5話 初デート2


 初っ端から精神的にがっつりと削られてしまった俺だったが、二店目はさらにやばいところだった。


 店内には色とりどりの薄い布地が並んでおり、先ほどのお店と違って、いるのは女性客のみ。


 そう、ランジェリーショップである。


 さすがに男の俺がここに入るのはどうなのかと拒否姿勢を見せたのだが、「いえ、最近はカップルの方々もよく訪れるんですよ?」という店員さんの余計なお節介により、見事に逃げ場を失ってしまったのだ。



「実はね、私また胸が大きくなったみたいなの」



 そして言われたのがこの台詞である。


 たゆんっ、と両腕でその豊満なおっぱいを持ち上げながら、まるで見せつけるかのようにそう申告してきたのだ。



「そ、そうなんですね……」



 当然、ごくりと思わず喉が鳴る俺。


 確かに先ほど腕を組んだ時も素晴らしい弾力を誇っていたし、未だによき成長を遂げておられるのだろう。


 せめてその十分の一だけでもうちの姉さんに分けてあげて欲しいくらいである。


 運動部の助っ人をやっているせいか、弟目線でも中学の頃からまったく変わっていないように見えるし。


 って、それはどうでもいいんだよ!?


 まさかとは思うけど、これはあれか!?


 新しいブラジャーを選ぶ的な流れじゃないだろうな!?


 俺が内心嫌な予感を縦横無尽に走らせていると、雪菜さんがいつもの妖艶な表情でこう言ってきた。



「ねえ、弟くんはどういうブラが好き?」



「ど、どどどういうと言われましても!?」



 そもそも俺の知ってるブラってなんだ!? と俺は脳内をフル回転させてブラの映像を呼び起こさせる。


 しかしどんなに考えても頭に浮かぶのは姉さんのスポブラばかりだった。


 たまに母さんのスポブラまで出てくるから地獄である。


 何故うちの女子たちは揃いも揃ってスポブラ派なのだろうか。


 いや、それしか入らな(以下自主規制)。



「ふふ、そんなに難しく考えなくてもいいのよ? 単にどれを私に着けて欲しいかを教えてくれればいいだけだし」



「ゆ、雪菜さんに着けてほしいもの……?」



 って、そんなこと言えるかー!?


 どれを言ってもえっちな男の子だと思われるだろうが!?


 どうしろって言うんだよ!?



「ふふ♪」



「ぐぬぬぬぬ……っ」



 だが俺が答えを出さないと話が進まない。


 こうなったらもう何かそこら辺にあるものを適当に指差して乗り切るしかあるまい。


 どれを選んでもどうせ何か言われるのだ。


 ならばどれを選んでも行き着く先は同じ!


 はあっ! と俺は天の導きに従い、目を瞑りながらそこら辺にあったブラを全力で指差す。


 そして辿々しくもしっかりとした口調で告げた。



「こ、これがいいと思います!」



「あら……。本当にそれでいいのね?」



「はい! これを是非雪菜さんに着けて欲しいです!」



 よし、言ってやったぞ!


 あとは適当にそれを試着した雪菜さんをべた褒めして早々にこの場を去るだけだ!


 と、俺はそう勝利を確信していたのだが、



「でもこれ、シースルーだから全部透けちゃうのだけれど……」



「えっ……」



 しーす、るー……?


 なんですかそのお寿司の業界用語みたいな単語は……。


 どゆこと……? と俺は未だ自分が指差していた代物を見やる。



「げえっ!?」



 そこにあったのは、一体誰が着るのかと言わんばかりに透っけ透けのセクシー下着セットだった。


 もちろんそんなものを選んでいるとは微塵も思っていなかった俺は、愕然とした表情で雪菜さんを見やる。


 すると、彼女は頬を桜色に染めながらぽつりと呟くようにこう言ってきたのだった。



「もう、弟くんのえっち……」



「~~っ!?」



 当然、必死に弁解したものの、「……いいのよ、男の子だものね」と全然誤解が解ける様子はなく、しかも本当に試着してくれそうだったので、慌てて止めに入ったのだった。



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