40話 そして修羅場へ4


 そんな感じでデートは進み、俺たちは様々なアトラクションを二人で楽しんだ。


 もちろんそれに伴って色々と好感度を下げには行ったのだが、何故か全てが裏目に出るというか、むしろ好感度が上がっているような感じになってしまった。


 たとえばこの歳でメリーゴーラウンドなんて恥ずかしくて乗れまいと、俺が子どもたちに交じって大人げなくはしゃいでる姿でも見せつけてやろうかと思ったら、たまたまカップル用のがあって俺の前に雫が乗るような感じになったり、お昼の時にジュースを一人分だけ買ってきたら、「……ほら、ストロー忘れてる」とカップル用のハートストローをもらってくる始末だ。


 もうそうなってしまったら二人で飲むしかなく、妙に顔が近いわいい匂いがするわで本当に大変だった。


 雫もなんか恥ずかしそうにしてるしで、マジで付き合いたてのカップルみたいな初々しさだったのである。


 そうして結果が出せぬままあれよあれよと時は進み、気づけばすっかり空が茜色に染まってしまったというわけだ。


 デートとしては大成功――だが、作戦的には大失敗である。



「……はあ」



 これから一体どうしよう……、と人知れず俺が頭を悩ませていた時のことだ。



「――あれ? 鷺ノ宮じゃーん」



「「!」」



 ふいにどこからともなく声をかけられ、俺たちは足を止める。



「あっ……」



 そこで俺たちが目にしたのは、恐らくは彼女であろうギャルの肩を抱くチャラい感じの男子だった。


 確か名前は〝坂上〟だっただろうか。


 名前はうろ覚えだが、顔だけははっきりと覚えている。


 あの日、俺を笑いものにした陽キャグループのリーダー格――つまりはそう、〝元クラスメイト〟である。


 思わず固まる俺たちに、坂上は驚いたように言った。



「てか、オタクくんも一緒じゃん。え、なになに? もしかして鷺ノ宮こいつと付き合ってんの? え、マジで? マジでオタクくんと付き合ってんの? うわ、引くわー」



「い、いや、あたしは……」



 坂上の捲し立てるような問いに気圧されたのか、雫が気まずげに視線を逸らす。


 そりゃこれだけ威圧的な感じで言われりゃ否定したくもなるだろうさ。


 わかるよ、その気持ち。


 俺だってこいつらの不良みたいな雰囲気がずっと怖かったからな。


 関わりたくもなかったし、関わって欲しくもなかった。


 きっと雫もそんな感じだったんじゃないかな。


 だから逆にこいつらの近くにいたんだと思う。


 適当に歩調を合わせていれば俺みたいに標的にされることもなかっただろうからな。


 まあ、その結果自分が罪悪感に苛まれるようになったのは、正直自業自得だとも思う。


 でもな、彼女だけがずっと俺に謝り続けていてくれたんだ。


 今だってこうやって真剣にやり直そうとしてくれていたんだよ。


 それをここでまた否定させちまったら、雫はこの先ずっと罪悪感を抱いたまま生きていかなきゃいけなくなる。


 そしてそんなことを――俺は望んじゃいない。



「「!」」



 だから俺は雫を庇うように前に出て言った。


 言えば修羅場になるのは分かってたんだけどな……。


 でも黙っていられなかったんだ。



「俺と雫が付き合ってるのがそんなにおかしいか? あんたには関係ないだろ?」



「……あっ?」



 当然、坂上は苛立ったように俺の胸ぐらを掴んでくる。


 以前までの俺なら絶対ビビってたと思う。


 けれどこいつに関してだけは別だ。


 正直、ぶっ殺してやりたいとすら思っていたくらいだからな。


 沸々と蘇ってくる怒りのおかげか、俺はやつの視線を真っ向から受け止められるようになっていた。



「いつからそんなでかい口が利けるようになったんだ? ああ?」



 いつからって、そんなの決まってんだろ。



「あんたらが俺を笑いものにした時からだよ、このクソ野郎……っ!」



「~~っ!?」



 どうやら今のが決め手となったらしい。



「調子乗ってんじゃねえぞ、このキモオタあああああああッッ!!」



 ぶんっ! と坂上が右腕を大きく振りかぶる。


 たぶんそうなるだろうとは思っていたから今さら驚きはしない。


 いいぜ、殴れよ。


 俺だってお前のことをずっとぶん殴ってやりたいと思って――。



「――お姉ちゃんキーーーーーーーーーーーーックッッ!!」



 ――どごおっ!



「ぐはあっ!?」



「「「――っ!?」」」



 ちょ、えええええええええええええええっ!?


 突如乱入してきた姉さんに比喩抜きで両目が飛び出しそうになっていると、彼女はぶっ飛んだ坂上を見下ろして声を荒らげた。



「ちょっとあんた!? あたしの大事な弟に何しようとしてんのよ!?」



「姉さん……」



「大丈夫、弟くん!?」



「雪菜さんまで……」



 どうして二人がここに……、と俺が呆けていると、坂上もまた憤りに満ちた顔で上体を起こしながら言った。



「ふ、ふざけやがって……っ。て、てめえら! 俺にこんなことをしてただで済むとでも――」



『――ちゃっぴーハンマーッッ!!』



 ――ごんっ!



「げふうっ!?」



「「「「「――っ!?」」」」」



 今度はちゃっぴーくんのダブルスレッジハンマーが見事脳天に決まり、坂上は白目を剥きながらぽてりと気絶する。


 そしてちゃっぴーくんは言ったのだった。



『お客さま。当園での暴力行為は固く禁じられております』



「えぇ……」



 いや、今全力で脳天かち割ってたけどちゃっぴーくん……。



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