7話 トラウマの主
「あっ……」
「!」
週明けの昼休み。
ふと学食に向かおうとしていた俺は、教室のドアを出たところでとある人物とばったり遭遇していた。
茶髪に染めたミディアムヘアと、気の強そうな猫目が特徴のギャル然とした美少女。
――
そう、俺にトラウマを植えつけた張本人である。
言い忘れていたが、彼女とは進学した高校が同じだった上、クラスまで同じになっていたのだ。
正直、その縁は勘弁してくれという感じだったのだが、世の中大体起こって欲しくないことが起こるものだからな。
今さら文句を言っても仕方あるまい。
とはいえ、あんなことがあった以上、以前のように接することなど到底出来るはずもなく……。
「……」
――すっ。
こうして顔を合わせては、あまり関わらないようそそくさと退散していたというわけだ。
まあそりゃそうなるよな。
だって気まずいし。
が。
「――ねえ、まだあの時のこと怒ってるの?」
「えっ?」
まさか呼び止められるとは思いもしなかった。
呆然と振り返った俺に、鷺ノ宮さんは腰に手をあて、不満そうな顔で言う。
「確かに凄く悪いことをしたとは思うけどさ、でも何回も謝ったじゃん。そんなにあたしが許せないの?」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
「ならどうして避けるの? やっぱり許せないからでしょ?」
「それは……」
許す許せないで言えば、もちろん許したくはない。
めちゃくちゃ傷ついたし、今でも女性不信だからな。
ただ俺をハメたやつらの中で、唯一鷺ノ宮さんだけが真剣に謝ってくれたのもまた事実だ。
恐らくは本人も気乗りせずにやっていたのだろうさ。
罰ゲームだって言ってたし、陽キャのノリだからな。
断り切れず仕方なくやっていたんだと思う。
でもさ、俺は凄く傷ついたんだよ……。
凄く、凄く傷ついたんだ……。
「ねえ、どうしたら許してくれるの? あたし、本当に悪いと思ってるんだよ?」
だからあまり関わりたくなかったんだ……。
彼女に関しては色々と複雑な感情が渦巻いていたから……。
「いや、俺は……」
そんなこととはつゆ知らず、詰め寄ってくる鷺ノ宮さんに、正直参っていた俺だったのだが、
「――あ、弟くん。ここにいたのね」
「「!」」
その時、ふと雪菜さんが俺を呼びに来てくれて、助かったと胸を撫で下ろす。
「……ふん」
さすがの鷺ノ宮さんも雪菜さんがいる前で続ける気はなかったようで、不機嫌そうに教室へと向かっていった。
そうして入れ替わるように雪菜さんが近づいてくる。
「あら、お邪魔だったかしら?」
「い、いえ、大丈夫です」
むしろ来てくれなかったら今頃どうなっていたことか。
俺が内心感謝の意を示していると、雪菜さんは「本当に?」と小首を傾げた後、さらにこう問いかけてきた。
「もしかして彼女さんだったとか?」
ぶっ!?
「ち、違いますよ。鷺ノ宮さんは中学が同じなだけで、ただのクラスメイトです」
「あら、そうなの?」
「ええ。なので別に彼女とかそういう関係ではないです。ちょっと雑談をしていただけなんで」
まあ、〝彼女になって欲しい人〟ではあったんだけどな……、と過去のことを思い出して微妙に寂しい気持ちになる俺に、雪菜さんはふふっと微笑んで言った。
「それはよかったわ」
「えっ?」
「だってあの子が彼女さんだったらとてもショックだったもの」
「ショック?」
それはあれか。
今までのようにからかえなくなるとかそういうことだろうか。
「ええ。だって彼女になりたいのはほかでもないこの私だしね」
「んなっ!?」
ちょ、いきなり何言ってんのこの人!?
てか、こんなところでそんなことを言ったら色々と誤解されるだろうが!?
「あ、あの、雪菜さん!? と、とりあえず場所を移動しましょうか!?」
「あら?」
そう言って、俺は雪菜さんの手を少々強めに引く。
「うふふ、意外と強引なのね。でもそういうところも好きよ」
「雪菜さん!?」
だからそういう冗談は人気のないところでにしてくれ!
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