4話 初デート1
『……』
――ざわざわ。
周囲からの突き刺さるような視線を一身に浴びる中、俺は雪菜さんに尋ねる。
「あ、あの雪菜さん……?」
「うん? なあに?」
「い、いえ、その、さすがにくっつきすぎなのではないかと……」
腕どころか、頭までぴったりと寄り添ってきてるし……。
てか、色々当たってるんですけど……。
「あら、私にこうされるのは嫌?」
「い、嫌とかそういう問題ではなく……。む、むしろ雪菜さんはいいんですか? こんなところをクラスの人とかに見られたりしたら……」
と、俺としては何気ない質問だったのだが、雪菜さんにとってはあまり聞いて欲しくないことだったらしい。
その瞬間、今まで笑顔だった雪菜さんは、どこか寂しそうに俺から視線を逸らして言った。
「別に構わないわ。だって私の友人はひよりだけだもの」
「えっ?」
それってどういう……、と呆けていた俺に、雪菜さんは再び微笑みを戻して言う。
「ふふ、そんなことより今は二人だけの時間を楽しみましょう? せっかくのデートなんですもの」
――ぐいっ。
「ちょ、ちょっと雪菜さん!?」
「ほら、行きましょう。私、あなたと見たいお店がいっぱいあるの。時間が惜しいわ」
「わ、分かりましたから、ちゃんと全部お付き合いしますからそんなに急がなくとも……」
そうやんわりと諭す俺だったのだが、珍しくテンション高めな雪菜さんは「ダーメ♪」とぐいぐい俺を引っ張っていったのだった。
◇
そうして雪菜さんに連れられ、俺はまず彼女とカジュアルな服屋へと赴いた。
陰キャな俺にとって、こういう陽キャ御用達のお店に入るのは少々抵抗があったのだが、突入してしまった以上は仕方あるまい。
大人しく空気にでもなっていようかと思う。
が。
「どうかしら? 弟くんの好みに合うといいのだけれど」
「え、ええ、とてもよく似合ってますよ……?」
「そう? よかった♪」
「は、はは……」
なんか彼氏みたいなことしてるんですけどー!?
なんだこれわ!? と内心困惑する俺の目の前では、雪菜さんが試着した服を恥ずかしそうに見せてくれていた。
しかも俺好みの服を選んでくれているみたいだし、完全に彼女ムーブではないか!?
ど、どどどどゆこと!?
いくら建前デートとはいえ、そこまでやる必要が一体どこにあるというのか。
いや、やってくれる分には全然構わないというか、むしろ嬉しいというか……。
今着ているのとかも、いわゆる〝童貞を殺す服〟みたいにめちゃくちゃ胸元が強調されてるやつだし……。
しかし雪菜さん、美人だから何着ても似合うなぁ……。
この際だし、俺もちょっと何か服を選んでそれを着てもらうというのも……。
「――っ!?」
って、何を普通に楽しんでるんだ、俺は!?
そうやって楽しい思いをしたあとにどん底に突き落とされたのを忘れたのか!?
クラスのやつらの笑いものにされて、悔しさに泣いたあの夜のことを思い出すんだ!?
「ふふ、私こんなにも楽しいデートははじめてよ。付き合ってくれて本当にありがとう、弟くん」
「……」
って、もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
そんな嬉しそうな笑顔を向けられたら、もうこう言うしかねえじゃねえかよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
「い、いえ、俺でよければいつでも付き合うんで、遠慮せず言ってください」
「ええ、ありがとう。そういう優しいところも大好きよ」
「~~っ!?」
だからそういう思わせぶりなところががががが……っ!?
当然、その後は冷静に服を選ぶどころではなかったのだった。
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