22話 チャンス


 結局姉さんのおかげで話の続きはまた後日ということになってしまったことはさておき。



「――ねえ、あんたさ、あたしのこと今でも好き?」



「えっ?」



 その前に俺はとんでもない事態に巻き込まれていた。


 一体何故こんなことになったのか。


 昼休みになったので適当に飯でも買ってこようかと思っていたら、突如鷺ノ宮さんにお誘いを受けたのだ。


 そうしてあれよあれよという間に何故か人気のない校舎裏へと連れていかれた俺は、昼食をともにして早々いきなりそんなことを言われたのである。


 だがもちろんあんなことがあったあとなのだ。


 謝られたとはいえ、やはり以前ほどの好意はない。


 そしてそれを鷺ノ宮さんも分かっていたのだろう。


 続けて彼女はこう言ってきた。



「……いや、ごめん。好きなはずないよね……。あたし、あんたのこと凄く傷つけたし……」



「え、えっと……」



「でもさ、一度はあたしのこと好きになってくれたんだよね? 告白までしてくれたわけだしさ」



「まあ……うん」



「ならさ……その、もう一度やり直せたりしないかな……?」



「えっ?」



 それはどういう……、と呆ける俺に、鷺ノ宮さんは続ける。



「今さらなんだって思うかもしれないけどさ、あれが罰ゲームじゃなかったら、あたしきっとあんたの告白を受け入れてたと思うんだ。正直、あんたと話してるの凄く楽しかったし」



「……」



「だから罪滅ぼしってわけじゃないけど、もう一度だけチャンスをくれないかな……? それでなんていうか、お試しでも構わないからあたしと付き合ってくれたら嬉しいなって……。そしたらあたし、あんたにもう一度好きになってもらえるよう頑張るからさ」



「そ、それは……」



 もちろん俺だっていつまでも気まずいままでなんていたくはない。


 やり直すチャンスが欲しいというのであれば、その思いに応えてあげたいとも思う。


 けれど……けれどやっぱり思い出してしまうんだ……。


 あの時、俺のことを心底馬鹿にしたように笑いながら現れたやつらの顔を……。



「やっぱあたしのこと信じられない……?」



「いや、別にそういうわけじゃ……。ただ、その……」



 俺がどう答えたらいいか言い淀んでいると、その心中を察してくれたのか、鷺ノ宮さんが「……わかった」と頷き、そして俺の手を取って言った。



「けどあたし――本気だから!」



 ――むにゅっ。



「……えっ?」



 突然のことに固まること数秒ほど。


 当然、俺はがっつり鷺ノ宮さんの胸を鷲掴んでいる己が右手を見やり、困惑しながら声を張り上げたのだった。



「ほ、ほほ本気とおっぱいに一体なんの関係がーっ!?」



      ◇



 その後、色々とどたばたしたまま昼食の時間が終わり、回らない頭のまま午後の授業もなんとか乗り切った俺は、やっとこさ自宅へと辿り着いていた。



「……ふう」



 冷蔵庫から冷涼な麦茶を取り出し、それをぐいっと一気に飲み干す。


 おかげでやっと頭が冷静になってきたわけだが、どうやらお昼のあれは彼女なりの本気の見せ方だったらしい。


「だ、だって付き合ったらこういうこともするんでしょ……?」とか割と真面目に言ってたからな……。


 いや、それにしたってもっと別のやり方があったように思えるのだが……。


 でも柔らかかったなぁ……って、そうじゃねえよ!?


 はあ……、と嘆息しつつ、俺はどうしたものかと頭を悩ませる。


 というのも、昨日と今日で二人からお試しのお付き合いを申し込まれてしまったからだ。


 しかも一人目の雪菜さんにはほとんどOKしかけていたのだからタチが悪い。


 これでは今さら断るわけにもいかないし、付き合ったら付き合ったらで今度は俺と関係を修復したいという鷺ノ宮さんを傷つけてしまう。


 なら鷺ノ宮さんと付き合えば……って、ダメだ……。


 なんかそうすると雪菜さんが二度と家に来なくなってしまう気がする……。



「……あれ?」



 もしかしてこれ詰んでね……?


 その事実に気づいた俺は、さあっと血の気が引く思いなのであった。



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