34話 修羅場の予感2
「なるほど。それでやむなく私のところに来たというわけか。まったく何ごとかと思ったよ」
「すみません……」
しゅんっと小さくなる俺に、湖ちゃん先輩は「やれやれ」と嘆息しつつも口元に笑みを浮かべて言った。
「だがまあこうして後輩に頼られるのは嬉しいことだ。たとえキミが私のパンツを覗き見していたとしてもね」
「……」
ば、バレてる……、と思わず意識が飛びそうになる俺。
そんな中、湖ちゃん先輩は意外そうに腕を組んで言った。
「しかしあの白藤くんがキミにぞっこんとはねえ。いよいよ我ら陰キャの時代が来たということか。いやいや、実に誇らしい限りだよ」
むふんっ、とその豊かな胸を張る湖ちゃん先輩に、俺は少々困惑しながら問いかける。
「あ、あの、それは一体どういう……?」
「うん? ああ、彼女はあの見た目だろう? 当然、私同様方々からのラヴコールが凄くてね。名だたる陽キャのイケてるメンズたちから狙われていたのだが、残念なことに誰一人として見向きもされなかったんだよ」
「え、そうなんですか!?」
てか、ちゃっかり自分も入れてる抜け目ないところは嫌いじゃないです。
「ああ。だからそんな彼女がキミに入れ込んでいると聞いて、いよいよ我らの時代が来たのかなと」
「なるほど。でも湖ちゃん先輩も雪菜さんに負けず劣らずの整った顔立ちをされていますし、結構モテてるんですよね?」
「ふむ、まあ確かに交際を申し込まれたことも多々あるのだが、私の家は色々と厳格でね。男女交際ともなれば結婚を前提とするのは当たり前。婚前の性交渉は一切禁止といったところなのだよ」
「えぇ……」
なんでそんな家の人がぴぴりんぷぷるんやってたんだよ……。
「!」
だがそこで俺ははっと気づく。
むしろそういう厳格な家の出だからこそ、こういうところでしか自分を解放出来ないのだろう、と。
「湖ちゃん先輩も色々大変なんですね……」
「はっはっはっ、まあ誰しも様々な事情を抱えているものさ。ところで私の家では〝恥じ〟というものを割と重要視していてね。婚前の女子が男に肌を見られた場合、切腹の如く嫁入りせねばならんという頭の悪いしきたりがあるのだが、それについては追々考えていくとしようか」
「……えっ?」
えっ?
◇
「ともあれ、だ。私的に考えてみたのだが、恐らくその鷺ノ宮くんはキミの〝性行為から始めるのはよくない〟という忠告を〝だからきちんと恋人として段階を踏んでからしよう〟という風に解釈してしまったのではなかろうか」
「な、なん、ですと……っ!?」
湖ちゃん先輩の見解に思わず言葉を失う俺。
え、そんなことある!?
俺はただ鷺ノ宮さ……じゃなくて雫(慣れないなこれ……)にもっと自分を大事にして欲しかっただけだぞ!?
なのにそんな……えぇ……。
「まあ〝言葉〟というのはなかなか難しいものだからな。上手く伝わらん時もあるだろうさ」
「いや、そうなんでしょうけど、でもタイミングぅ……」
ずーんっ、と両手で顔を覆う俺に、湖ちゃん先輩が「はっはっはっ、モテる男は辛いな」と慰めの言葉をかけてくる。
モテる男、かぁ……。
雫に関しては事情が事情なのでモテているのとは少々違う気がするんだけど、でも実際二股状態になってるからなぁ……。
はあ……、と嘆息しつつ、俺は湖ちゃん先輩に言う。
「これはあれですよね……? やっぱり雫に誤解だったってことを早々に告げるべきですよね……?」
「まあそれが無難だろうね。実際誤解なわけだし、そこを懇切丁寧に説明して納得してもらうしかあるまいよ」
「ですよね……」
でもなぁ……、と天を仰いだ俺の脳裏に浮かんだのは、先ほどの恥じらいつつもどこか嬉しそうに頬を染める雫の顔だった。
『……またあとでね』
「NOおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
い、言えるかああああああああああああっ!? と悶絶するようにアニ研の床を転がり回る俺。
そんな俺の情けない姿を見やりながら、湖ちゃん先輩は「うーん、青春だなぁ」と一人頷いていたのだった。
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