38話 そして修羅場へ2


 雫の行動力にいきなり出端を挫かれてしまったわけだが……まあいい。


 チャンスはまだまだあるからな。


 気を取り直して行こう。



「あ、〝ちゃっぴーくん〟だ。せっかくだし、一緒に写真撮ろうよ」



「う、うん」



 頷き、俺は「お願いします」と見知らぬカップルにスマホを渡している雫とともに、この〝ごーとぅーらんど〟のマスコットキャラである熊の〝ちゃっぴーくん〟と写真を撮る。


 しかしなんだろうか。


 このちゃっぴーくん、最近どこかで見たような気が……。



「!」



 と、そこで俺は思い出す。


 あの時、アニ研で見た湖ちゃん先輩のケツに、こいつと同じ顔ががっつり刻まれていたということを。


 雫もなんか会えたのを喜んでいるみたいだったし、もしかして女子たちの間では流行っているのだろうか。


 まあ可愛いと言えば可愛いんだけど……、とそんなことを思っているうちに撮影が終わり、雫が「ありがとうござましたー」とスマホを受け取りに行く。


 すると。



『……お化け屋敷に、ゆくのだ……』



「――っ!?」



 突如ちゃっぴーくんの方からそんな声が聞こえ、俺は何ごとかと慌てて振り返る。


 だがそこにいたのは相変わらず〝もきゅ?〟みたいな顔をしているちゃっぴーくんだった。



「……あれ?」



 俺の気のせいだったのだろうか。


 いや、でも確かに聞こえたような……。


 うーん……、と難しい顔で頭を悩ませていた俺に、戻ってきた雫がスマホの画面を見せながら言った。



「ほら見て。よく撮れてる。あとであんたの携帯にも送るから」



「あ、うん。ありがとう」



 余談だが、雫のアドレスは先日ちゃんと復活済みである。



「で、どこ行くの? やっぱりジェットコースター?」



「そうだな……」



 確かに遊園地と言えばジェットコースターなんだろうけど、さっきの声らしきものも気になるし、ここは自分の感性に従ってみるか。


 別に回る順番はそんなに関係ないしな。


 というわけで、俺は雫に言った。



「それもいいけど、お化け屋敷に行くのはどうかな?」



「へえ、いいじゃん。てか、ちゃんとリサーチしてくれてたんだ?」



「えっ?」



 りさーち……?



「だってここのお化け屋敷マジで怖いってマニアの間で有名らしいじゃん? なんでも〝ガチのやつ〟が出るとか」



「へ、へえ……」



 あれー、それはちゃっぴーくん教えてくれてないなー……。



      ◇



 ともあれ、言ってしまったものは仕方あるまい。


 俺は意を決して雫をお化け屋敷へと連れていく。



「ここか……」



 見た目はなんというか、普通のお化け屋敷である。


 この中にガチの方がいらっしゃるとは言うが……ま、まあ今回は俺の情けない姿を雫に見せつけるのが目的だからな。


 むしろ怖い方が演技だとバレづらくなるというものだ。



「よし、じゃあ行こうか……」



「うん」



 ごくり、と固唾を呑み込みつつ、俺たちはお化け屋敷の中へと入っていく。


 と。



「ぶああああああああああああああああああああああああああっっ!!」



「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっっ!?」



 入って早々怒濤の勢いでお化けが驚かせてきやがり、俺は素で生娘のような悲鳴を上げた。



「び、びっくりした……」



 そしてぽてりと人魚のような姿勢で腰を抜かし、荒く呼吸をしながらぷるぷると震える。


 意図せず情けない姿を披露してしまったわけだが、目の前でこれだけやればたとえどんな女の子でもがっかりすること間違いなしだろう。



「……ぷっ」



 と、そう思っていたのだが、



「あははははっ! ちょ、さすがにビビりすぎだって!」



「……えっ?」



 まさかの雫大爆笑である。


 てっきり幻滅して「いや、そんな腰抜かすとかあり得ないでしょ? キモッ」みたいな感じで好感度ダダ下がりだと思っていたのだが……なんでそんな楽しそうなの……。



「……あー面白かった。ほら、いい加減立ちなって」



「あ、うん……。ありがとう……」



 雫の手を借りて立ち上がった俺に、彼女はそのまま少々恥ずかしそうに言った。



「……まあ、元々手を繋ぐつもりだったし、このまま繋いでてもいいよね? てか、繋いでないとあんたまた腰抜かしちゃいそうだし」



「そ、それはまあ……はい」



 そしてがっくりと肩を落とす俺。


 なんか自分の情けなさに俺の方が逆にがっかりしてるんだけど……。


 いや、でもさっきのはさすがによくないと思うわー……。


 入って早々後ろから大声出されたら誰だってビビるって……。


 だがそんな俺の気持ちとは裏腹に、雫はどこか嬉しそうな様子なのであった。



「ふふ、じゃあ行こっか」



「う、うん……」



 ちなみに俺たちが少し進んでから「みぎゃああああああああああああああああああっっ!?」とかいう女子にあるまじき悲鳴が聞こえてきたのだが、そういえば姉さんがホラー映画観た時もあんな感じで叫んでたなぁ……。



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