19話 練習3


 うーん、と俺が一人難しい顔をしている間も女子たちの話はぐいぐい進んでいく。



「というわけで、私なりに考えてみた例を挙げてみるわね」



「お願いします!」



 大きく頷く姉さんに、雪菜さんは一本ずつ指を立てながら言う。



「まずは〝黒髪〟。これは外せないわね」



「その心は?」



「清楚で清い交際感があるからよ。それとも金髪ギャルメイクの〝パリピー♪〟みたいな方がいいかしら?」



「く、黒髪でお願いします……」



 姉さんが黒髪を選択したことに満足そうな笑みを浮かべ、雪菜さんは続ける。



「次に〝巨乳〟。これも外せないわ」



「な、なんでですか!? べ、別にお胸は小さ……控えめでもいいと思います!」



 いや、なんでちょっと泣いてるんだよ。


 姉さんの話じゃないだろ……、と俺が胡乱な瞳を向ける中、雪菜さんは言う。



「確かに慎ましやかなお胸でもいいと思うわ。でも巨乳の子ってなんだか雰囲気的に穏やかな感じがしない? まったりしてるっていうか。ほら、想像して。そんな母性的な子が弟くんを膝枕して頭を撫でてあげているの。〝男〟って感じがする?」



「し、しない……」



「なら答えは?」



「きょ、巨乳で……」



 ぐぬぬと唇を噛み締めつつ、姉さんが巨乳を選択する。


 なんか段々誘導尋問みたいになってきた気がするなぁ……。



「さて、ここまでで二つの条件が出てきたとは思うのだけれど、その前に忘れてはいけないのは〝年上〟であるということ。その理由はもちろん分かっているわね?」



「はい! 〝お姉ちゃん大好きっ子〟だからです!」



「エクセレント。正解よ」



「……」



 いや、〝エクセレント〟じゃねえよ。


 そして正解でもなんでもないわ。



「でもただの年上じゃダメよ。ひよりにとってはいずれ義理の妹になるわけだから、きちんと信頼を得ている相手でないといけないわ。けれど信頼なんてそう簡単に構築するのは不可能。となると、今の段階ですでに信頼を得つつある相手がいいわね。たとえば同級生や部活の先輩とか」



「なるほど。確かに顔見知りで人柄も知ってる人なら、あたしも安心して可愛い弟を任せられる気がするわ」



 そう神妙に頷く姉さんに、雪菜さんは「そうでしょうとも」と微笑み、こう告げた。


 いや、告げやがったのだ。



「じゃあ思い出して、ひより。あなたの心許せる人たちの中で、黒髪かつ胸が大きい女性は誰? その人が弟くんの彼女にもっとも相応しい人に違いないわ」



 さあ、呼びなさい。この私の名を、というような声が雪菜さんの方から聞こえてきそうなのはさておき。


 姉さんはすこぶる眉間にしわを寄せながら考えを巡らせる。



「あたしの信用出来る黒髪でお胸の大きい人……大きい人……あっ!」



 そこでついに気づいたらしい姉さんは、愕然と雪菜さんを見やり、そして言った。



「――陸上部の桜井先生(38歳独身)だ!」



「ぶふぅ!?」



 まさかの回答に思わず俺が噴き出す中、雪菜さんはがっしりと両手で姉さんの肩を掴み、威圧感を全開にして言った。



「違うでしょう? ひより。そうじゃないでしょう?」



「ど、どうしたの、雪菜……? な、なんか顔が怖いよ……?」



 ぎちぎちと肩を握り潰さん勢いの雪菜さんに、さすがの姉さんも戸惑いを隠せなかったようで、だらだらと冷や汗を流していたのだった。


 なお、桜井先生というのは姉さんがたまに助っ人を頼まれる陸上部の顧問で、元ハンマー投げの選手だったというごりごりのマッチョだったりするのだが、あれは巨乳じゃなくて胸筋なんじゃないかなぁ……。



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