33話 修羅場の予感1


 そんなこんなで迎えた月曜日のお昼休み。


 何故か朝から鷺ノ宮さんに怒られてしまったわけだが、それはそれとして彼女にお付き合いは出来ない旨を伝えに行かねばなるまい。


 やっぱり罪悪感で付き合ったりえっちなことをするのは間違ってるからな。


 別に俺もそこまでして欲しいわけじゃないし、もう許しているということをきちんと伝えようと思う。


 そう思っていたのだが、



「デート」



「えっ?」



「いや、だってあんたあたしとそういうことしたいんでしょ? ならその、雰囲気っていうかさ……。出来ればちゃんとムードを作って欲しいっていうか……。恋人ってそういう感じじゃん……?」



「……うん?」



 い、いつの間にか恋人になってるーっ!?


 がーんっ、とすこぶるショックを受ける俺。


 え、ちょっと待って!?


 俺まだ〝付き合う〟とか一言も言ってないんだけど!?


 なんでもうOKした感じになってるの!?



「え、あの、鷺ノ宮さん……?」



「でもよかった。てっきり白藤先輩と付き合ってると思ってたから……」



「あ、いや、雪菜さんとは別に付き合――」



 ってることになってるっぽいんだったーっ!?


 ずーんっ、と再びショックを受ける俺。


 いや、そりゃ確かに頬にキスはしたし、おっぱいに顔を埋めた上、お母さんにもご挨拶して同じベッドで寝たりしたけど、だからって恋人ってことには……には……。


 ……。


 うん、それもう恋人だよ……。


 てか、恋人以外そんなことしねえよ……。


 冷静に考えたら普通に恋人ムーブだったよ……、と思わず魂が抜けそうになる俺だが、そんなことを悠長にしている場合ではない。


 ここで鷺ノ宮さんの誤解を解いておかないと、まさかの〝二股状態〟に突入してしまうからだ。



「あ、あの、鷺ノ宮さん!」



 ゆえに俺は決死の覚悟で声を張り上げたのだが、



「雫」



「えっ?」



「あたしのことは〝雫〟って呼んで。その代わりあたしもあんたのことを〝照〟って呼ぶから。ほら、呼んでみて」



「え、あ……し、雫……さん?」



「〝さん〟はいらない。それだとなんかあの人と被るし……」



「えっ?」



「なんでもない。とにかくあたしのことは呼び捨てで構わないから。分かった? 照」



「う、うん、分かった……」



 って、素直に頷いてどうすんだよ!?



「い、いや、そうじゃなくて!? お、俺はキミとは付き合え――」



「じゃあデート楽しみにしてるから。……またあとでね」



 どこか恥ずかしそうに足早で去っていく鷺ノ宮さんに、一瞬ぽかんとしてしまった俺だったのだが、はっと正気を取り戻して彼女の背に手を伸ばす。



「ちょ、ちょっと待って鷺ノ宮さ……じゃなかった!? し、雫ーっ!?」



 が、思った以上に健脚だったらしく、雫の姿はあっという間に見えなくなってしまったのだった。



「……」



 いや、どうすんだよこれ!?



      ◇



 これはマジでやばいと焦燥感に駆られた俺は、急いで雫のあとを追ったものの、彼女の姿を見つけることは出来なかった。


 きっと誰かほかの女子とでもお昼を食べに行ってしまったのだろう。


 ならば一体どうすればいいのか。


 雫のアドレスは未だに消したままだし、こんなことを姉さんや雪菜さんに相談するわけにもいかない。


 ゆえに俺は一縷の希望を胸に部活棟へと駆け、そしてその部屋の扉を開けた。



 ――がらっ!



「湖ちゃん先輩!」



「のわあっ!? せ、せめてノックくらいしたまえよキミぃ!?」



 ばばっと湖ちゃん先輩がその豊満な胸元を両腕で隠しながら後ろを向く。


 どうやら着替え中だったらしく、がっつり下着姿であった。



「す、すみません!? ……って、うん?」



 なので俺も慌てて後ろを向こうとしたのだが、その時たまたま目に入ってしまった。



「まったく最近の若者はどうなっているんだ……」



 そうぶつぶつ言う湖ちゃん先輩のおケツに、可愛らしい〝くまさん〟が住み着いていたということを。


 そう、〝くまさんパンツ〟である。



「……」



 おかげで何故かちょっと冷静さを取り戻した俺なのであった。



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