47話 母親
そんな気まずい出来事がありつつも、本日のお勤めを無事終えた俺は、今日は姉さんが部活の助っ人で遅くなるんだったなぁとぼんやりしながら玄関のドアを開けたのだが、
「――おかえりなさい、あなた」
「……」
ぱたん、と二秒で閉めた。
あれ、おかしいな……。
俺、雪菜さんと結婚した覚えないんだけどな……。
疲れているのだろうかと目頭を押さえた後、そろりと再びドアを開ける。
「おかえりなさい、あなた」
「……」
いや、普通にいるし……。
何故……、と困惑する俺に、エプロン姿の雪菜さん(ポニーテール)が恥ずかしそうに頬を染めて言った。
「ご飯(私)にする? お風呂(私と)にする? それともわ・た・し?」
「え、えっと……」
あの、選択肢がないんですけど……。
いや、厳密にはあるんだけど、風呂場かベッドかっていうだけの話であって、どれを選んでも雪菜さんルートが確定するっていう……。
どうすりゃいいんだ……、と俺が顔を引き攣らせていると、
「――おー、おかえりー。雪菜ちゃん来てるぞー」
「!」
奥から母さん――小日向まひるがおせんべいを頬張りつつ姿を現した。
母さんは男勝りな雰囲気漂う女性で、いわゆる〝ヤンママ〟みたいな感じである。
父さんとは高校の同級生らしいのだが、母さんからの猛アタックで結婚したらしい。
ならば父さんもごりごりのヤンキーか番長タイプかと思いきや、意外や意外、がっつり俺タイプの陰キャだったりする。
何故そんな父さんに猛アタックしたのかは割とマジで不明なのだが、未だによく二人でデートしていたりするので夫婦仲はめちゃくちゃ良好である。
「いや、〝来てるぞー〟って……。今日は姉さん部活で遅くなるはずじゃ……」
そういう時は大体遠慮してうちには寄らなかったはずなのだが、もしかして予定が変わったのだろうか?
俺がそう小首を傾げていると、母さんが相変わらずぼりぼりとおせんべいを頬張りながら言った。
「いや、そうなんだけどな? なんか雪菜ちゃんが日頃お世話になってるからってわざわざ晩飯を作ってくれるって言うからさ。じゃあお願いしちゃおうかなって」
「あ、ああ、なるほど……。そういうことか……」
「ふふ、そうなの。まひるさんには本当によくしてもらっているし、私にとってもう一人のお母さんのようなものだから」
そう微笑む雪菜さんを、母さんが感極まったように抱き締める。
「くぅ~、泣かせること言うじゃないか。なんならもううちの子になっちゃいなよ。ほら、ちょっと頼りないけど照とかまだまだ余ってるしさ」
「!」
「あら、そんな嬉しいです。でも私がよくても照くんの気持ちもあるでしょうし、私がよくてもそれは彼が決めることというか……。私は全然構わないのですけれど」
じ、自己主張が強い……。
って、それよりもこれはまさか!?
「ほら、雪菜ちゃんも〝全然構わない〟って言ってるだろ? ならもう雪菜ちゃんでいいじゃないか。こんな可愛くていい子なんて二度と現れやしないよ?」
やはり外堀を埋める作戦……っ!
姉さんには〝妹が欲しい〟と言わせ、さらに母さんには〝娘が欲しい〟と言わせることで俺の退路を断つとは……。
さすが雪菜さん、抜かりがねえ……っ。
ぐぬぬ……、と俺が唇を噛み締めていると、雪菜さんがさらに追撃を入れてくる。
「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいです。じゃあ私、もっと照くんに好きになってもらえるよう頑張らなきゃですね」
そう、本気なのか冗談なのかはよく分からないけど健気さだけは伝わるタイプの返答である。
重くなりすぎず、さりとて軽くもない絶妙なセンスの切り返しだ。
「雪菜ちゃん……」
この状況でそんなことを言われてしまったら、もう健気な子大好きな母さんにはクリティカルヒット間違いなしで……。
「――よし、あたし決めたよ。雪菜ちゃんを全力で応援することにする。だから照、あんたはマジで気合い入れて雪菜ちゃんに相応しい男になりな」
「えぇ……」
あっという間に外堀が一つ埋められてしまったのだった。
てか、籠絡が早い……。
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