41話 そして修羅場へ5


「ちょ、坂っち!? しっかりして坂っちーっ!?」



 彼女のギャルに付き添われながら、坂上がちゃっぴーくんのお仲間たちにずるずると運ばれていく。


 そんな彼らを尻目に、ちゃっぴーくんが「やれやれ」と頭部パーツをぬぽっと外しながら言った。



「まったく夢の国(自称)にあるまじき暴挙だ」



「湖ちゃん先輩!?」「湖ちゃん!?」



 揃って驚く俺と姉さんだが、たぶん今湖ちゃん先輩のやってる頭パージも夢の国的には割と暴挙だと思う。


 いや、まあその前にダブルスレッジハンマーかましてたんだけど……。



「ど、どうして湖ちゃん先輩がここに……?」



「うん? それはこのテーマパークが我が琴浦家の事業の一つだからだよ。名前で気づかなかったのかい?」



「いや、名前って……」



 姉さんたちと顔を見合わせながら、俺は小首を傾げる。


 確かここの名称は〝ごーとぅーらんど〟だったはずだが、どこにも湖ちゃん先輩ん家の名前なんて――。



「――っ!?」



 と、そこで俺は気づく。


 ごーとぅーらんど……ごーとうーらんど……こーとうらんど……。



「琴浦んど!?」



「はっはっはっ、正解だ。そんな偉い子ちゃんのキミにはこのキャンディをあげよう。ほれ」



「ど、どうも……」



 湖ちゃん先輩から渦巻き模様のキャンディをもらった俺は、それを握ったまま立ち尽くしていたのだが、ふと姉さんたちと目が合い、「……そういえば」と彼女らに尋ねる。



「どうして二人はここに……? って、いや、その前にお礼だよな……。さっきは助けてくれてありがとう、姉さん。雪菜さんも」



「べ、別に気にしなくていいわよ。弟を守るのはお姉ちゃんの役目だしね」



 ぷいっと恥ずかしそうにそっぽを向く姉さんに表情を和らげていた俺だったのだが、彼女は「それより!」とどこか怒っているようにこっちを指差して言った。



「お姉ちゃんは照に言いたいことがあります! なんで雫ちゃんと浮気したの!?」



「「えっ?」」



 言わずもがな、これに面食らったのは雫だけでなく俺も同じだった。


 つまりそれは俺が雪菜さんと事実上付き合ってる感じになっていることを知っているということだからだ。


 雪菜さんが自らバラすとは考えにくいのだが、こうやって二人でここにいる以上、それを姉さんに告げるくらい彼女を追い詰めてしまったのかもしれない。


 ……全部、俺の責任だ。


 俺がもっと自分の意思をはっきりさせていればこんなことにはならなかったのに……、と自分の情けなさに唇を噛み締める俺だったのだが、



「そんなの、そんなの彼女の湖ちゃんが可哀想じゃん!?」



「「「「……えっ?」」」」



 両目を〝><〟にしてそう声を張り上げる姉さんに、俺たち三人はおろか、何故かいきなり名前を呼ばれた湖ちゃん先輩も目を丸くしていたのだった。



      ◇



「え、湖ちゃんとは付き合ってないの!?」



「ああ。私はただ彼に相談を受けていただけでな。しかしそうか。確かに言われてみれば毎日の如く弟くんはアニ研に足を運んでいたからな。逢瀬と思われても仕方がないだろう」



 勘違いさせてすまない、と頭を下げる湖ちゃん先輩に、姉さんはどこかほっとしたように胸を撫で下ろして言った。



「な、なんだぁ~。じゃあ浮気じゃなかったんだぁ~。よかったぁ~。やっぱり雪菜の言うとおりだったよぉ~。うんうん、これで安心して雫ちゃんを応援出来るね!」



 と、親指を立てる姉さんだったのだが、



「そ、そうね……っ。ほ、本当によかったわ……っ」



「あ、あれ、雪菜……? な、なんか顔の血管が浮き出てるよ……?」



 びきびきと目の笑っていない笑顔で額に青筋を浮かべる雪菜さんに、さあっと血の気が引いている様子だった。


 と。



「ふむ、これはあれだね。もう正直に言うしかあるまい。というわけで、ひよりくん。お腹は減っていないかい? 美味しいお肉の用意があるのだが」



「お肉! 食べる!」



 ぱあっと子どものように目をキラキラさせる姉さんを、「よし、では行こうか」と湖ちゃん先輩が連れていく。


 そうして彼女たちの姿を見送った後、



「……で、どういうことかしら?」「……で、どういうこと?」



「ご、ご説明させていただきます……」



 俺は懇切丁寧に一から状況を説明させていただいたのだった。



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