51話 合コン2


 というわけで迎えた合コン当日。


 俺たちは琴浦グループの経営する飲食店のお座敷で、男女向かい合うようにして席に着いていたのだが、



「デュフッ、せ、拙者湖子氏のオタ友にて、名を木村きむら太久郎たくろうと申す者でござる」



「同じくお嬢に呼ばれて来た、山下やました飛伊之助ぴいのすけだ。よろしく頼む」



 いや、人選ーっ!?


 堪らず頭を抱える俺。


 確かにね、俺は言いましたよ。


〝ご飯を一緒に美味しく食べてくれる、くまさんみたいな人〟だって。


 でもそれは別に〝メシを美味そうに食いそうな見た目のやつ〟と〝熊みたいな大男〟って意味じゃねえよ!?


 どういうことだ!? と抗議の視線を向ける俺に、湖ちゃん先輩はふっと微笑んでアイコンタクトを返してきた。



(すまん。私の交友関係だとこれが限界だった)



(いや、そんな全てを諦めたような顔で言わんでください……)



 と。



「あはは、じゃあ木村くんは〝キムタク〟くんで、山下くんは〝やまぴー〟くんだね♪」



 おい、やめろ。


 それはマジでやめろ。



「デュフッ、よ、よく言われるでござる」



「俺もだ」



 そしてよく言われてんのかよ……。


 てか、やまぴーの人は〝ぴー〟とかいう柄じゃないだろ……。


 まあ湖ちゃん先輩が連れてくるぐらいだから例の顔だけ怖い人なのかもだけど……。



「さて、とりあえず自己紹介も済んだことだし、質問タイムに移ろうか。一人一問ずつ異性に尋ねるんだ。じゃあまずは照くんからどうぞ」



 司会の湖ちゃん先輩がそう促してくる。


 ちなみに今の俺は女子たちとはまったく関係ない普通の高校生ということになっている。


 名字も〝小日向〟から〝鈴木〟に変更済みだ。



「え、えっと、じゃあ湖ちゃ……湖子さんに。す、好きな男性のタイプはどんな感じですか?」



 てか、なんだこれ……。


 めちゃくちゃ恥ずかしいぞ……。



「ふむ、そうだね。互いを尊重し、ともに笑い合っていけるような人かな。たまに男らしくぐいぐい来てくれるとなおよしだ」



「な、なるほど。ありがとうございます」



「うむ。では次にキムたっくん、どうぞ」



 キムたっくん……。



「デュフッ、で、ではそこのギャル氏に……。あ、あなたはもしかしてお、オタクに優しいギャルでござるか?」



「えっ? いや、まあ別に偏見とかはないけど……」



「ふひっ、ち、ちなみにお友達に黒ギャルなどは……」



「まあ一応……」



「おほっ!」



「……」



 ねえ、これなんとかして……、と泣きそうな顔で助けを求めてくる雫に、俺は(もう少しだけ我慢してください……)と内心土下座でアイコンタクトを送る。


 すると、やまぴーさんが姉さんを見下ろして言った。



「あんた、いい身体してるな」



「ぶふうーっ!?」



 堪らずウーロン茶を噴き出す俺。


 おいこらやまぴー!


 人の姉に向かってなんてことを言いやがるんだこの野郎! と横目で睨みを利かせていた俺だったのだが、姉さんはにぱっと嬉しそうに笑って言った。



「あ、分かるー? こう見えてあたし、結構部活の助っ人とか頼まれるんだー」



 ……えっ?



「だろうな。瞬発力に加え、柔軟性も人一倍と見える。さぞかし重宝されているのだろう」



「えへへ、ありがと~♪ そういうやまぴーくんも凄くいい身体してるよねー。何かスポーツとかしてるの?」



「いや、そういうわけではないんだが、今はお嬢のもとで土木関係の仕事をしている」



「へえ、そうなんだ。かっこいいね!」



「……(ぽっ)」



 おう、なんだこれ。


 なんでちょっといい雰囲気なってるんだよ。


 てか、それを見ていた俺の中に渦巻くこのもやもやとした黒い感情は一体なんだ!?


 ま、まさか嫉妬しているのか俺は!?


 ひぎいっ!? と思っていた以上に自分がシスコンだった現実を目の当たりにし、俺は色々な意味で死にたくなっていたのだった。



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