31話 上位互換
そんなこんなで雪菜さんのお母さんこと冬華さんが帰ってきてしまったので、二人の時間はここまでとなってしまった。
残念、と言えば残念なのだが、正直ほっとしている自分がいるのもまた事実だった。
これで鷺ノ宮さんにもきちんとお返事出来るからな。
やっぱり謝罪のためにえっちなことまでするのは間違ってると思うし、もう怒っていないということをちゃんと伝えてお断りしなければ。
うん、と内心頷いた後、俺は隣でぷくぅと可愛らしく頬を膨らませていた雪菜さんに言った。
「ほら、雪菜さん。そんな拗ねないでください。冬華さんだって別にわざと邪魔したわけじゃないんですし」
「分かっているわ。でもさすがにタイミングが悪すぎだと思うの。せっかく奥手な弟くんが狼さんになってくれるかもしれなかったのに……」
「うっ……。ま、まあそれはあの、また今度ということで……」
そう気まずげに視線を逸らす俺に、雪菜さんは「そうね」と悔しそうに親指を噛んで言った。
「その時のためにもちゃんと葉酸サプリを飲んでおかないと。あと基礎体温の計測も」
……うん?
あれ、それ妊活……、と俺が小首を傾げていると、雪菜さんが「ところで」と少々声のトーンを落として言った。
「どうして弟くんはお母さんを名前で呼んでいるのかしら?」
「えっ?」
いや、どうしてと言われても……。
「え、えっと、なんかあまりにもお若い感じだったのでつい……」
「そう。でもよく覚えておいてね、弟くん。もし弟くんが万が一にもお母さんルートに行ったその時は――私、ヤンデレ化するから」
「ヤンデレ化!?」
てか、その前に〝お母さんルート〟ってなんだよ!?
「そうよ。だってこんなにも弟くんのことが好きなのに、それを自分の上位互換みたいな人に盗られるんだもの。そんなのもうヤンデレになるしかないでしょう?」
「いや、〝ないでしょう?〟と言われても……。確かに冬華さ……お母さんは雪菜さんに似てお綺麗ですけど、でもさすがに〝上位互換〟ってことは……」
「それがあるから困るのよ。だって弟くん、あの人を私の従姉妹か何かと勘違いしていたでしょう?」
「え、ええ、まあ……」
たぶん一人っ子だと聞いていなかったら普通にお姉さんだと思っていたと思う。
「そのくらい若く見える上、胸もお尻も私より大きいし、年相応の余裕……つまりは〝大人の色気〟も持っているわ。ねっ? 完全に私の上位互換でしょう?」
「う、う~ん……」
出来ればはっきりと否定してあげたかったのだが、そう言われてしまうと確かにと頷いてしまうだけの魅力が冬華さんにあるのも事実だった。
むしろ毎日その魅力を目の当たりにしている雪菜さんだからこそ、現状では冬華さんに敵わないことが身に染みて分かっているのだろう。
だが……。
「……確かに冬華さんは素敵な女性だと思います。俺も思わず見惚れちゃいましたし……。でも俺の大事な姉さんの親友は雪菜さんだけなんです。それは冬華さんには絶対出来ないことで、その、ちょっと上手く言えないんですけど……と、とにかく雪菜さんじゃないとダメなんです!」
「!」
「だ、だからそんなに自分を卑下しないでください。俺にとって雪菜さんは十分魅力的な女性なんですから――って、うおあっ!? ちょ、雪菜さん!?」
いきなり抱きついてきた雪菜さんに一体どうしたのかと困惑していると、彼女は何かを堪えているかのように顔を紅潮させて言った。
「やっぱりしましょう、弟くん。私、今なら確実にあなたの子を宿せる気がするわ。いえ、むしろもう宿しているわ」
「ええっ!? お、俺まだ何もしてないんですけど!?」
「ならこれからすればいいわ。さあ、ベッドに行きましょう。今すぐに」
「ちょっ!? お、落ち着いてください、雪菜さん!? お、お母さんがいらっしゃいますからぁ~!?」
そう雪菜さんを宥めようとするものの、彼女はとっても乗り気のご様子で、それはもう過去一でぐいぐい来ていたのだった。
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