39話 そして修羅場へ3
結局お化け屋敷でも雫をがっかりさせることは出来なかった。
というより、むしろ楽しませてしまったような気がする……。
ずっと驚く俺を見て笑ってたしな……。
しかしそう考えると、もしかしたら雫は交際相手に男らしさを求めないタイプなのかもしれない。
多少のヘタレ具合は笑って許してくれるというか……。
うーん、そうなると情けない男作戦はもう使えないわけなんだけど……さて、どうするか……。
「!」
と、そこで俺は先日雪菜さんから聞いたことを思い出す。
そう、〝デート中に自分勝手なことをする男にはがっかりする〟という彼女の意見だ。
確かにデートは二人で楽しむものなのだから、一人で楽しむようなやつは最低だし、女の子も楽しくはないだろう。
よし、それで行こう、と頷き、俺はチャンスが訪れるのを待つ。
すると、その機会は早々に訪れた。
「ねえ、次はジェットコースターに――」
――ここだ!
俺は雫の言葉を遮るようにぐいっとその手を引いて言った。
「いや、俺はあれに乗りたい」
「え、うん……」
よし、やったぞ!
彼女の要望を無視して自分の意見を押し通してやった!
なんか雫の反応も微妙な感じだったし、これは絶対好感度が下がってるやつだ!
……。
いや、まあ好感度が下がったことに喜ぶのもどうかと思うんだけど……、と内心変な葛藤を覚えつつ、俺は雫を観覧車へと連れていく。
実はこのチョイスにも俺は自信があった。
というのも、通常観覧車はデートの最後に乗るものだからだ。
一日中様々なアトラクションを楽しんだ後、夕焼けの中で名残惜しさを噛み締めながらいい雰囲気になってキスするために乗るのである(偏見)。
それをまだ来て早々に乗るというこのチョイス。
デートのいろはをまるで分かっていないダメ男感全開だと言えよう。
うんうん、とはじめての手応えに内心頷いていた俺だったのだが、
「……あんた、結構強引なところあるんだね。……そういうの、ちょっといいと思う……」
「……うん?」
うん?
◇
「「……」」
がたんごとんと次第に高度を上げていくゴンドラ内で、俺は雫と向かい合いながら一人(……あれ?)と困惑していた。
俺は確かに好感度を下げたはずなのである。
雫の話も聞かずに勝手に彼女を連れ回し、かつ最後に取っておくべき醍醐味の観覧車にも無理矢理乗せた。
にもかかわらず、だ。
「なんか、あたしたちマジで恋人みたいだね……」
「そ、そうかな……?」
なんでちょっといい雰囲気になっちゃってるんだよ!?
なんならあの子今すぐにでもこっちに来ちゃいそうな勢いなんですけど!?
え、どゆこと!? と素でショックを受ける俺に、雫がどこか恥ずかしそうに頬を染めて言った。
「ねえ、なんであたしとこれに乗ろうと思ったの……? もしかして二人きりになりたかったとか……?」
いや、なんでも何もキミの好感度を下げるためだよ!?
でもそんなこと死んでも言えないし、これを肯定したら余計泥沼である。
なのでここは努めて冷静に彼女の望んでいる言葉とは真逆の反応をして、少しでも好感度を下げるしかあるまい。
そう呼吸を落ち着かせた俺は、すっと視線を逸らして言った。
「べ、別に……」
「……そう。あんた、嘘吐くの下手だね……」
「……」
いや、だからなんなんだよこの空気は!?
◇
一方その頃。
「ねえ、ひより。この辺に刃物屋さんってない?」
「な、ないと思うなぁ……。てか、さっきからなんかすんごい機嫌悪そうだけど大丈夫……?」
「ふふ、なんのことかしら? 私は全然何も怒ってなんていないわよ?(ゴゴゴゴゴッ)」
「そ、そっかぁ! な、なら別にいいんだけどね! あ、あははははははははっ!」
「うふふふふふふふふ」
(た、助けて照ーっ!? な、なんか雪菜めっちゃ怒ってるんですけどーっ!?)
お姉ちゃん組は色んな意味で大ピンチなのであった。
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