23話 相談1


「……なあ、姉さん。ちょっと相談したいことがあるんだけど……」



「えっ!? だ、ダメよあたしたち姉弟なんだから!?」



 ばっ、と胸元を抱くように隠すアホ姉に、俺は(何言ってんだろう、この人……)と胡乱な瞳を向ける。


 今日は雪菜さんが家の用事でいないので、相談するには色々とちょうどよかったのだが……たぶん人選が間違ってたんだろうなぁ……。


 でもほかに相談出来る人もいないし、面倒だけどもうこのまま押し切ろうと思う。



「とにかくちょっと話を聞いて欲しいんだ」



「やれやれ、まったくこれだから姉ラヴは仕方ないわね。ほら、言ってご覧なさい。あんたの大好きなお姉ちゃんがばーんっと解決してあげるわ」



 そう言って、姉さんがその慎ましやかな胸を張る。


 なんでもいいけど、その姉ラヴ設定はいつまで引きずるつもりなんだろう……。


 まさか……、と思い、俺はそれを姉さんに尋ねてみる。



「なあ、姉さん。もしかして姉さんって俺のこと好きなのか……?」



 が。



「え、キモッ!? うわ、キモッ!? マジ、キモッ!?」



「……」



 ずーんっ、と死んだ目で膝を抱える俺を、姉さんが「ごめんごめん、今のはさすがに言いすぎたわ」と慰めてくる。



「でもあんたも割と素でキモかったし、これでおあいこってことで(優しい笑み)」



 いや、全然慰めてなかったわ。


 てか、〝割と素でキモかった〟ってなんだよ!?


 誰のせいだと思ってるんだ、この野郎!? と俺が内心イラッとしていると、姉さんが食卓の椅子に腰掛けながら言った。



「で、あたしに相談って何よ?」



「ああ、そのことなんだけどさ……」



 なので俺も向かい合うように腰掛けた後、本題へと入る。



「実は俺……の友だちが女の子二人から同時にちょっとお試しで付き合ってみないかって言われてる感じというか……」



「はい!」



 しゅばっと手を上げた姉さんを、俺は当てるように「はい」と指す。


 すると姉さんは真顔でこう言ってきた。



「その女の子たちは巨乳ですか?」



 何故そこで乳の話になる……。



「まあ、一人は巨乳でもう一人は巨乳寄りってところかなぁ……」



「……なるほど」



 神妙に頷いた後、姉さんはすっと腰を上げて言った。



「この話はなかったことにしましょう(くるりっ)」



「待て待て。乳のでかさで話を打ち切るんじゃない」



「ち、違うし!? べ、別にあたしよりお胸が大きい人たちの恋愛事情とかぶっちゃけ知ったこっちゃないわよとか思ってないし!?」



「俺、姉さんのそういう自分に正直なところ嫌いじゃないわー」



 黄昏れたような視線で実姉を見据えつつ、俺は言う。



「でもそんなこと言ったら雪菜さんとかどうするんだよ? それこそ姉さんの嫌いな巨乳中の巨乳だぞ?」



「あ、あれは〝いい巨乳〟なの!」



「いい巨乳……」



 いや、〝いい巨乳〟ってなんだよ……。



「……ちなみに悪い巨乳は?」



「そ、そんなのえっちなやつに決まってるでしょ!? こう〝うっふん♪〟みたいな感じで誘惑してくるようなやつは全部悪い巨乳よ!? 間違いないわ!?」



「……」



 その時、俺の脳裏に浮かんだのは、たゆんっと自慢のバストを両腕で持ち上げるように俺をからかってくる雪菜さんの姿だった。


 ……どうしよう。


 姉の知らないところで姉の親友が悪い巨乳になってしまった……。


 え、これ俺のせいじゃないよね……?



「じゃ、じゃあもしもの話だけど、雪菜さんが実は〝うっふん♪〟みたいな感じだったらどうする……?」



「はあ? 雪菜がそんなことするわけないでしょ?」



 してるから困ってるんだろ。



「でもまあそうね、もし雪菜がそんなことをしているのなら、それは間違いなく男にやらされてるだけだろうから、あたしは親友としてその男をとっちめてやるわ! 問答無用で鼻パンチよ!」



「……」



 どうやら俺、鼻パンチされるらしいです……。



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