21話 練習5
さすがの姉さんも雪菜さんの威圧感にただならぬものを感じたのだろう。
「そ、そうだ! あ、あたし、おトイレに行きたかったんだ!」
ふいにそう声を張り上げた後、姉さんはぎこちない笑みを浮かべながら逃げるように部屋を出ていった。
というか、普通に逃げやがった。
「あら、逃げられてしまったわ」
「そりゃそうですよ……」
はあ……、と小さく嘆息しつつ、俺は雪菜さんに問う。
「というか、今日は一体どうしたんですか?」
「あら、なんのことかしら?」
「いえ、なんか妙に積極的というかなんというか……」
俺が言うのもどうかと思うけど。
俺の問いに、雪菜さんは「うーん、そうね」と可愛らしく頭を悩ませて言った。
「そろそろ本気で弟くんを落としたくなった、かしら?」
「ぶふうっ!?」
堪らず麦茶を噴き出す俺。
「あらあら」
「ど、どうも……」
そんな俺にティッシュを数枚渡しつつ、雪菜さんは言った。
「だって弟くん、とてもモテるんだもの」
「……えっ?」
何それ初耳なんですけど。
その割に全然女子たちが寄ってこないのは何故だ……。
「だからほかの女の子に取られる前に私だけの弟くんにしたいなって」
「い、いや、あの……」
困惑する俺に、雪菜さんはどこか甘えるような上目を向けて言った。
「……私じゃ嫌?」
「べ、別に嫌ということは……」
て、てか、こんなの卑怯だろ!?
思わず頷きそうになるわ!?
「ふふ、よかった。じゃあお試しで付き合ってみるのはどうかしら?」
「お、お試しですか?」
「ええ、そうよ。そんなに真剣に考えず、お友だち感覚でお付き合いするの。もちろん一応彼氏彼女ではあるわけだから、色々とし放題ではあるのだけれど」
「い、色々とし放題!?」
そう思わせぶりな視線を向けてくる雪菜さんに、俺の心が大きく揺れる。
すると、さらに雪菜さんは囁くようにこう言ってきた。
「ねえ、弟くんは私とどういうことがしたい?」
「ど、どどどういうことって……!?」
その瞬間、俺の脳裏に思い浮かんだのは、生まれたままの姿でベッドに横たわり、熱っぽい視線を俺に向けている雪菜さんの艶姿だった。
そして彼女は言う。
『……来て』
「~~っ!?」
いや、〝……来て〟じゃねえよ!?
なに変な想像してるんだよ、俺は!?
お、落ち着け、落ち着くんだ……っ、と俺が懸命に平常心を取り戻そうとしていると、雪菜さんがおかしそうに笑って言った。
「ふふ、弟くんは本当に素直で可愛いわね」
「ぐぬぬぬぬ……っ」
「でも私と付き合ったらそういうことがいつでも出来るのよ? お得だと思わない?」
「ひぎぃっ!?」
たゆんっ、とその豊満なバストを両腕で持ち上げるように見せつけてくる雪菜さんに、堪らず俺の理性がひび割れ状態になる。
く、くそっ!?
こ、このままではマジで頷いてしまいそうだ……。
確かに鷺ノ宮さんたちのせいで心に深い傷を負ったし、それがもとで女性不信にもなった。
けれど、雪菜さんがそういうことをしない人だということを俺は知っている。
だからそんな彼女が本当に俺に好意を抱いてくれていて、本気で俺の彼女になりたいと言うのであれば、少なからず信じてみてもいいのかもしれないという気持ちがあるのも事実だ。
というか、正直好みだし、俺には勿体ないくらいの美人さんなので、お付き合い出来たらとても嬉しいとも思う。
お、俺は一体どうすればいいんだ……。
と。
――ぎゅうっ。
「――っ!? ゆ、雪菜さん!?」
突如雪菜さんに頭を抱え込まれ、俺はたじろぐ。
すると、雪菜さんは優しい声音で言った。
「大丈夫よ。あなたの傷は私が全部癒してあげる。だから遠慮せず私に甘えてちょうだい。私は絶対にあなたを裏切ったりなんてしないから」
「雪菜さん……」
ああ、なんかもうこのまま身を任せてもいいかな……。
だって雪菜さん、凄く優しいし、柔らかくていい匂いだし、温かいし……。
あまりの心地よさに思わず寝てしまいそうになる俺だったが、雪菜さんがこうして心を開いてくれている以上、きちんとお返事をせねばなるまい。
「……本当に、俺でいいんですか?」
「ええ、あなたがいいわ。むしろあなたじゃないとダメなの」
「……」
そっか。
ならもういいよな。
うん、と内心頷き、俺は彼女に言った。
「……分かりました。じゃあ――」
と。
「――たっだいまー! いやあ、スッキリスッキ……リ……」
「「……あっ」」
タイミング悪くも姉さんが戻ってきて、俺たちは互いに無言のまま見つめ合う。
そして。
「――ゆ、雪菜が照に襲われてるーっ!?」
がーんっ!? と最悪の勘違いをするアホ姉。
「み、見損なったわよ、照!?」
「ち、違っ!? こ、これはただ雪菜さんに癒してもらってただけで!?」
「だ、だったらお姉ちゃんのお胸に飛び込んでくればよかったじゃない!? なんでわざわざ雪菜の方に行くのよ!?」
「そ、それは……」
てか、年頃の弟がお姉ちゃんのお胸になんて飛び込んだら普通はぶん殴られるだろうが!?
いや、そもそも飛び込まねえよ!?
「どうせあれでしょ!? 癒して欲しいとか言いながら雪菜の大きなおっぱいに顔を埋めたかっただけなんでしょ!? あーいやらしい!?」
「ご、誤解だって!? ゆ、雪菜さんからもなんか言ってやってください!?」
俺がそう助けを乞うと、雪菜さんは相変わらず優しく微笑んで言った。
「あら、私は別に構わないわよ? 甘えられるの好きだし」
って、そうじゃねええええええええええええええええええっ!?
「ほらあ! やっぱりおっぱい狙いなんじゃない! お姉ちゃんは悲しいわよ、この巨乳マニア!」
両目を〝><〟にしてそう声を張り上げてくる姉さんに、俺はもうどうすりゃいいんだと意識が飛びそうになっていたのだった。
てか、その〝悲しい〟は絶対おっぱいのでかさに対して言ってるやつだろ!?
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