろ」
周囲からの視線を煩く思い、食事をさっさと終わらせていく。
「冒険者とはそこまで儲かるものなのか?」
黒騎士の隊長、サージェントが俺に聞いてくる。
「受ける依頼次第だ。魔族と交戦の可能性があれば、一日百万は稼げる」
「なるほど。危険だからこそか」
納得顔のサージェントにこちらも同調したように頷き、食事を終わらせた。
「キンブル、世話任せたぞ」
「言われなくとも」
考えていた通り、素直な返事はもらえなかった。
俺は食堂から出て与えられた部屋に戻った。
ベッドで二十分ほど寝ていると扉をノックして、待ち人来る。
「シュタインドルフさん、何か飲みながら話でもどうです?」
「いいな」
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