15話 カラオケ3


 その後、雪菜さんに今一度一緒にいた理由を最初から懇切丁寧に説明したところ、「そうよね。だって私の方が弟くん好みのおっぱいだものね」となんとか納得してくれたようだった。


 てか、〝俺好みのおっぱい〟ってどういうことだよ。


 そもそも何故俺が巨乳好きなことを知っている……。


 もしかしてやつか?


 あの女が漏らしやがったのか? と俺は姉さんに半眼を向ける。



『~~♪』



 だが姉さんは鷺ノ宮さんとのデュエットに夢中で、しかも画面に流れている謎ドラマが面白かったのか、俺の視線になどまったく気づいてもいなかった。



「ねえ、知ってる?」



「えっ?」



 最中のことだ。


 ふいに雪菜さんが囁くようにこう言ってきたのである。



「カラオケボックスってね、よく若い男女がいちゃいちゃしている場所なのよ?」



「い、いちゃいちゃですか?」



「そう、いちゃいちゃ」



 なんとも意味深な口ぶりの雪菜さんに、俺は一応姉さんたちの方を見やって言う。



「そ、それはあんな感じで楽しく歌ったりということではなく……?」



「ふふ、もう分かってるくせに」



「くっ……」



 そう挑発的な視線を向けられ、俺は思わず唇を噛み締める。


 確かに聞いたことがある。


 家には親兄弟などがいるため迂闊に連れていくわけにはいかず、さりとて金欠かつ未成年ゆえホテルにもいけない。


 ならば一体どこで世の若者たちはそういう行為に及ぶのか。


 そう、カラオケ店である。


 安価かつ防音設備の整ったボックス内など、まさに致してくれと言わんばかりの設備である。


 そりゃ皆さんがっつり致すでしょうよ。


 ただまあ最近はそういう目的で使われることを危惧して、ボックス内に監視カメラがついているところが多いそうだ。


 なので「店員になるとめっちゃ見れるぜ!」とクラスの男子が言っていたのを以前聞いたことがある。


 そしてバイトしようか真剣に悩んだことも。


 だが一体何故今その話を持ち出してきたのだろうか。


 俺がそう眉根を寄せながら訝しんでいると、雪菜さんがふふっと妖艶な笑みを浮かべながら距離を詰めてきて言った。



「ねえ、もしかして期待してる?」



「えっ!?」



「たとえばこんな風に、私があなたの硬いものを……」



「Oh!?」



 何故かいつも以上に積極的に俺の下腹部へと手を伸ばしてきた雪菜さんに、俺も堪らず変な声を上げてしまう。



『ちょっといきなり何よー?』



 当然、姉さんたちにも聞こえていたようで、マイク越しに怒られてしまった。



「いや、雪菜さんが……」



 さすがに俺だけ怒られるのは納得がいかなかったので、少々ぼかして雪菜さんにからかわれていたことを告げようとしたのだが、



「あら、私が何かしら?」



 そう微笑む雪菜さんの手には、先ほどまでなかったはずの硬い代物がしっかりと握られていた。



「……」



 って、それさっきまで俺が適当に握ってたマイクじゃねえかあああああああああああああああああああああっっ!?


 つーか、〝あなたの硬いもの〟ってマイクかよ紛らわしい!?


 次歌うつもりならそう言えばいいじゃないのよもうー!?


 まあそういうのも全部折り込み済みで若者がカラオケボックスでうんぬん言い出したんだろうけどなちきしょう!? と内心突っ込みの止まらない俺だったが、このままでは俺だけがいやらしいことを考えていたということになってしまう。


 なので俺はぐぬぬと赤面しながらも、



「……なんでもない」



 と、そう言うしかなかったのであった。



      ◇



「ふふ」



「……っ」



 ちなみに、この時一人消沈する照の陰で雪菜と雫の視線が再び交差していたのだが、当の本人はそんなことなど知る由もなかったのだった。



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