第4話 宰相 クリフォード・パスコ―


 ○


 もう二十人くらい転移者の名前を呼んだ。

 騎士とメイドも同数呼んだが、視界にベンノは入ってきていない。


 近衛隊を務める白騎士、王城のある王都を守る赤騎士、反逆者の討伐を行う黒騎士が視界にいる。

 黒騎士は無口な者が多いが、王命により動く忠義に厚く、正義感の強い騎士達だ。

 白騎士は王族の近衛を務め、身辺調査を受けた一流の騎士達。


 白騎士と黒騎士は特に揉め事を起こさないが、赤騎士と白騎士が偶に揉め事を起こす。

 王都で巡回をして犯罪者を捕まえたりと最も数の多い赤騎士は騎士の中でも新人が多い。

 そして不祥事を起こす事は赤騎士が最も多い。数の多さもあるが仕事に意義を持てなくなる者は、勤務中に酒を飲んだり、悪事に加担したりする。

 たった一部の赤騎士だけだが、白騎士は気に入らないようだ。


 しかし、ここに並んでいるのは、騎士の中でも一流で仕事も一流の者達だ。私の部下に調べさせただけはある。

 素行が伴っていない者もいるだろうが、黒騎士がいる限り問題は表面化しないだろう。

 それよりもベンノが見えない。来ているという報告を受けているが実際どうなのか。


 鑑定の結果から勇者の近しい友人にベンノを当てるのだが、いるのか分からない。

 そうして残り十人になった頃、体を揺らしているベンノが見えた。


「キョウカ・イトウ様、世話係にベンノ・シュタインドルフ、マリオン・キンブル」


 よかった。

 そう思っていたのだが、近づいてくるベンノを見て、唖然とした。

 どうしてただの冒険者の恰好なのかと。

 白騎士が渡すはずの支度金に私の金を入れ、少し増やして渡したのにどうしてその恰好なのか。


「イトウ様、こちらがあなたの世話係になったA級冒険者のベンノ・シュタインドルフです。身の回りのお世話をします、マリオン・キンブルです」

「へー。宰相さん、何で私は騎士じゃないの?」


 当たり前の疑問だ。

 ベンノはどうでもいいのか、ベルトに掛けている武器に肘をのせてボーっとしている。


「鑑定の結果から、イトウ様は近距離で戦闘するスキルを持っていることが分かりました。しかし女性という事もあり、力で勝負するのは難しいと思われます。この冒険者ベンノは技を持って力を制すことのできる冒険者ですから、イトウ様に選びました」

「そうなんだ。だから刀持ってるんだ。でも、刀短くない?」

「そうなんだよ。この前、魔物の大群に襲われて撃退した時にはボロボロで、それを使って打ち直してもらったんだけど、短くなって返ってきたんだ」


「それよりも、ベンノ・シュタインドルフ。その恰好は何だ?」

「冒険者の正装はクエストを受ける時の服だろ、宰相」

「支度金を渡しただろう。それで服を買えと言ったはずだぞ」


 そのことを言うとベンノはニヤッと笑って、支度金の話題を待っていたのが分かった。


「支度金は武器を買うのに使った。短くなってしまった愛刀の代わりをオーダーしたんだ」

「あの金額で作れる武器は、総ミスリル、鉄とミスリルの合金武器くらいだろう」

「残念、宰相。俺の貯金と支度金を使って、俺はアダマンタイトとミスリルの合金刀を作ってもらっている所だ」


 ベンノの腕なら見合った道具だろうが、貯金がなくなったのではないだろうか。それよりも。


「イトウ様、団体部屋でなくても大丈夫ですか?」

「大丈夫、宰相さん。それよりその武器って高いの?」

「はい、イトウ様。とてつもない金額です。騎士の給金十年分に相当します」

「十年⁉ あんたそれ大丈夫なの、生活⁉」


 年数で言われれば価値が分かったのか、イトウ様はベンノの心配をしている。


「イトウ様、大丈夫。世話係をしていればお金は入って来るから」

「ならいいけど。私は伊藤杏夏。これからよろしく、ベンノさん、マリオンさん」


 話が長くなりすぎたようだ。転移者、騎士、メイドがこちらを見ている。


「イトウ様、名前がベンノ。よろしく」

「私はマリオンでも、キンブルでも、どちらで呼ばれても構いません。イトウ様、こちらこそよろしくお願いします」

「ベンノ・シュタインドルフ、給金が出れば服を買いに行きなさい。イトウ様、こちらのメイドが部屋まで案内いたします」


 私の後ろに控えていたメイドが第二区の新設された兵舎に案内する。

 元々は魔族の侵攻に備えて貴族の子弟達を鍛える場と考えていたのだが、勇者一行に使われるなら貴族子弟も文句はないだろう。


 去っていくベンノを見ながら『これからアイツは忙しくなる』そう思うと心がウキウキしてきた。

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