37話 そして修羅場へ1
そうして迎えたデート当日。
俺たちはデートの定番とも言うべき遊園地へと赴いていた。
本当は初デートなので水族館辺りにしようかと思っていたのだが、水族館のような観賞をメインとする場所よりも、アトラクションの多い遊園地の方ががっかりする行動がとりやすいのではなかろうかという湖ちゃん先輩の意見を参考にし、遊園地にしたのである。
「二名様ですね? カップル割でよろしいですか?」
というわけで、入場券を買いに並んだ俺たちに早速最初のチャンスが訪れる。
ここできっぱり〝違う〟と言いつつ学生証を出せば、雫もカップル割より学割(の方が値段が安い)を優先した俺にさぞかしがっかりすることだろう。
よし、と勢い込み、俺はポケットから学生証を――。
「はい。カップル割で」
って、はええよ!?
しかもなんでそんな当然のように行けちゃうんだよ!?
俺だったらたとえ本当のカップルだったとしても若干躊躇するんですけど!? と俺は陽キャの行動力にのっけからたじろいでいたのだった。
◇
そんな照たちの遙か後方に、同じく二人分の入場券を買おうとしている一組のペアの姿があった。
「うわっ、照のやつ本当に雫ちゃんとデートしてる!? お姉ちゃん何も聞いてないんですけど!?」
「ふふ、まあ弟くんもお年頃だしね。仕方ないんじゃないかしら?」
「あれ、雪菜なんか怒ってる……?」
「いいえ、別に(目の笑っていない微笑み)」
そう、雪菜とひよりである。
何故彼女たちがここにいるのか。
それはもちろん照を監視するためである。
ここのところ様子のおかしかった照が雫とデートするという情報を掴んだ二人は、万が一にも彼らが不埒なことをせぬよう、そのあとをつけることにしたのだ。
当然、雪菜的にはすでにヤンデレ化一歩手前みたいな感じであったが、あの優しい照が二股をするとはどうしても思えなかったため、ぎりぎりのところで理性を保ちながら二人の動向を窺っていた。
「でもさー、これってよくないんじゃないの?」
「?」
そんな最中のことだ。
入場券を手に園内へと歩を進める二人を遠目に見やりつつ、ふとひよりがこんなことを言い出したのである。
「だってこれ普通に〝浮気〟じゃん?」
「――っ!?」
まさかひよりの口からその言葉が出るとは思っていなかった雪菜は、驚愕の表情で彼女に尋ねる。
「……もしかして気づいていたの?」
「そりゃね。あたしの大事な友だちのことだもん。気づかないはずないでしょ?」
「ひより……」
思わず雪菜は涙ぐみそうになった。
つまりひよりは雪菜たちの仲を知りながらずっと知らぬ振りをしていてくれたということである。
恐らくは雑談中にやたらとトイレに行っていたのも、なるべく二人きりになれるよう気遣ってくれていたのだろう。
「……っ」
私は馬鹿だ、と雪菜は思った。
ひよりが照のことを家族として愛していることを雪菜は知っている。
そして少々愛情が過多なことも。
そのひよりが自分を押し殺してまで雪菜たちのことを応援してくれていたのだ。
ならばその信頼に全力で報いねばならないだろう。
それがひよりの大事な照を任された身としての――将来の義妹としての責務なのだから。
「安心してちょうだい、ひより。今回のことには必ず何か理由があるはずよ。だってあなたの大好きな弟くんは、絶対に女の子を傷つけるようなことはしない人だもの」
「雪菜……」
真摯な雪菜の言葉に、今度はひよりの方が涙ぐむ。
そして彼女はずびびと洟をすすりながら、ぐっと両手を胸元で握って言った。
「うん、そうだよね! あいつお馬鹿でむっつりスケベだけど、それでもお姉ちゃん的にはいい子だって信じてる! だから一緒にそれを確かめに行こう! それでもしあいつが本当にお馬鹿な真似をしていたら、その時はお姉ちゃん全力でビンタしてやるわ!」
「そうね。その時は私も全力でビンタするわ」
「え、雪菜もするの!?」
びくり、とショックを受けるひよりに、雪菜は「ええ、もちろん」と頷いて言った。
「だって浮気してるし」
「そ、そっかぁ……。ま、まあ浮気なら仕方ないよね……。じゃ、じゃあダブルビンタってことで……」
「ええ。一緒に目を覚まさせてあげましょう」
そう微笑み、雪菜たちは二人のあとを追ったのだった。
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