30話 いざ合戦の刻3


 いや、〝……すまぬ〟じゃねえよ!?


 そう内心突っ込みを入れるも、俺の身体はまるで金縛りにでも遭ってしまったかのようにぴくりとも動かなかった。


 恐らくはすでに俺の中の〝雄〟の部分が本気で〝雌〟となった雪菜さんを受け入れようとしているのだろう。


 よく「口ではそう言っていても身体の方は~」みたいなシーンがあるが、よもやそれを自らの身体で実体験することになるとは思いもしなかった……。


 本能とはなんと恐るべき代物か……。



「好きよ、弟くん……」



「雪菜さん……」



 そっと雪菜さんのひんやりとした指先が俺の両頬に触れてくる。


 この指の冷たさは緊張の証だ。


 きっと雪菜さんにとっても凄く勇気のいることだったのだろう。


 そんな彼女をここで拒否してしまったら、精一杯振り絞ってくれたその勇気も全て無下にしてしまうことになる。


 取り返しがつかないくらい彼女を傷つけることになってしまう。


 だから、だからごめん、鷺ノ宮さん……。


 あとで土下座でもなんでもするんで許してください……。


 そう心の中で謝罪する間も、雪菜さんの美麗な顔がゆっくりと近づいてくる。


 ああ、やっぱり可愛いなぁ……、とそんなことをぼんやり考えながら、俺たちの唇が重なろうとした――その時だ。



『――雪菜ちゃん、誰か来てるの?』



「「――っ!?」」



 突然のノックとともに女性の声がドアの向こう側から響いたのだった。



      ◇



「ふふ、お邪魔してごめんなさいね。玄関に男物の靴があったからつい気になっちゃって」



「い、いえ、こちらこそなんかすみませんでした……」



 未だ心臓ばくばくの俺にそう優しく微笑んだのは、雪菜さんに似た雰囲気を持つ20代半ばくらいの色香溢れる美女だった。


 スタイルも雪菜さんばりにグラマラスで、胸元にいたっては彼女よりも大きいというかなんというか……。


 とにかく凄かった。


 何度目を逸らそうとしても気づけば視線がそちらに行ってしまうほどだったのである。



「あら、私の顔に何かついているかしら?」



「あ、いえ、お、お綺麗だなと……」



「あらあら、うふふ。ありがとう。嬉しいわ」



「い、いえ……(照)」



「――弟くん(じろりっ)」



「ひえっ!?」



 ともあれ、あれから飛び起きるようにベッドから下りた俺たちは、不自然にならないよう努めて冷静に彼女を部屋へと招き入れた。


 もちろん俺がここに来た理由は成績優秀な雪菜さんに勉強(意味深)を教わるためである。


 しかし俺の記憶だと雪菜さんは一人っ子だったはずなのだが、もしかして従姉妹のお姉さんか何かだろうか。


 それなら年齢的にも説明がつくし……、と俺がそんなことを思っていると、件の美女が「それにしても」とどこか嬉しそうに言った。



「あなたが噂の〝弟くん〟だったのね。確かに雪菜ちゃんの言うとおり、優しそうな子で安心したわ」



「い、いえ、そんなことは……」



「ふふ。では改めまして。雪菜の母の冬華とうかです。よろしくお願いしますね、弟くん」



「は、はい。こちらこそよろしくお願いしま……って、お、お母さん!? え、従姉妹のお姉さんじゃないんですか!?」



 びくり、とショックを受ける俺に、冬華さんは「あらあら」と笑って言った。



「お世辞でも嬉しいわ。でもごめんなさいね、お母さんなの」



「えぇ……」



 この美貌で高二の子持ちとかどうなってんの……、という疑問もさることながら、先日姉さんが言っていた父さんの〝ふざけんなちきしょう!〟の意味がなんとなく分かった俺なのであった。


 てか、前に雪菜さん家に行った姉さんが「雪菜のお母さんすんごいおっぱい大きいの! しかも超美人! なんなのあれ!?」って騒いでたの思い出したわ。


 いや、マジでなんなんですのこれ……。



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