第24話 思い込みベンノ

 

 ○


 刀と短剣を受け取ってから二週間が経過しようとしていた。

 今日は休日前の最後の訓練日。明日はいよいよ転移者達が楽しみにしていた王都への外出だ。

 食堂で夕食を食べている時、宰相がやってきて話始めた。


「皆様、お食事中失礼します。先日、お話ししましたように明日は王都への外出となります」


 宰相がそう言うと転移者達は周囲の者達と会話を始めて、騒々しくなる。


「皆様! 明日の朝は冒険者ギルドとポーション製造工場に強制的に向かっていただきます」


 俺に怒鳴るとき以上の声で転移者達を黙らせた宰相は話し続ける。


「この二つを見学後は皆様のお好きなようにしていただいて構いません。しかし、世話係の元を離れることがあった場合、命の保証は出来かねますのでよろしくお願いします。失礼します」


 言葉がきつくなったから、深く頭を下げて帰っていく宰相。

 転移者達は特にそれを気にすることなく、会話を始めていた。

 俺の近くにいるイトウも勇者達と自由行動の時間に何をするか考えているようだった。


「私さ、露店巡りしたい。キムが趣味って言ってたから」


 スズキはそう言ってレイに目配せをした。

 レイは恥ずかしそうに笑い、会釈をして食事を再開する。


「いいんじゃないか。俺も異世界らしい料理食べてみたい」


 そうやって勇者が賛同すると、他も問題ないと言い出した。


「ミノル様。露店巡りをされる前に私が武器を任せている鍛冶屋に行きませんか?」


 そう言い出したのは副隊長だ。第二王女が武器を任せている鍛冶屋って、金が相当かかりそうだ。


「宰相さんは、まだ僕達に真剣を持たせるつもりはなさそうだったけど、ガブリエラ?」

「知っています。ですので武器を注文する為、その鍛冶屋に向かいたいのですがどうでしょうか?」


 初めての武器を作って貰うのか?

 第二王女ともなれば、随分といい環境にいたようだ。

 俺は今でもセール品を使う、暗殺の武器は何でも使う、どの鍛冶屋でも多少頑丈なら使うのに。


「お金はどうするんだ?」


 勇者の質問に少しだけ唸った後、副隊長はすぐに口を開いた。


「ミノル様達の武器を頼むわけですから、国からお金が下りるでしょう。今日中には確認しておきます」

「確認頼んだよ、ガブリエラ」

「はい、ミノル様」


 この二週間の内に何かがあったわけでもないが、副隊長と勇者は仲が深まったようだ。副隊長の歩み寄りがここ最近はよく分かる。


 転移して来た当初よりも親身になっているというか、メイドよりもメイドしてる。

 まあ、メイドは公爵令嬢でどことなく気が強そうな女性だし、メイドだがテキパキしている為、商会の会長やその秘書と言われた方がしっくりくる。


 他の違いと言えば、全員の武器や魔法の扱いが上手くなったことだろう。

 勇者は王国騎士剣術のスキルが生えたらしい。キヨマは魔弓術を少しだけ使えるようになったと聞いた。タカハシが大盾使いというのを最近知った。スズキとワタナベは魔法を少しだけ使えるようになったらしい。


 俺の担当する転移者イトウは技スキルを覚えてはいないが、攻撃と避けが上手くなり始めた。

 自分のペースで動き、脱力して無駄な力を入れない。

 そうできているのだが、攻撃に対して過剰に避ける為、次からは逸らす訓練をしようかと思っている。ただ、全員がこのまま冒険者として出しても問題ないくらいには成長している。たった二週間でだ。


 覚えがいいし、攻撃も段々と鋭さを増してきている。

 魔物に攻撃することが出来るようになれば、旅立ちはすぐに訪れそうな気がする。

 まあ、旅立つ前に色々終わらせなければならないこともあるだろうが、俺が気にしても仕方ないこともあるから、どうにかなってると思うことにしている。


「それじゃあ、明日は鍛冶屋に行ってから、露店巡りをするから、皆おやすみ」


 食事が終わると勇者はそう言って部屋に戻った。

 俺もイトウやキンブルよりも先に戻り、部屋で刀を抜いていた。

 日に一回は魔力を流すらしいから、いつもこの時間にしている。


 銘が緋煌というらしく、ダサさがあると俺は思うのだがラッドはそうでもないみたいだった。

 俺は誰にも銘を教えていないし、教えるつもりもない。

 そもそもこの刀に緋色の要素なんて欠片もないのだが。

 ダサい名前だが、魔力を流すと通りがよく、金を掛けただけあったなぁと実感する。

 刀を納めて風呂の順番を待った。


 結局風呂に入ったのはそれから二十分後で風呂に入ってすぐに寝た。

 深夜、いつも似たような時間に起きる。

 ここ最近、この時間に起きてしまうのは理由があるのだが、無視している。

 俺が気付いているように、他の者も気付いているだろうから対処してくれるだろうと考えているからだ。動くのは面倒くさい。


 今日は、ようやく誰かが対処する気になったのか、動きがみえた。

 見えてはいないが、こちらに近づいてきているのが分かる。小さな足音の主が俺の部屋の雨戸を叩いた。


 無視して布団を被ると雨戸の動く音がする。

 嵌め殺しの窓だったらよかったのだが、出来の良い兵舎は観音開きの窓でそれが開く音もした。

 ゴツっと重めの靴が部屋の床を踏み、俺が被っていた布団を引っぺがした。


「隊長、奴が動きましたよ」


 目を開けると近衛隊から隠れて王族の警護をしている実行部隊の女がいた。

 王族警護監視員として、一日中仕事をしているのに深夜まで仕事とは、俺には難しい。働き者だ。


「隊長、早く起きて」


 ずっと小声でそう言っているが、俺は無視して目を閉じて、忙しそうな部下に教える。


「気にせず寝てろ。そこまで馬鹿な奴じゃないから大丈夫だ」

「隊長、本気ですか? 相手の懐で隠れられていると思ってる奴ですよ。馬鹿でしょう?」


 そう言われればそうだ。

 という事はそれに気付かない俺も馬鹿だ。眠気が一気になくなった。


「どうするんですか、勇者暗殺を企むようなバカだったら?」

「確かに。それはダメだな」


 俺が俺を見つめ直すいい機会になった。

 薄板刀を取り、寝間着のまま紐も結ばず靴を履いた。


「キンブルの所まで案内してくれ」

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