12話 下校3


 そうしてほかにはどんな景品やゲームがあるかとゲーセン内を一緒に回っていると、ふいに雪菜さんがとある筐体を指差し、こんなことを言ってきた。



「ねえ、記念にプリクラを撮りたいのだけれどいいかしら? もちろんお金は私が出すから」



「え、ええ、まあいいですけど」



 しかしプリクラか……。


 中学の頃に姉さんと撮った覚えがあるけど、あの時はめちゃくちゃに落書きされて酷いことになったんだよなぁ……。


 そして未だにあのプリクラが姉さんの写真立てに貼ってあるっていう……。


 いい加減剥がしてくれないかな、あれ……、とそんなことを思っているうちに、雪菜さんがピピッと操作を終える。


 すると、雪菜さんは恥ずかしそうに頬を赤らめて言った。



「今日は本当にありがとう。私ね、凄く嬉しかったの。だから弟くんにお礼をさせてちょうだい」



「いえ、別にそんなお礼なん……てえっ!?」



 思わず素っ頓狂な声を上げる俺。


 だがそれも仕方のない話だと思う。


 何故なら雪菜さんが瞳を閉じ、頬を桜色に染めたまま顎を突き出してきたのだから。



「え、あの、雪菜さん……?」



「……」



 彼女は答えなかった。


 まるで正解が一つしかないかのように。



「うっ……!?」



 これは、まさかそういうことなのだろうか。


 プリクラ機から流れてくるカウントダウンの音だけが辺りに響く中、俺の鼓動も連なるように高鳴っていく。


 ど、どうすればいいんだろうか……。


 いつものからかいだと思ってこのままやり過ごすのが正解だと思いたい……。


 でもお礼だってわざわざあんな恥ずかしそうな顔をしている以上、ここでしなかったら雪菜さんを傷つけてしまう可能性も……。



「く、うぅ……」



 こ、こうなったらもうやるしかない!


 てか、カウントダウンに急かされてそうしなきゃいけない気がががが……っ。



『3、2――』



「……っ」



 ええいままよ! と俺は雪菜さんの両肩を優しく掴み、そのまま彼女の柔らかそうな唇に自分の唇を重ね――。



 ――ぱしゃりっ。



「……」



 ついにしてしまった。


 まさか姉の友だちとそういう関係になってしまうとは……。



「ふふ、もう撮り終わっているのだけれど、そんなに夢中になられたら照れてしまうわ」



 そりゃ夢中にもなるだろう。


 何故ならこれが俺のファーストキスなのだから……って、あれ?


 彼女の唇は俺が塞いでいるはずなのだが……なんで喋れるんだ?


 てか、声が右前方から聞こえてくるっておかしくない?


 どゆこと? と薄らまぶたを開けてみた俺の目に映ったのは、



「あら、もうおしまい?」



「……」



 というように、雪菜さんの美麗な横顔であった。



「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」



 何故か胸元を両腕で隠し、まるで生娘のような悲鳴を上げる俺。


 完全に錯乱中である。



「ほら、見て。よく撮れているわ」



 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、雪菜さんが印刷されたプリクラを見せてくる。


 当然、そこに写っていたのは若干照れつつも満足そうな顔をしている雪菜さんと、その横で彼女の頬にがっつりキスしている俺の姿だった。



「NOおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」



 何してくれてんだこのアマあああああああっ!? と頭を抱えながら内心姉の親友に悪態を吐く俺。


 ち、ちきしょう!?


 やっぱりあんたも俺を弄んで笑いものにしたいだけじゃねえか!?


 クソ!? クソ!?


 もう女なんか信じねえ!?


 一瞬でも可愛いとか思った俺が馬鹿だった!?



「お、俺もう帰ります!?」



 それじゃ!? と鞄を持って早々にその場を立ち去ろうとした俺だったのだが、



「あ、ちょっと待って。まだお礼をしていないわ」



「な、何言ってるんですか!? 今のキスがお礼でしょぶっふ!?」



 その瞬間、俺の顔をなんとも柔らかな感触が包み込む。


 同時にとても安心するいい匂いが鼻腔をくすぐり、俺は雪菜さんの胸元に顔を埋めていることに気づく。


 そんな中、雪菜さんは優しい声音で、「違うわ。こっちが本当のお礼」と俺の頭を撫でながら言った。



「だって弟くん、いつも私のおっぱいを見ているでしょう?」



「ま、まあ……その、俺も男の子ですし……」



「ふふ、だからこれが本当のお礼。……そしてごめんなさい。弟くんとのデートがとても楽しかったから、ついわがままを押し通してしまったの。もう少し踏み込んだ関係になれたらいいなって。でもそれが結果的にあなたを傷つけてしまった……。本当にごめんなさい……」



「いえ、別に俺は……」



「私のこと、嫌いになった……?」



「……」



 まあ、さっきまではちょっと頭に血が上ってたからあれだったけど、雪菜さんが優しい人なのは知ってるからな。


 ちゃんと謝ってくれてるし、その、なんだ……俺ともっと踏み込んだ関係になりたかったとか言われたら、もうどうしようもないじゃないか……。


 だから俺は言った。



「……別に、嫌いになってません」



「よかった……」



 ――ぎゅう~。



「……」



 いや、全然よくねえよ!?


 冷静になってみたらなんだこの状況は!?


 でもなんかすげえいい匂いするし、制服越しでもおっぱいめっちゃふかふかするしでぶっちゃけ天国だよちきしょう!?


 というわけで、このおっぱいに免じて全てを許すことにしようと思った俺だったのだが、



「そしてこれは私だけいい思いをしたお返し」



「えっ?」



 なんのことかと顔を上げた瞬間――ちゅっ。



「~~っ!?」



 突如頬にキスをされ、もう色々なことが吹き飛んでしまった俺なのであった。



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