第11話 胡散臭さが漂う冒険者
大半が食事を終えた頃、勇者ミノルは立ち上がった。
「それじゃ、第一訓練場に行こう」
勇者ミノルは場所を知らないだろうに、真っ先に食堂から出て行く。
それについていくのは仲間である五人の転移者。その後ろを世話係集団が続く。
第一訓練場に行くと紙を持ったメイドと宰相がいた。
数分もしない内に転移者が集まったのか、宰相は話始めた。
「今から皆様の名前を呼びます。そして現状持っているスキルを記した紙とスキルに合う模擬用の武器をお渡しします。指南係の方も付いてきてください」
そう言って案の定、最初に勇者ミノルが呼ばれた。
「すみません。遅れました」
二十人くらいの赤騎士が様々な武器の入った箱を荷車にのせてきた。大型の荷車で車輪が四つ付いている。
宰相は勇者ミノルに紙を渡し、騎士剣よりも長いが長剣よりは短い片手半剣を荷車上の赤騎士が渡していた。そして副隊長にも同じ模擬戦用の片手半剣が渡されていた。
それから何人もの転移者が宰相の下に向かい武器を渡されていた。
近接武器のスキルがある者は長剣、片手剣、小盾などの武器を渡されていた。
偶に長めの杖が渡されたり、短い魔法使い用の杖を渡されている者もいた。近接武器スキルがない者達だ。
「キョウカ・イトウ様」
イトウに付いて宰相の下まで行くとイトウに紙を渡す。
「刀だ」
宰相がそう言うと赤騎士は長めの刀を渡してきた。
「ベンノ、これでいいか?」
宰相はニコニコしながらこちらに聞いてくる。絶対にこれじゃ駄目だと分かっている顔だ。
身長に比べて刀が長すぎる。
黙って受け取り、赤騎士に刀を返す。
「もっと短いのは?」
「こちらでどうです?」
赤騎士に渡されたのは、俺の愛刀の折れる前と同じくらいの長さを持つ刀。
目測で八十センチだろうか。
「もう一本」
そう言って模擬戦用の武器を頼むと赤騎士が思わず笑い出した。
「宰相様、刀を使えるんですかこの方は?」
宰相の傍だというのに笑いの輪が広がっていく。
それに気づいた転移者達、世話係達の集団も騒がしくなっていく。
「俺の腰についてるの見えるだろ。早く渡せ」
嘲笑が広がると面倒だからと急かすと輪が広がった。
ガヤガヤと話声が広まっていった時、場を制する一声が上がった。
「みんな! どうして笑うんだ? ベンノさんの実力を僕らは知らないだろう。実力がなければここにはいない、そうだろう? これからの為にも戦闘訓練を早く始めよう」
勇者ミノルは今ので勇者たる資質があると認められただろう。うるさい場を一言で制すのは戦場では重要だ。
ダシにされた俺は嫌な気分だが。
「赤騎士の君、名前は?」
「はい、ロック・コーイェンです」
「ロック、君はなぜ今、そこで武器を渡しているんだ?」
宰相が赤騎士に謎の質問をし始めた。
「警備隊に与えられた仕事だからです」
「そうだな。君に厳しいことを言おう」
「は、はい」
「なぜ、君ではなく、あの男が世話係にいると思う」
宰相は俺を指差して赤騎士に問う。
「分かりません」
「私が冒険者の彼に依頼したからだ。なぜ依頼したと思う?」
「分かりません」
「あの男が他の騎士よりも優秀だからだ。分かったか」
「あ、はい」
「なら、あの男に刀を渡すんだ」
赤騎士がガクガク震えながら俺に刀を渡してきた。
宰相は俺にアイコンタクトをしてきたが、何を言いたいのかはさっぱり分からなかった。
もしかすると、気のせいだと思うけど、たぶんそうじゃないと思うのだが、模擬戦の事と長めの刀を渡して騒動を起こした謝罪かもしれない。
そんな訳はないだろうから、頭を抱えるような事をいつかしてやろう。
宰相に対してニヤっと笑い、イトウと共に集団の中に帰ろうとしているとキヨマが世話係を引き連れてやって来た。
「あれ、キヨ? どしたの?」
「いや、カッターさんがシュタイン、ド、ドルフさんに話があるみたいで」
「シュタインドルフね」
それなら宰相の近くから離れて集団に紛れてからにしてくれ。
そう思いカッターを見るとこちらを見ていた。
周囲から視線を浴びて、トイレに行きたくなった。腹痛で模擬戦流せないかな。
「ベンノ・シュタインドルフ。模擬戦は私としよう」
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