11話 下校2
まさかいつの間にやら一緒に帰る羽目になろうとは……。
雪菜さんの話術が巧みなのか、それとも俺がただ単にアホなだけなのか……。
後者の線が濃厚な気がしてならないのだが……まあそれは置いておこう。
とにかく雪菜さんの要望通り、商店街にあったゲームセンター内へと足を踏み入れた俺たちは、彼女の欲しいぬいぐるみが景品となっているクレーンゲーム機の前へと辿り着く。
どうやらあのしょんぼりしているような犬のぬいぐるみが雪菜さんのお目当てらしい。
まあ確かに可愛いと言えば可愛いような……。
いや、可愛いのかあれは……。
「どう? 取れそうかしら?」
「そうですね、たぶん何回かやれば取れるんじゃないかと」
「本当に? ならお願いしようかしら」
そう言って、鞄からお財布を取り出そうとする雪菜さんだが、俺はそんな彼女を手で制して言った。
「あ、ちょっと待ってください。必ず取れるかどうかはまだ分からないんで、まずは俺が試してみますから」
「でも……」
「気にしないでください。俺もたまにはこうやってゲームを楽しみたかったんで」
俺がにっと歯を見せて笑いかけると、雪菜さんはどこか嬉しそうに頬を染め、「分かったわ。ありがとう」と頷いていた。
よし、ならばちょいと頑張ってみるか。
「えっと……」
ちゃりん、と100円を投じ、まずは様子見とばかりにアプローチを仕掛ける。
最近は一定額入れないとアームの力が強くならないなんて詐欺紛いの機種もあるらしいが、こいつがそれでないことを祈るばかりだ。
「おっ?」
むんぎゅとぬいぐるみの顔を挟み込み、アームがやつを持ち上げようとする。
が。
――ぽてり。
「あら、残念」
「む、こいつはなかなか強敵のようですね」
「大丈夫? もし無理そうなら別に構わないのだけれど……」
「ふ、ここからが俺の腕の見せどころです。まあ見ていてください。あっという間に取ってみせますから」
◇
「ど、どうぞ……」
「ありがとう。とっても嬉しいわ。でも一応聞いてもいいかしら?」
「はい……」
そう小さく頷いた俺に、雪菜さんは控えめにお財布を取り出して言った。
「やっぱり私もお金出す……?」
が。
「いえ! お気になさらず!」
俺は再度それを手で制して言った。
「でも……」
「これは俺とこいつのプライドを賭けた真剣勝負! たとえ野口先生がそこそこ犠牲になったとしても、それはそれで悔いはありません! なので気にせず受け取ってください!」
じゃないとかっこ悪くて泣きそうだわ!?
むしろちょっと半泣きですよ、俺は!?
「……本当にいいの?」
「ええ! 日頃の感謝の気持ちだとでも思っていただけたらと! そう、プレゼントです、プレゼント!」
若干やけくそ気味になっている俺だが、雪菜さんは「そう」と嬉しそうにぬいぐるみを抱いて言った。
「ふふ、ありがとう♪ あなたからのはじめてのプレゼントね♪」
「え、あ、いや、別にそういう感じのものでは……」
「私、この子凄く大切にするから♪ 本当にありがとう、弟くん♪」
「い、いえ……。その、喜んでもらえてよかったです……」
何やらめちゃくちゃ可愛い笑顔を向けてくる雪菜さんに、俺もなんだか少々気恥ずかしくなる。
確かに結果は散々なものだったが、なんというのだろうか。
意外と悪くはなかった気がする。
というより、側で雪菜さんが一緒に感情を共有してくれていたのが、正直楽しかった。
きっと彼女が出来たらこんな感じなんだろうな。
毎日一緒に駄弁ったり遊んだりしてさ。
「……? どうしたの?」
「あ、いえ、そんなに喜んでもらえるとは思っていなかったので……」
「ふふ、当然でしょう? だって弟くんが私のためだけに頑張ってくれたんだもの。一生の宝物よ」
「そ、そんな大げさな……」
てか、そこまで言われたらさすがに照れるというかなんというか……。
「うふふ♪」
でもまあ凄く嬉しそうだしいいかぁ……。
※読んでくださって本当にありがとうございます!
なるべくコンスタントに続けていこうと思いますので、ブックマークや☆評価などで応援してもらえたら嬉しいです!
どうぞよろしくお願いします!m(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます