52話 合コン3
一時はどうなるかと思ったはじめての合コンだったが、その後は意外とつつがなく進み、席替えなども交えたことで段々とペアらしきものが出来るようになっていった。
現状姉さんはやまぴーさんと、雫はキムたっくん(この呼び方でいいのか……)さんと、そして俺は湖ちゃん先輩とペアになったような感じだ。
まあ俺たちはサクラだから別にいいとして、問題は雫とペアになったキムたっくんさんだった。
最初からその気がない雫とペアにさせるのはさすがに申し訳ないなと思っていたのだが、どうやら彼の狙いは雫ではなさそうなのである。
というのも、
「じ、実は拙者、一つ夢がござりまして、是非黒ギャル殿の尻と煮卵の違いを実際に確かめたく……」
「へ、へえー、そうなんだー……(白目)」
キムたっくんさんは黒ギャル好きらしく、しきりに雫から黒ギャルの情報を聞き出そうとしているというか、紹介してもらおうとしていたからだ。
まあ雫がどん引きしてさっきから白目剥いてるんだけど……。
ともあれ、本来の目的である姉さんに関しては、そこそこ楽しげにやっている感じである。
やまぴーさんも普通に純朴そうな人っぽいし、意外といいカップルになれるのではなかろうか。
「でもなんなんでしょうね、この寝取られ感は……」
ずーんっ、とテンション低めな感じで俯く俺に、湖ちゃん先輩がおかしそうに笑いつつ小声で言った。
「ふふ、まあひよりくんも同じような気持ちだったと思うよ? だから弟離れをする決心をしたんだろうしね」
「いや、まあそうなんですけど……」
ちらり、と当の姉さんを見やってみれば、やまぴーさんの胸筋をぺたぺたと触り、「何これすごーい! 仕上がってるー!」とボディビルの掛け声みたいなことを言っていた。
と。
「想像してごらん、弟くん。あの逞しい胸板に抱かれるひよりくんの姿を。あの角刈りと熱いキッスを交わすひよりくんのメス顔を」
「NOおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
ぱたんっ、とテーブルに突っ伏す俺を、湖ちゃん先輩がやはりおかしそうに笑う。
「はっはっはっ、キミは本当に可愛いね。白藤くんがキミをからかう理由がよく分かった気がするよ」
「それはどうも……」
「しかしあれだね? 今回はお試しのつもりだったんだが、思いのほか好感触じゃないか。なんならこのまま付き合ってしまいそうな感じに見えるよ」
「そうですね……。まあ、姉さんが幸せなら俺はいいと思います……。やまぴーさんも誠実そうですし……」
「やれやれ、その割にはふにゃふにゃじゃないか。景気づけにほっぺにちゅーでもしてやろうかね?」
「ええ、お願いします……。割とマジで……」
ちーんっ、と魂の抜けかけている俺に、湖ちゃん先輩は「ふむ、これは重症だな」と肩を竦めていたのだった。
◇
そんなこんなで女性陣が一度化粧室へと席を立つ中、俺はなんとか気を取り直し、彼女たちの第一印象を男性陣に聞いてみる。
「デュフッ、そうでござるな。拙者ギャル好きゆえ、好みということで言えばギャル氏なのでござりますが、拙者の好きなギャルはもう少しこう、いやらしい感じと言いますか、出来ればお乳のこぼれそうな黒ギャルお姉さまですとなおよしかと」
「な、なるほど……」
なんでもいいけど、注文多いなキムたっくん……。
ただまあえっちな黒ギャルお姉さまが好きだというその気持ちは大いに理解出来る。
「やまぴーさんはどうです?」
「そうだな、ひよりはいい女だ」
おうこらやまぴー。
人の姉をいきなり呼び捨てとは一体どういった了見だこの野郎。
びきっと俺が額に青筋を浮かべていると、「……だが」とやまぴーさんは表情に少々陰りを見せて言った。
「あいつはまだ高校生だ。それも卒業まで二年近くもある。ならば俺のような高卒の社会人といるよりも、同じ学校に通う男とでも付き合った方が幸せなのではないかと思う。共にいられる時間も短いしな。あいつの笑顔は好きだが、それを向ける相手はきっと俺ではない」
「……」
いや、もうあんたがもらってくれて構わねえよちきしょう……。
なんだこのかっこいい角刈りは……、とむしろ俺の方が惚れそうになっていたのだった。
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