14話 カラオケ2
「というわけで、まずは自己紹介だね。あたしは照の姉で、二年の小日向ひより。んで、こっちは親友の白藤雪菜。よろしくね、雫ちゃん」
「はい、よろしくお願いします。……白藤先輩も」
「ええ、よろしくね」
「……」
なんだこの地獄のような空間は……、と一人魂が抜けそうになる俺。
お察しの通り、俺たち四人はせっかくなのでと一緒の部屋で歌うことになっていたのである。
俺はまあよく知っている間柄なので別段構わないのだが、まさか鷺ノ宮さんまでOKするとは思わなかった。
というか、気まずくはないのだろうか。
曲がりなりにも目の前にいるのはハニートラップ(?)を仕掛けた相手の姉である。
当然、俺から事情を聞いている可能性もあるわけだし、普通なら非難されるのを忌避してお断りするはずだ。
なのにどうして彼女は一緒に歌うことを選んだのだろうか。
分からん……、と俺が頭を悩ませる中、姉さんが「じゃああたしから行くねー」と早速リモコンで曲を入力していく。
さすがはコミュ力おばけ。
一度挨拶したらもうお友だちみたいな感覚なのだろう。
『~~♪』
そうしてスピーカーから流行りの音楽が流れる中、姉さんがソファーから腰を上げ、得意げに美声を披露し始める。
やっぱり上手いな。
ひとカラでも若干恥ずかしがっている俺とは大違いだ。
と。
「ところで、あなたこの前弟くんとお話していた子よね?」
ふいに雪菜さんがそんなことを言い出し、鷺ノ宮さんも「ええ、そうですけど」と頷く。
「それが何か?」
「いえ、あの時はお邪魔をしてごめんなさいね。一言それを謝りたくて」
「別に構わないです。大したことは話していなかったので」
「そう。ならよかったわ。それともう一つだけ聞いてもいいかしら?」
「なんですか?」
「さっきはどうして二人でいたのかなって」
「それならもう説明したはずですけど? 偶然会ったからちょっと話していただけだって」
「ええ、聞いたわ。弟くんがお財布をお部屋に置き忘れるほど楽しいお喋りだったって」
「そうですね。とても楽しかったですよ。本当はもっと話していたかったんですけどね」
「あら、それは気が利かずにごめんなさいね。次からは気をつけるわ」
「いえ、お気になさらず」
「……」
え、何この空気……。
なんでこんなぴりぴりしてるの……?
確かお二人は初対面だったはずじゃ……。
てか、俺を挟んで剣呑な雰囲気になるのは正直やめて欲しいんですけど……、と俺が文字通り肩身の狭い思いでジュースをちゅーっと吸っていると、どうやら姉さんが歌い終えたらしい。
「あー気持ちよかったー」
そうにこやかに笑いながら、姉さんが席へと戻ってくる。
そして俺たちがまだ曲を入れていないことに気づくや、姉さんは相変わらず不機嫌そうな鷺ノ宮さんに、「ねえねえ、雫ちゃん」と笑顔で言った。
「今度はあたしとデュエットしない? 二人ともまだ曲決まってなさそうだしさ」
「え、でもあたしは……」
「せっかくだし一緒に歌おうよ。ストレス解消にもなるし、雫ちゃんの好きな曲に合わせるからさ。ねっ? いいでしょ?」
「わ、分かりました……。じゃあ……」
姉さんの圧に押され、鷺ノ宮さんがリモコンで曲を入力していく。
こうやって初対面の相手にもぐいぐい行けるところが姉さんの凄いところなのだが、正直今はそのコミュ力がとてもありがたく思えた。
あのままだったらマジで針の筵だったからな……。
『~~♪』
ともあれ、最初こそ辿々しかったものの、二人は並んでデュエットを楽しみ始める。
その様子にほっと胸を撫で下ろしていた俺だったのだが、
「ふふ、よかったわね」
「はわっ!?」
ふと雪菜さんにそう言われ、思わずびくりと肩を震わせる。
すると、雪菜さんはどこか背筋の寒くなるような笑顔で言った。
「あの子、凄く楽しかったんですって」
「そ、そうみたいですね……。そ、そんな感じの雰囲気じゃなかった気がするんですけど……」
「うふふ、そうなの?」
「あ、あはは、そうなんです……」
「……」
「……」
いや、なんか言ってくれよ!?
そんな無言で微笑まれたら恐怖しかないわ!?
にこにこと無言の圧力で迫ってくる雪菜さんに、俺は一人ぷるぷるとチワワみたいになっていたのだった。
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